Yahoo!ニュース

サイバーエージェントの転職者の出戻り制度「ウェルカムバックレター」は有効なのか?

末永雄大アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント

サイバーエージェントの出戻り制度

サイバーエージェントの藤田社長が日本経済新聞の電子版のブログで、退職者が会社に戻ってくる事を保証する「ウェルカムバックレター」制度を今年から導入している事を明らかにし、話題になっているようです。

「向こう2年以内は、元の待遇以上で出戻りを歓迎します」。サイバーエージェントの藤田晋社長は、日本経済新聞電子版のブログで、退職者が会社に戻ってくる場合の待遇を2年間保証する「ウェルカムバックレター」制度を今年2月から導入していることを明らかにした。

出典:退職者に「元の待遇以上で出戻りOK」を約束する「レター」送付、有効に機能する? 弁護士ドットコム 6月7日(日)11時58分配信

ユニークな人事制度を積極的に取り入れているサイバーエージェントへの転職人気は中途採用市場でも非常に高まっています。

普段から、実際に転職者の方から、サイバーエージェントは、どんなカルチャーや制度があり、どんな人を求めているのかとよくご質問いただきます。※こちらのサイトにもサイバーエージェントへの転職ノウハウが多く掲載されているので別途ご参考ください。

ただし、今回のサイバーエージェントの新人事制度については、上記で引用した弁護士ドットコムの記事中の神内弁護士の意見としては、「果たしてこの制度、誰がどう得するのでしょうか」と懐疑的な論調のようです。

そこで今回は、元サイバーエージェント在籍者であり、現役転職エージェントという立ち位置から、今回の「ウェルカムバックレター」制度が果たして、有効な制度なのか否かについて考察してみたいと思います。

誰にとっての有効性か

有効性について議論する上で、「誰にとって」という視点がまずは重要と思います。

今回の制度に関連する主体者は以下3者になるでしょうか。

  • サイバーエージェント
  • 現役社員
  • 退職者

それぞれを主語にして考えてみましょう。

まずは、サイバーエージェントにとってですが、1つめのメリットは今回話題になったように採用のPR施策になるでしょう。

もともと二駅ルールやジギョつく等、ユニークな人事制度を打ち出す事で、話題性を生み出し、学生や転職者に対して、人気を得てきましたし、今回もそうした効果は大きいでしょう。

実際に、弊社にもサイバーエージェントへの転職を希望する転職者が多くご登録にいらっしゃいますが、「なぜサイバーエージェントに興味を持ったのか?」と質問すると、他のインターネット企業に対しては、「webマーケティングを学びたい」等の専門性を得たいといった理由が多い中、サイバーエージェントに対しては、「チャレンジできるカルチャーと制度があるため」といった理由がほとんどです。

こうした1つ1つの新人事制度の打ち手を打ち続ける事自体が、サイバーエージェントの採用力を高めているわけです。

また、もう1つのサイバーエージェントにとってのメリットとしては、こうした制度がある事によって、どうせ辞めるのであれば、円満退社して出戻りパスを得た上で退職したいといったインセンティブになり、仮に退職意向があっても、現職の仕事に対して手を抜かず退職最終日まで頑張ってもらえたり、結果的に仕事が面白くなり、退職意向自体がなくなる可能性がでてくるかもしれません。

また、3つめとして、中途採用市場での実務経験者採用のコストを抑えられるというメリットもあるでしょう。

インターネット業界の実務経験者は転職市場全体の中でも非常に少なく、経験者であるというだけでも採用メリットは非常に大きいわけです。

自社内でも一定の評価を受けていた社員であれば、下手に未経験者で自社で実績のない人をコストと手間をかけて、ミスマッチリスクのある人を中途採用をするくらいならば、そういった元社員を採用する方が合理性があるでしょう。

また、既存社員にとっても、そうした寛容な会社のスタンスに共感し、ロイヤリティーが高まり、定着や活躍を促すといった効果も見込めるかもしれません。

私がサイバーエージェントの前に在籍していたリクルートも、出戻り社員が結構おり、採用してくれた人事マネージャー自身が面接中に「実は僕は出戻りなんだよ」と話してくれたりと、寛容で柔軟な会社なんだと内定者時代に自然と会社への愛着を感じていたという事がありました。

5つめとして、退職者にとっても、次の会社で万が一失敗してしまったとしても、戻れる可能性があるという安心感やインセンティブがあれば、退職後も、もともといた会社を悪く言う事は少なくなるのではないでしょうか。

上記、5点のメリットを見ても、少なくともサイバーエージェントにとってはメリットのある制度と言えるのではないでしょうか。

現役社員・退職者にとってのメリット

次に、現役社員にとってはどうなのか?という事ですが、

他の会社や業界へチャレンジしたいけれど、長年お世話になり愛着もある現職とサヨナラする事が、情緒的に寂しい、リスクを感じるといった退職時の不安や懸念は、多くの人にある感情と思います。

もちろん会社によっては、こんな会社二度と入りたくない!というケースもあるでしょうけれど、私が知る限り、おそらくサイバーエージェントについては、そこまでネガティブな感情で退職をするというよりは、新たに起業や転職を通してチャレンジしたいといった前向きな人がどちらかと言えば多いと思います。

今回の制度がある事で、実際に出戻るかは別にしても、そうした際の不安な気持ちを和げ、安心してチャレンジできるという人もいるのではないでしょうか。

また、退職者にとっても、次の転職や起業というチャレンジに失敗してしまうリスクも実際はあります。

サイバーエージェントに限らずですが、「辞めてみて、次の会社と比較してみて、初めて、元いた会社の良さや有り難みが分かった」という話は転職経験者の中でもよくある話だったりするものです。

そこで仮にできれば戻りたいと思ったとしても、実際は、気まずい気持ちが先行したり、そんな事できるわけがない、と思ってしまうものですが、会社自身が公に制度として保証してくれていれば、気まずい気持ちを緩和して、安心して復職するチャンスもできるというものです。

転職エージェントという立場から見ても、こうした制度を取り入れる日本企業が増える事で、今の職場に必要以上に囚われる事なく、起業や転職など新たにチャレンジする人が増え、日本の雇用の流動性が高まる事は、ビジネス的にも、日本が元気になってほしいと願う個人的な心情的にも、非常に望ましい事と思います。

アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント

青山学院大学法学部卒。新卒でリクルートキャリア(旧リクルートエージェント)入社。 リクルーティングアドバイザーとして様々な業界・企業の採用支援に携わる。東京市場開発部・京都支社にて事業部MVP/西日本エリアマーケットMVP等6回受賞。その後サイバーエージェントにてアカウントプランナーとして最大手クライアントを担当し、 インターネットを活用した集客支援を行う。2011年にヘッドハンター・キャリアコンサルタントとして独立。2012年アクシス株式会社を設立。代表取締役に就任。キャリアコンサルタントとして転職支援を行いながら、インターネットビジネスの事業開発や社外での講演活動等、多岐にわたり活躍する。

末永雄大の最近の記事