お盆休み、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

弊社は暦通りの営業ですが、社員ごとに自由に3日間夏休み申請して取得してもらっており、また、クライアント企業さんもお休みが多いためか、普段よりも落ち着いた時間がとれたので、久しぶりにYahooニュースに寄稿をさせていただく事にしました。

最近、急にHRテック(HRTech)という言葉・テーマが話題になってきましたね。

私自身、2012年にHR×ITをテーマに起業・会社設立してから、ずっとスタートアップやベンチャー市場をウォッチしてきた自分としては、フィンテック、エドテック、不動産テック等、これまで様々なテーマが持ち上げられてきたものの、なぜか市場や課題が大きいにも関わらずHR分野は地味でアナログな存在として、なかなか注目が集まってこなかった中で、嬉しい気持ちで眺めていたりします。

私個人の活動としても、2013年8月からYahooニュースのオウサーとして、【IT/WEB×キャリアコンサルタントが語る「働き方3.0」】というタイトルを掲げてきましたが、ようやく時代がこのテーマに注目をし始めたとワクワクした気持ちです。

今回はこのHRテックについて、定義や可能性、注意点、転職エージェントであり、HRテック企業経営者でもある私末永の考察について書いてみたいと思います。

HRテックとは?

まずそもそもHRテックとはなんでしょうか?

日本の人事部によると、以下のように定義されているようです。

“HR Tech”とは、“HR(Human Resource)× Technology”を意味する造語。クラウドやビッグデータ解析、人工知能(AI)など最先端のIT関連技術を使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法のことです。新しいテクノロジーの導入は、採用やタレントマネジメント、リーダー育成、評価、給与計算、業務改善など幅広い領域におよんでいます。現状、サービスを開発し、市場を牽引しているのはベンチャーですが、米国ではすでに企業価値が10億ドル(約1000億円)を超えるユニコーン企業が登場するなど、巨大ビジネスに成長する可能性も期待されています。

出典:日本の人事部

平たく言えば、テクノロジーを活用して企業の人事業務課題を改善・解決するツールやプロダクト、技術等の総称といったところでしょうか。

HRテック企業の一例(アメリカ企業)

実際にHRテック企業というのはどういった企業やサービスなのでしょうか?

実際のプレイヤーを知った方がイメージが湧きやすいかもしれません。

アメリカ、シリコンバレーでも、多くのHRテック企業が存在しており、スタートアップやユニコーン企業も数多く参入しています。

  • Culture Amp

匿名性のエンゲージメント調査、従業員満足度調査、180度、360度フィードバックを含むオンライン社内調査を提供する。サーベイは産業・組織心理学者や統計学者により開発されており、より効率的で科学的な組織文化作りに役立つツールとして多くの企業に利用されている。

  • GlassDoor

利用者によって作られた企業の評価、CEOの評価、給与明細、面接での質問、オフィスの写真などの社員クチコミ情報サイト。

C向けには企業の内部情報や実態を見える化するサービスとなっているが、B向けにも、豊富なデータにより採用ブランディング支援サービスを行っている。

  • SmartRecruiter

250以上の膨大な求人サイト(LinkedInなど)を統合して、より一層採用担当者が候補者を探しやすいツールを提供。

  • Zenefits

給与計算・健康保険の管理など、人事業務を効率化してくれるオンラインツールを提供。

フリーミアムモデルとなっており、サービス利用は無料だが、利用企業の従業員向けに健康保険を販売しており、保険会社から販売手数料を得てマネタイズしている。

HRテック企業の一例(日本国内企業)

日本国内でのHRテック企業も、スタートアップを中心に次々と参入が増えている印象ですが、その中でも以下のようなサービス・プロダクトが割と注目されている印象です。

  • wevox

独自の技術を用いて組織の現状を可視化し、従業員のエンゲージメント向上をサポートするサービス。

  • Unipos

同僚から感謝の気持ちとして少額のボーナス「ピアボーナス」を送ることができるアプリ。

  • MOTIVATION CLOUD

リンクアンドモチベーションが独自に開発した組織診断サービスに回答するだけで、従業員の組織状態を可視化・数値化できるツール。

  • カオナビ

顔写真ごとに社員情報を管理できるクラウド型の人材管理・人事戦略・評価・育成支援ツール。「顔と名前が一致しない」という組織課題を解決しマネジメントに活用できる。

  • Geppo

社員の状況を定点モニタリングすることで、従業員のコンディション変化を発見できるサービス。サイバーエージェントとリクルートが合弁会社を作ってサービス提供している点が話題。

  • SmartHR

労務(入退社書類作成・保険手続きなど)を自動化してくれるクラウドソフト。

  • HERP

求人媒体の情報を自動で集約するAIを活用した採用管理ツール。応募があった瞬間に採用候補者は自動登録されるなど、採用管理における作業を減らす。

主には、HRテックが話題になる前から存在していた人事業務管理ツール系を中心に、新規社員の募集・採用系プロダクトと既存社員の定着活躍支援系プロダクトの3点が多い印象ですね。

HRテックが生まれた背景・理由は?

