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アスリートはどうすれば就活成功できるか〜金メダリストという最強のガクチカを持つ就活生の出現に際して〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
ボクシング金メダルの入江選手は、引退して就活生になります。(写真:アフロスポーツ)

■金メダリストという最強の就活生現る

昨日、オリンピックのボクシングで金メダルを獲得した入江選手(おめでとうございます!)が、表彰式直後の記者会見で引退、そして「就職」希望であることを表明されました。

こよなく愛する「カエル」に関連して「就職できたらいいんですけど、ちょっとなかなか就職先がネットで調べてるんですけど、出てこないので。ゲームが好きなので、ゲーム会社で就職したいと思います」とケロリと語った。(スポーツ報知より)

オリンピックを花道に引退というのはアスリートではよくあることですが、引退して就職するということなので、企業がアスリートを支援する形での就職ではなく、大学生である入江選手の場合は普通に「新卒採用」となると思われます。また、世界一となったボクシングも、まさに「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)になるのでしょう。

■スポーツに身を捧げてきた就活生はたくさんいる

これだけのことをした方ですので、彼女には企業から引くてあまたでアプローチがやってきて、実際にはふつうの就職活動をすることはないと思います。ですから、彼女にはまったく不必要だと思うのですが(というよりも単に私が話題に乗らせていただいているだけですが)、これから就職活動をされるという入江選手のようなアスリートの皆さんに僭越ながらアドバイスを考えてみたいと思います。

私自身は全くアスリートではありませんが(文弱の徒です)、アスリートの皆さんには採用などでたくさんお会いしてきました。

リクルート人事時代、当時のリクルートのアメフトチーム(現オービックシーガルズ)の人事側の採用担当をしていましたし、実際にオリンピック選手を面接して採用させていただいたこともあります。また、クリアソンというサッカーチーム経営会社のアレンジで、オリンピックメダリストや元Jリーガー、フットサル世界一の監督等々の半生についてインタビューしたこともあります。

他にも、ふつうに体育会などで頑張ってきたアスリートの皆さんの面接や採用はたくさん経験してきました。

■アスリートは面接では結構評価されにくい

そこで思うことは、彼らは、とてつもなくものすごいことをしていても、面接官など聞く方がちゃんと聞かないと、知らない人からは評価されにくいのではということです。その大きな3つの理由を対策も含めて述べてみます。

<理由1:謙虚すぎる>

まず、彼らは謙虚です。自分がやってきたことなどたいしたことではない。自分よりもすごい人はたくさんいる。こんな努力、こんな成果などまだまだだ、と考えています。アスリートの表彰インタビューなどを聞いても、そんなことをよく聞くと思いませんか。

でも、だからこそ彼らはあれだけ頑張れたのですが、採用面接の場面で「私はたいしたことをしてきていません」とだけ回答すると、ダメな面接官は「そうなのか、じゃあ、あまり評価できないな」となってしまいます。

アスリートがこうなってしまうには背景があります。彼らは自分の中での「当たり前水準」がとても高いのです。つまり、どれぐらいなら当たり前で、どこまでいけばすごいかというレベルが高いのです。当たり前水準が高いからこそ、無限の努力ができたのです。

対策は「自己評価を話すのではなく、やってきた努力量を具体的な数字で話す」です。自分にとっては「まだまだ」であっても、他人にとっては「どえらいこと」であるかもしれないからです。

<理由2:無意識でやっている>

次の理由は、アスリートは、身体にいろいろ覚えさせることが必要なために、「意識しなくてもすらすらできる」ように訓練していることです。

オリンピックを見ていても、あれだけの超人的な技をいちいち考えながらやっているわけはないのはお分かりになるかと思います。何度も何度も繰り返し練習して、心理学的に言えば「処理の自動化」を行っているから、無意識の無限のパワーを使って、さまざまなことを並行処理することで、あの技が出せるわけです。

ところが、これも採用面接になると逆効果が働きます。意識しないでやっていることを「話せ」と言われても、なかなか言葉にできません。考えないようにしてきたことを、意識化するという逆のことをしなければ言語化できないのです。そして「いや、ただ単にやるべきことをやってきただけです・・・」ぐらいの話になって、ダメ面接官は「自発性がない」「工夫がない」と評価してしまいます。

対策は「就活前に後輩や初心者に自分がやっている種目について教えてみる」です。自分でやる分には言語化する必要はありませんが、他人に教えるには必ず言語化の手順をある程度は踏まねばなりません。そして、「そこはふわっとやるんだよ」などと曖昧に指導すれば、初心者に「え、それってどういうことですか」といろいろ聞かれますので、そこでなんとか頑張って言語化してみてください。

<理由3:自責すぎる>

最後の理由は、自責性が高すぎる、あるいは素直すぎる、受容的すぎるということです。

スポーツとビジネスの最も大きな違いでもあると思うのですが、スポーツは厳格にルールが定められており、どんなスーパースターであっても、個人が勝手にルールを変えることはできません。

そうなると、厳密に決まった環境の中、自分でコントロールできることだけに集中していくことになります。「あのルールがああなればな」とか、コントロールできないことをあれこれ言っても意味がないからです。

ところが、ビジネスでは、今の環境は絶対ではなく、環境の方を自分に合うように変えていくことが求められる場合も多々あります。いつまでも「会社が●●だから」と愚痴っている人は出世できません。「なら、変えたらいいじゃん」でお仕舞いです。

このため、最近の企業の採用面接では「環境に対していかに影響を与えてきたか」「与えられたものを素直に『是』とするのではなく、疑ってみたり変えてみたりしてきたか」を評価しようとします。そうすると、アスリートの人が頑張ってきた自らのスポーツについての話をすると「与えられた環境の中で頑張ってきた『だけ』」に見えてしまうことがあるのです。

しかし、日本人で最初に大リーグに行った野茂選手や、サッカーで言えばカズ選手や中田英寿選手など、「枠組みを超える行動」ができるアスリートは世の中にたくさんいます。ただ、それがスポーツの話「だけ」しているとわからないだけなのです。

よって、対策は「スポーツの話以外もすること」そして「その中で、スポーツの話では現れにくい『環境への働きかけ』をしたことがないかを探すこと」となります。

■聞く方が上手なら対策など必要ありません!

さて、アスリート就活生の皆さんに対して、もしかしたら役立つかもと思い、こんな話をして参りました。少しでも参考になると幸いです。

ただ、本当は、アスリートだけではなく就活生全体に言えることなのですが、こんな対策など取らなくてもいいはずなのです。聞く方である面接官が上記のようなことを踏まえて、上手にアスリートの皆さんの人となりを聞き出せばよいだけだからです。

聞く方がうまければ、対策など取らずとも、皆さんが頑張るべきことを頑張ってさえいればいいだけです。聞かれたことを話すだけで評価されることでしょう。

しかし、残念ながら世の中には聞き出し方の上手な面接官ばかりではありません。ですから、もし、いろいろ頑張ってきたはずなのに、なぜか就活でうまくいかないというアスリート就活生の皆さんは是非一度本稿の対策を試してみてください。

アスリート就活生の皆さんの才能が埋もれてしまわないことを願います。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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