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仕事が忙しくて自己研鑽の時間が取れずに焦っている方へ〜インプットよりもアウトプットの時間が重要〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
自分の仕事が一番自分を傷つける・・・(写真:アフロ)

◼「自己研鑽」とは何か

人が成長していくためには、まずは仕事を通じて経験を積まなくてはなりません。その経験を「なぜうまくいったのか/いかなかったのか」等と内省して、そこから改善ポイントや応用できそうなノウハウなどの概念化を行う。そして、それを他の仕事でも実践して再び新しい経験を積んでいく。こういうサイクルを繰り返すことで、人は仕事から学んで成長していくのだと、「経験学習理論」(デイビット・コルブ)は主張しています。私たちの実感にも合う話です。「自己研鑽の時間がとれない」と言っても、それは「経験」なのか「内省」、「概念」、「実践」なのか。それにより対策は違いそうです。

◼「インプット」というと「勉強」のイメージ

一般的に「インプット」というと本を読んだり、研修を受けたり、最近だとYouTubeなどの動画を見たりすることで、何らかの知識を頭に入れていく「勉強」的なイメージがあります。知識とは上述の「経験学習理論」で言えば、まさに「概念」です。もし、これを「自己研鑽」として、「不足している」と思っているのであれば、私はそこまで悩む必要はないのではないかと思います。若い新人などであれば多くの経験を積めず、自ら知識を生み出せないため、知識インプットが必要ですが、管理職にもなれば日々の仕事で十分経験が積めているはずで、そこから知識を生み出すことができると思うからです。

◼既に自分の中に知識はあるはず

もちろん、管理職でも知識インプットはあればあるほどよいでしょう。しかし、その前に、これまで大量に経験したことを消化しているかということです。私がこれまで人事として接してきた無数の人たちの中に、良質な経験を多量に積んできているのに、知識やノウハウが積み上がっていない人がいました。例えば営業としてトップの成績を長年上げてきたのに、「どうすれば売れるのか」という知識を他人に説明することができないのです。しかし、彼らは実際に「売れる」わけですから潜在的な暗黙知としては「売り方」についての知識を持っているわけです。それを顕在的な形式知で表現することができないだけなのです。

◼形式知化できないと成長しにくい

このように「実践できる」ことと「説明できる」こととは違います。せっかく持っている暗黙知を形式知化できないことは、成長という観点からはもったいない状態です。形式知化≒意識化≒言語化ができれば、自分の知識を論理的に検証することができ、その不完全性や問題点に気づくこともできます。形式知化すれば人に伝えることもできるので、他者からフィードバックをもらって改善することもできます。それが言葉にできない暗黙知のままで持っていると、経験学習のサイクルは回らずに、なんとなく同じことは繰り返しできるのですがさらに進歩してはいかないというわけです。

◼不足しているのは「内省」することかも

つまり、既に大量の経験をしてきた管理職にとっては、不足しているのは「経験」でも「概念」でも「実践」でもなく、経験を「内省」することではないでしょうか。日々仕事に追われているということは、経験が積み上がっているのですから悪いことではありません。ただ、それらを振り返ることなく、記憶の倉庫にしまっていると、時間が経てば経つほど、せっかくの経験の記憶が薄れていくのです。経験の裏付けのないただの知識は所詮底が浅く、「実践」に適応できにくいものですから、そういう知識をインプットするより、自らの中にある知識に目を向け、内省することによって引き出していくことを優先してはどうでしょうか。

◼メンバーから質問攻めにあえば「内省」できる

しかも、日々忙しい管理職にとって、知識インプットはあえてプラスアルファの時間を作らねばなりませんが、「内省」はふだんメンバーに指導をする際に同時にでき、追加の時間は不要です。指導する際に、メンバーに遠慮なくガンガン質問攻めをしてもらうだけでよいのです。人はふだん無意識でやっていることを、あえて質問をされることで「そう言えば、これはどうすればできるのか」とか「なぜそんなことをしているのか」とか考えるようになります。これはまさに「内省」です。よく「最もよい学習方法は、人に教えることだ」と言いますが、それは教えることで内省やその結果の形式知化が進むからなのでしょう。

◼アウトプットに勝るインプットはない

結局、メンバーやクライアントや上司に対して、自分がやっていることや考えていることをアウトプットしていくことに勝るインプット≒知識の獲得≒成長はない、ということです。自分について考えてみても、本で読んだ知識などはあくまで補助的なものであり、自分の血肉となって仕事に役立っているものは、経験で身につけた暗黙知を形式知化したものです。また、自分で生み出した知識は、オリジナリティがあり、対象が変わっても適応できる力があり、経験を例に他者に展開していくことができます。こういう自分の中にある豊かなものを見ずに、外にばかり目を向けないでください。それこそ「灯台下暗し」ではないでしょうか。

OCEANSにてマネジメントの悩みに関する連載をしています。こちらもぜひご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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