では、なぜこのようなHRテックが今注目を浴びているのでしょうか?

時代の流れや、価値観の多様化、労働人口減少による生産性など色々な要素があるのだと思うのですが、個人的には、人材が企業の競争優位を決める経営資源として重要性が高まってきた事がその一番の要因であると思います。

そうした中で、これまで以上に、労働者側の力がより強くなり、世の中の企業に対して働き改革を求める風当たりが強くなっていると思います。

その他にも、内需縮小により大手企業を中心とした成長率減少や労働人口の減少により、企業としても社員一人当たりに対する生産性を重視せざるを得ないといった事も大きな後押しになっている印象です。

また、一方で、スマートフォンデバイスの普及も大きな影響があると感じています。社員個人個人がスマートフォンを当たり前に持つ時代になり、会社携帯もいわゆるガラケーと呼ばれるフィーチャーフォンからスマートフォンに移行して、社員全員へ支給されているケースも当たり前になってきました。それにより、よりスムーズに、全社員の情報・データをインプットしたり、経営や人事サイドからもアウトプットを出しやすくなったというインフラ面の効果もあると考えています。

HRテックのメリット・効果

それでは、HRテックは実際に企業の人事面における課題を解決できるのでしょうか?

できるとしてどんなメリットや効果があり得るのでしょうか。

結論、一言でHRテックといっても、先に見てきたように様々な人事業務とその課題を扱うプロダクトがあるため、一概には言えません。

しかし、私はあえてシンプルに考えてみると良いのかなと考えています。

例えば、最近、多くの会社がLINEビジネスやSlackのようなコミュニケーションアプリを社内活用するようになっています。

以前はパソコン画面のメーラーから関係各社にtoやCCを入れる等したり、いちいちメーリングリストを作成した上で送信しなければならなかった時代から見ても、より効果的に、効率的に仕事を進められるようになっている事は少なくとも間違いないでしょう。

少なくとも、それと同じレベルにおいては、他の業務システムと同じく、人事領域における多くの業務が効率化されていくでしょうし、期待感を持って見守りたいと思います。

HRテックの課題・注意点

一方で今後HRテックが普及発展していく流れの中で、課題や注意点も多くあります。

Yahooニュース内に掲載されていた以下の記事によると、まだまだ普及はもちろんですが、導入を検討する側の企業・人事側の意識レベルとしても賛否はあるようです。

 HRテックの導入に対する意識調査としては、人事業務に関する業務のうち、「AIによる推奨研修の案内」や「性格診断結果に基づくAIによる相性による配置」は、「特に抵抗はなく、活用すべき」と「どちらかといえば抵抗はなく、活用すべき」を合わせて、25%以上となっている。(26.8%、25.4%)

 一方で、採用選考で応募書類の判定や採用面接の評価について、AIによる評価をその材料にすることについては、「特に抵抗はなく、活用すべき」と「どちらかといえば抵抗はなく、活用すべき」を合わせて、20%を下回った(19.0%、16.4%)

出典:働き方改革のIT活用、HRテックは消極的 | 「ワークエンゲイジメント」が働きがいを後押し――NTTデータ経営研究所の調査結果が発表

上記記事は、新しいプロダクトや技術が出てきた際に浸透度を測るためのよくある調査結果だと思いますが、今後HRテックが普及していく中で、私が感じているHRテックの課題は大きく2点あります。

  1. 市場が大きくセグメントごとに課題も大きく異なるため、サービスの棲み分け・整理が難しい
  2. 運用する現場のヒトの力の課題は解決されない

それぞれ詳細をお伝えしていきますね。

市場が大きくセグメントごとに課題も大きく異なるため、サービスの棲み分け・整理が難しい

HRテックのサービス・プロダクトは、既に前述した通り、昔からあった人事業務ソフト以外で、昨今参入や普及が増えている分野としては大まかに採用系ツールと、既存社員の定着活躍系ツールの2つがあると思います。

