Yahoo!ニュース

「管理職は一つの職務であり、偉いわけではない」と管理職が自分で言ってしまうと、なぜか受けが悪い理由

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「おれたち、上司になったけど、今まで通りの関係でいようね」(写真:maroke/イメージマート)

■最初に管理職になったときの失敗

初めて管理職になるというのは誰にとっても難しい経験です。私は32歳で最初に管理職になったのですが、そこでした失敗があります。

管理職になる前は、「部下でいちばんうえのお兄さん」だったわけですが、そのスタンスを管理職になったあとも続けようと思っていました。そこで「管理職になっても、今までと変わらずにみんなとはフラットに付き合いたいし、みんなも言いたいことはストレートに言ってくれ」と初めての会議でグループのメンバーに言いました。

初めて管理職になった若い上司が今でもよく言いそうな言葉です。ところが意に反して、それは不評だったようです。

■部下にそっけなくされる日々

管理職としての日々は、部下はたくさんだが上司はひとり、部下は団結するが上司は孤立する、を地で行ってしまいました。フランクに話しかけても、部下にはそっけなくされる日が続きました。

「フラットな職場や上司部下関係は素晴らしい」とシンプルに思っていた私には、一体何が悪かったのか、しばらくわかりませんでした。

それで、「なんであんなやつが上司になったのかと不満なのだろうか」とか、「急に偉くなってしまったので(そんなに偉くもないのですが)、どう対応してよいのか分からないのだろうか」とか、いろいろなことを妄想しました。

しかし、原因はそうではありませんでした。

■評価を「する側」と「される側」

あるとき、先輩上司と飲みに行った際、酔いに任せて、あまりメンバーとの関係がうまくいっていないように思うと、悩みを打ち明けました。

そこで上述のような自分のマネジャーとしての姿勢を話したところ、先輩上司は「そんなスタンスでは部下はついてこないと思う」とおっしゃったのです。

要は、上司と部下はいかに同志的な連帯感があったとしても、これまでの部下同士との関係とは違い、評価を「する側」と「される側」であって、その一線だけは消すことはできない。それなのに、君のスタンスはそれをなかったことのようにして責任放棄をしているかのように思われているのではないか、ということでした。

■評価をされる反感を一身に受けるのが上司

人間誰も、誰かを評価などしたくないし、されたくもありません。

しかし、会社を運営する限り、事業で稼いだお金を社員に報酬として配分せねばならず、そのため評価は誰かがしなくてはならない必要悪のようなものです。

それをするのが管理職です。

別の言い方をすれば、評価をされるという嫌な気分から生じる評価者への反感を一身に受けること、ベストセラーのタイトルを借りるのであれば、まさに「嫌われる勇気」を持つことが求められるのが管理職の責務なのです。

ある意味、そういう嫌な役目を担うことも高い給料をもらう根拠のひとつと言ってもよいかもしれません。

■好かれようとするから嫌われる

それなのに嫌われる役目を引き受けるべき人が、「俺はみんなの仲間だからな」と馴れ馴れしく言ってきたらどう思うでしょうか。

おそらく「人を評価するという神をも恐れぬ仕事の重さを軽く見ているのではないか」「フランクに振る舞ったからと言って、その重荷から逃れられると思っているのではないか」などと感じるのではないでしょうか。

初めての管理職になった当時の若い私は、そういう落とし穴に陥ってしまっていたのではないかと思います。本来は、「俺は上司になってしまったので、(悲しいかな)これまでのようにはみんなとは付き合えない」と示すべきだったのかもしれません。

■管理職がいやでも管理職「然」とすべし

近年では、管理職につくこと自体を良しとしない、偉くなることに興味がなく、偉い人に反感を持つ人も増えています。私もそうでした。

そういう人が、自分が管理職になってしまうと、どうしても「いや、管理職になりたくてなったわけではないし」「むしろ、スーパープレイヤーとして活躍したいのに」と恨み節を言いたくもなるのはわかります。

ただ、昇進を固辞しない以上、結局は自分で受け入れたことです。その恨み節は自分の中にしまっておくべきで、他人に、ましてや部下に言う話ではありません。管理職になることを決めたならば、「まさしく私は管理職である」と、管理職「然」と振る舞うべきなのです。

■二重人格を貫くのはとても難しい

無論、これは私のような不器用な人間からのおすすめです。日々部下とフランクに接しながら、いざというときには部下の生殺与奪の権を持つ者として振る舞い、それでうまくマネジメントができる器用な方であれば、そのようにする方がよいと思います。

しかし、人事コンサルタントとして、いろいろな会社の組織分析で、部下の皆さんが上司について思っていることを聞くと、うまくいっていると思っているのは上司自身だけの場合が残念ながら多いようです。

自分は役割によってキャラをうまく使い分けていると思っていても、部下は単なる「二枚舌」の信用できない人と思っているかもしれませんよ。

OCEANSにて若手のマネジメントについての連載をしています。こちらもぜひご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

曽和利光の最近の記事