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辞めた社員をけなす上司や経営者は、社員から冷ややかな目で見られている〜若者も辞めるが会社も人を切る〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
辞めた人をけなしてはいけません。(提供:kagehito.mujirushi/イメージマート)

■会社を辞めることは「ふつう」のことになった

現代日本では既に会社を辞めて転職することはよくあるふつうのことになっています。かく言う私も5社に在籍した経験があり転職経験豊富と言ってもいいかもしれません。

例えば、総務省の「労働力調査」などを見ると、大卒新卒採用者の3年以内の離職率は約30%と数十年変わっていません。また、1年間の転職率(転職者数÷総労働者数)はここ10年ほど5%前後でこれもあまり変化はありません。

単純計算すると、10年間で考えれば転職する人は50%ですから、2人に1人は転職をしている状況です(もちろん同じ人が何回もしていることもありますが)。半分の人が行うことは、もはやふつうのことでしょう。

■しかし、辞めることはネガティブ視されている

過去、終身雇用で年功序列が当たり前だった時代の日本では、新卒で入社した会社を途中で辞める人は「落ちこぼれ」か「裏切り者」のような扱いを受けていたこともありました。しかし、今は上述のように転職が当たり前の時代です。

そうなると、未だ「昭和的」な雰囲気の企業ならともかく、会社を辞めるということに対する意識も変わってきているように思いますが、どうもそうではないようです。

以前、某メガベンチャー経営者が自社を辞めた社員を非難するような記事を書いて議論が起こったことがありましたし、人事担当者向けのセミナーでは「定着化」「離職をいかに抑えるか」をテーマとしたものが目白押しです。

基本的に、会社側からみると、辞めることは今でも決して良いこととは思われていません。

■日本の会社がポテンシャル採用をしていることが原因

私も経営者のはしくれなので気持ちは痛いほどわかります。というのも、今でも多くの日本の会社は、ポテンシャル(潜在能力)採用、つまり既にスキルのある人を採るのではなく、将来の成長を期待して採用しているからです。

そうなると、入社後しばらくは育成期間で教育コストがかかる一方で、報酬に見合った成果はなかなか出してくれません。そして、ようやく会社に貢献してくれるようになったときに辞められたのでは、たまったものではありません。

そういう背景を考えると、力をつけてきたら、さっさと会社を去る人に対して愚痴のひとつも言いたくなることでしょう。

■辞めた人の愚痴を在籍者に言うことなかれ

ただ、会社を辞めることを悪く言う上司のことを若者たちは冷めた目で見ています。辞めた人への愚痴は、まだ在籍している人に言うので、問題ないと思っていたら大間違いです。

彼らは「明日は我が身」と思って退職者のことを見ているので、上司の言う退職者への愚痴は、自分に向けてのものと考えます。「あいつは能力が足りなかった」「仕事のスタンスがなっていなかった」「そもそも社風に合わなかった」などと言えば、自分もいつかそんな風に思われるのかと気持ちが萎えてきます。

しかも、会社自体への問題には言及しないのであれば、「他責な上司」というレッテルを貼られてしまうことでしょう。

■若者も辞めるが、会社も人を切る

そもそも、過去の時代に、途中で会社を辞めることが良く思われていなかったのは、そういう「心理的契約」を結べていたからです。「会社は一生、君のことを面倒みるから、その代わり、会社のために粉骨砕身、頑張って貢献してくれたまえ」というようなものです。

しかし、バブル崩壊以降、数十年の間でのリストラなどのさまざまな出来事で、そんな「心理的契約」は嘘だということがバレてしまっています。いざとなれば、会社に切られてしまうかもしれないのに、個人が辞める、言い換えれば会社を切ることはなぜダメなのでしょうか。

「お互い様じゃないか」と辞める若者が自分を正当化するのは当たり前です。

■辞めた人ではなく、自分の至らなさを嘆くべし

一生面倒を見られない以上、どんな理由であっても個人が会社を「辞める」ということを非難する筋合いはありません。

もちろん、採った人、育てた人からみれば、残念なことであったり、もったいないことであったり、腹立たしいことであったりするでしょう。

しかし、人には非合理で、自分に不利なことでも、実行する権利があります。ある意味、タバコやお酒のようなものです。

人が辞めるときには相手側にある理由はコントロールできないのですから、次につながる反省は自社や上司としての自分が何かできることがなかったか、ということだけなのです。何事もそうですが、コントロールできることにフォーカスすべきです。

■愛のある忠告であれば、いつかわかってくれるかも

しかし、それでも、辞めていく(いこうとする)若者にモノを言いたいときもあるでしょう。

今辞めることが本当にその人のためになるのか、とか、このタイミングで辞めるのは周囲の人にとってあまりに義理を欠き、人としてそういうことをしても良いのか、とか。

それを、本当にその人のためを思って言うのであれば、嫌われようがどうなろうが、本人に直言すれば良いのです(残った他人に言うのではなく)。強い気持ちが裏にあるなら伝わるかもしれません。しかし、それでも、「親の心、子知らず」ですから、期待してはいけません。

私もそうでしたが、上司からの愛のある忠告は、何年も経って、自分が上司になってからようやくわかったものでした。間違っても「お前のためを思って言うのだが」などとは言わないほうが良いでしょう。

自分のために言ってくれたかどうかは、相手が判断するものですから。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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