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テレワーク時代こそ、組織内インフォーマルネットワークを強化すべき〜よいことずくめの万能施策〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「新卒同期」などからインフォーマルネットワークは生まれる(写真:イメージマート)

■コロナ禍で組織弱体化。どうする?

コロナ禍によりテレワークによるオンラインコミュニケーションが激増した昨今、組織が弱体化しているという危機感が経営者や人事担当者の中に生じています。強い組織を作る方法はいろいろありますが、最も基礎的で、かつ様々な効能があると思われるのが、組織の中におけるインフォーマルネットワーク(組織のフォーマルなマネジメントラインではない人間関係)を強化することです。

インフォーマルネットワークとは、上司・部下・同僚の関係でも、ビジネスプロセスの前後工程でもない関係、例えば、新卒採用の同期とか、同じ大学の出身者とか、社内サークルでの知人とか、様々なものがあります。これを意図的に強化し続けることで、組織の中に良い影響が生じることが多いのです。「強化する」というのは、簡単に言えば、相互理解を促し、良好な関係性を築く(要は「仲良くなる」)ことです。

■効果その1:組織の求心力向上

一つ目の効果は、組織の求心力の向上です。転職が当たり前になってきた現在の社会においては、誰もかれもが会社という存在に強くコミットしているわけではありません。個と組織の関係が、「会社と個人はフィフティフィフティであり、労働力の対価に報酬をもらっているだけであり、貸し借りはない」「たまたまタイミングや条件があって、今この会社にいる」というようなドライな関係性の会社も多いでしょう。

組織とは、社会に貢献する事業を展開するためのものとして存在しているものですから、そういう状態でも段問題があるわけではないとも言えますが、事業が立ち行かなくなるまで良い人材がポロポロ抜けるようなことは看過できないので、あまりにドライすぎる会社は問題です。

そこで効いてくるのがインフォーマルネットワークです。人と良好な関係を築きたいというのは本能に近いと思います。仲の良い人に囲まれた組織には愛着がわき、そこに所属することや、その組織を良くしていくこと自体も徐々に目的になっていきます。

■モチベーションにも、リテンションやメンタルヘルスにも聞く

「こういう仲間がいるから、自分は今ここにいる」「仲間と一緒に何事かを成し遂げたい」となれば、ドライな気持ちで組織や仕事に向かっている時よりもモチベーションも湧き、パフォーマンスも上がるし、組織に悪いところがあれば、それを他人事で非難したり、それを理由に離脱したりするのではなく、我が事として改善しようとするはずです。

そしてそれは、リテンションにも影響があります。お互いに愛着を感じている、仲間と思っている人が、その組織を抜けようとしている時には、その人を慰留するのがふつうです。人事や経営陣が知らないところで、例えば金曜日の晩、居酒屋などで「お前、もっとこの会社でやれることがあるはずだ。辞めずに一緒に頑張ろう」と激励し、口説いてくれるというわけです。

また、メンタルヘルスの向上にも効きます。社内にあまりネットワークを持たない人は、直属の上司との軋轢を起こしてしまうと組織には居づらくなりますが(それが世の中での転職の一番の動機)、フォーマルには利害関係のない知人や先輩が社内にいれば、いろいろ相談でき、悩みやストレスもある程度解消するかもしれません。

■効果その2:創造性の向上

二つ目の効果は、組織の創造性の向上です。イノベーションとは「新規結合」と言われるように、複数の何かが新しい結びつきをとることで、生まれることが多いです。アイデアや知識は、通常、個々人の頭の中にあります。これをミックスしようと思えば、アイデアを持った人同士が何らかの形でコミュニケーションを取ることが必要になります。インフォーマルネットワークはその「経路」となるのです。

例を挙げますと、近年は様々な会社で社内新規事業プランコンテストのようなものが行われていますが、成功しているところとそうでないところの差の要因の一つがインフォーマルネットワークではないかと私は思います。よく観察してみると、成功していない会社は、コンテストのために組まれたチームメンバーが、フォーマルな組織の枠内に収まっています。それでは、異質なアイデアが混ざらず、新しい発想は生まれにくいのではないでしょうか。一方で、成功している会社は、チームが「この人達、なぜ知り合いなんだろう」というようなメンバー構成になっていることが多いのです。インフォーマルにつながっているというわけです。そういうチームは異質なアイデアが化学反応を起こし、新しいものが生まれやすい土壌になるのでしょう。

■効果その3:採用力の向上

三つ目は、組織の採用力の向上です。インフォーマルネットワークの強い会社は、社員同士の社外の友人ともつながる可能性も高い。「類は友を呼ぶ」は真理であり、社員の友人には、自社に適した人も多いです。「先日、同期のあいつと飲んだ時に、一緒に来ていた人、すごく良い人だったな。うちのあのプロジェクトに声をかけてみようかな」というようなことが生じる可能性が高まっていきます。

また、このようなインフォーマルなネットワークによる採用が良いのは、元々ある信頼関係を社内にそのまま持ち込んでくれるからです。長年の友人が社内に入ってくれば、昨日知り合ったばかりの人よりも強い信頼関係をいきなり持つことになるということです。

■効果その4:コミュニケーションコストの削減

四つ目は、コミュニケーションコストの削減です。フォーマルなネットワークしか機能していない組織では、会議や社内広報でもたらされた情報のみが流通していきます。しかし、そういうものは得てして聞き流されたり、誤解されたり、そもそも重要な本質が抜けていて表面的な表現になっていたりと、必要な情報伝達がなされない場合も多いです。

インフォーマルネットワークが強いと、噂話的に「ここだけの話」と様々な情報が広がることがあります。もちろんこれは諸刃の剣で、言わば「社内バズマーケティング」をきちんとできないと、むしろ誤った情報を拡散することにもなりかねないので注意すべきです。ただ、日本の会社特有かもしれませんが、会社としては「こうとしか言えない」ことの本音を、インフォーマルルートで知ってもらって納得してもらうことができれば、うまく利用することもできるのではないかと思います(かなり難易度の高いやり方ではあり、良し悪し相半ばしますが)。

このように、インフォーマルネットワークを構築することで、組織が受ける恩恵はとても大きいのではないかと私は思います。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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