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採用面接で「学生時代に一番力を入れたこと」(ガクチカ)を聞いても、候補者をよく見極められない理由とは

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「学生時代に一番力を入れたことは、いろいろな人とつながりを作ることです!」(写真:アフロ)

■最もよく聞かれる質問「学生時代に一番力を入れたこと」

日本全国津々浦々で、新卒採用の面接で最も多く聞かれている質問は「学生時代に一番力を入れたことはなんですか?」だと思われます。

その人となりを知るのに、直近の大学時代の活動で一番力を入れたこと(多くの学生は、そう聞かれると、大学時代に挙げた「成果」、つまり、どんな場面で何をしてどんな結果を残したのかを述べます)を聞くことは自然で、「さもありなん」ですが、実は私はいろいろ注意して工夫して聞かなければ、うまく相手のことを理解できる情報が得られない「難しい質問」ではないかと考えています。本稿ではその理由を述べてみたいと思います。

■「成果」よりも、「習慣」を知りたい

本来、採用担当者は面接では何を知ろうとすべきでしょうか。

候補者が、自社が求めているポジションと似た様な仕事経験をしてきていることが多い中途採用においては、候補者の過去の業務上の成果自体を聞くことで、似たような状況で同じような成果を生み出せそうかどうかを判断することができます。

しかし、まだ就業経験がなく仕事とはやや異なる状況(ゼミなどの学業や、スポーツやアルバイトなどの課外活動)での何らかの成果を出しているからといって、そこで挙げた成果を根拠に、自社の仕事でも同じレベルの成果を再現できるとは言いきれません。

もう一つ深掘りして、「なぜ、その成果を出すことができたのか」、つまり成果を出すために彼/彼女が用いた自身の「習慣」(無意識でも自動的に生じる思考や行動のパターン≒性格、能力、志向)を聞かなければなりません。そしてその「習慣」が本当に根付いたものであるのかどうかを見極めなければなりません。

■「成果」だけではなぜ足りないか

「成果」だけを聞いているのではいけない理由の一つは、人間の能力は「領域固有」であるということです。純粋な意味での「論理的思考能力」というものは無く、「将棋における論理的思考能力」とか「経営戦略立案における論理的思考能力」などというように、個々人の論理的思考能力は何らかの領域に紐づいており、違う領域にただちに転用できるものではないからです。先に挙げたように「違う場面での成果」をそのまま鵜呑みにはできないということです。

次に、中にはもちろん例外はあるものの、そもそも学生の成果は「団栗の背比べ」(≒微差)ということで、それだけでは優劣をつけがたいということも理由に挙げられます。それを無理して優劣をつければ、ラッキーパンチで挙げた成果に騙されてしまいます。それぞれ力の入れ方も違うのに、同じスターバックスのアルバイトだとしても、売上を2倍にした学生と1.5倍にした学生とでは、必ず2倍にした人が良いのかは一概には言えません。

さらに言えば、「その成果は本当にその人の成果かわからない」からです。学生の言う過去のエピソードのほとんどは「チームプレイ」です。一人の力で成し遂げたことではなく、多くの人の力を合わせた成果であることがほとんどです。その中で、その学生は中心人物であったのかどうかを判断するのは大変難しい。周辺的な参加であったにもかかわらず、「あれは俺がやった」と吹聴する人は多いものです。

また、そもそも学生の本分は学業です。もう少し広く言えば、旅行や読書、映画、人との交友などなどを含んだ「インプット」です。インプットばかりしてきた人は必然的にアウトプット(成果)が少なくなりますが、そういう人はダメな人でしょうか。私はそうは思いません。むしろ、私は学生時代に大人顔負けの成果を挙げたようなピカピカに見える人が、インプットを途中で辞めてしまい、後で失速するケースが多かったと思います。

■「習慣」を知るためには「歴史」を聞く

では、「学生時代に一番力を入れたこと」≒「成果」の上記のような「落とし穴」を埋めるためには、どうすればよいでしょうか。それはその人の「歴史」(生育史)を聞くことです。「どういう環境で、どういう人や出来事に遭遇し、何を感じ、何をしてきたか」という「長期に渡る経験」(「短期間での派手な成果」ではなく)を聞くことです。

「習慣」というのは、一朝一夕には生じません。マルコム・グラッドウェルの言う「1万時間の法則」(超一流の人材は、基礎的な訓練を1万時間はやっているという経験則)を引き合いに出さなくとも、人が何かの習慣(性格・能力・志向等)を身に付けるには、基本的には長い期間が必要です。逆に言えば、なぜ「その人はそういう習慣を身に付けることになったのか」に対応するような生育史における経験がなければ、本当にその人がそのような「習慣」を持っているかどうかの信憑性は低いということです。

だから、学生には「こういう場面でこういう成果を挙げたので、こういう習慣を持っている」だけではなく、「こんな風に生きてきたので、こういう習慣を持つことになった」という「習慣を形成した経験」を聞き出したいものです。

■人は「思春期」に自分の基礎が作られる

以上、「成果」だけでなく「歴史」を聞きましょうという話をしてきましたが、考えてみれば当たりまえのことです。学生に「自分という存在の特性が形成された時期、一番環境の影響を受けた時期はいつですか」とよく質問するのですが、その多くが「中高生時代」すなわち「思春期」と呼ばれるような時代を挙げます。であれば、採用担当者として、その人となりを知るには聞いておきたいと思いませんか。グループ面接などでは特に個人のプライバシー等にも配慮せねばなりませんが、人となりをよく知りたければ、やはり「歴史」(生育史)です。是非いろいろ聞いてみてください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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