前者においては、そもそも採用系の課題はプレイヤーによって大きく異なるために、一部の事業者・企業のみにしか対応できないものも多いです。

例えば、大手有名企業においては、応募者が多すぎてスクリーニングコストが大きすぎるといった課題がありますが、世の中の企業の大半である中小企業にとっては、スクリーニングどころか、そもそもの応募数・母集団が集まらないという課題があります。

採用系のオウンドメディアが複数リリースされたり、wantedly、SNS、indeedのような流入チャネルが増えてきたという流れはあるものの、まだまだ自社で活用して、効果に繋げられている会社は少ないと思います。

そうした中で、そのようなHRテックのプロダクトやツールがリリースされたとしても、多くの企業にとっては、自社への流入自体がないという課題が先であり、それを解決する手段も、莫大な広告露出等ができる資本がないと現実的に難しいのです。

であれば、属人的であっても、自社に合った人をピンポイントに紹介してくれ、採用した場合にのみ費用が発生する人材紹介会社・転職エージェントサービスの方が、ツールやシステムを利用せずとも、そうした課題やニーズには答えてくれているといった事実もあります。(若干ポジショントークになってしまったでしょうか・・苦笑)

上記は、あくまで1つの事例ですが、このように企業によって、採用や組織の課題はカナリ多岐にわたるため、どの業界・企業規模でも必要とされる管理・労務的な側面における人事業務ソフトというジャンル以外においては、思ったよりも普及・導入が進みにくいといった課題があると思います。

もちろん、そうした課題もプレイヤーの増加・競争とともに、時間とともに解決されていくのだと思っています。

運用する現場のヒトの力の課題は解決されない

もう1つの課題についてですが、昨今増えているHRテック企業やプロダクトの多くは、採用広報・マーケティングのための解析ツールや、既存社員のエンゲージメント数値等のアセスメントやデータ解析系等、運用ツールが多いと感じています。

人材/HR分野だけでなく、デジタルマーケティングの世界でも既に多くの解析ツールが存在しており、こうしたツールベンダーが発展していく流れは実際あると思います。

ただし、どんな分析ツールも同じですが、分析するだけでは意味がなく、その数値から効果ある仮説を立てて、継続的に施策を運用・実行をやり切る事が、実際にビジネス上の成果・効果を生みます。

私自身は、これからのHRテックの本当の発展・浸透において鍵となるのは、実はテックの力ではなく、ヒトの力であると考えています。

つまり、そうしたテクノロジーを活用した上で、施策を実行・運用し続けるヒトの力です。

それは、現場マネージャーだったり、人事であったり、時には経営陣であったりすると思います。

米アマゾンやヨーロッパの製薬メーカー等、外資系大手企業では、企業単位ではなく、事業部ごとに人事が複数名内製・在籍しており、各人事メンバーが、事業部内のメンバー個々人の個性や動機づけ、目標などを把握しフォローしているそうです。

もちろんそうしたデータの把握自体は、HRテックのツールの成果とも言えるのですが、そこで把握した課題に対して、すぐに手を打てる体制こそが重要なのだと思います。

データが貯まれば貯まるほど、見える化された課題は増え、複雑化していきます。

その課題に向き合うヒトは、高度な問題解決、役割が求められていきます。

そうしたヒトが育ち、PDCAが正しく回る組織体制やカルチャー作りが重要になってくるのだと思います。

どんなテクノロジーが出てきても、それを実行・運用する現場のヒトの力がますます求められていくという事だと思います。

HRテック時代の転職エージェントの役割や価値はどうなる?

以前もAIの発展によって転職エージェントはどうなるのか?という記事を執筆しましたが、私自身、転職エージェント事業を行う会社を経営している中で、周りの人材業界・人材紹介会社の経営陣や社員の中でも、HRテックについての話題は尽きません。

・「転職エージェントは人工知能(AI)に代替されてしまうのか?」

私が勝手に思うHRテックの本質は、データの取得、データの共有、分析をよりスムーズに、より少ない工数で実現できるという事だと思います。

そう考えるならば、これからは転職エージェントという役割も、求人や企業、個人のキャリア情報などのデータのやりとり、媒介だけでは生き残っていく事は難しいと思います。

ヒトが故にできる事、つまり、転職者や企業により深く関与し、そのヒトや企業の態度変容を促し、意思決定に関与していく役割が求められていくのではないでしょうか。