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最強の採用チームを作るために〜採用担当者の2タイプをうまく配置しましょう~

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
熱い人も、冷静な人も、両方とも必要です。(写真:アフロ)

■採用担当者の2つのタイプ

採用担当者には大きく分けて「ジャッジ」(自社の仕事や文化への応募者の適性を判断する業務)と、「フォロー」(応募者に自社の魅力を伝えて志望度を高める業務)という2つの業務があります。この2つの業務のどちらが得意かによって、良い採用担当者も2つのタイプに分けられます。会社の採用課題に応じて、この「ジャッジがうまいタイプ」(以後、ジャッジタイプ)と、「フォローがうまいタイプ」(以後、フォロータイプ)のどちらがより必要なのかが決まります。

■冷静な「ジャッジタイプ」

人を評価するには、冷静に客観的に相手を見ることができなくてはなりません。誰もが、いろいろな先入観や思い込みを持っています。これまでの人生経験で出会った人々のイメージから生じる「偏見」があり、「こういうタイプの人は、これまでもこうだったから、きっとこんな人だろう」と考えるのが普通です。

しかし、目の前の人を過去のタイプに当てはめて「こんな人だろう」と決めつけてかかる人は、ジャッジに向いていません。採用力を高めるジャッジ者とは、「わかりにくい人」を見抜ける人です。普通の人であれば、「こんな人だろう」と偏見で判断するところを、事実のみから判断して、良いところを見出す力があれば、他の会社では採用できないような人を見出すことができます。

■人を表現する力も重要

また、面接などを通して得た応募者の情報をきちんと分類整理して、最終選考者等の上位選考者にきちんと伝える説明能力、表現力も重要な特性です。やっと見出した「わかりにくい人」は、わかりにくいが故、上位選考者にどんな人かを的確に伝えなくてはなりません。せっかく見出した人が次回選考以降であっさりと落とされてしまうからです。

説明能力は、「人を表現する語彙力≒性格や能力や志向などの分類フレームや言葉をたくさん知っていること」や「人という曖昧なノイズだらけの存在から取捨選択を行って、その本質となる特性を抜き出せる構造把握能力」、「その人の持つ特性の間の関係性などを論理的に繋ぐことができる力」などから成り立ちます。

上記をまとめると、ジャッジタイプとは「クールでロジカル」な人と言えます。

■熱い「フォロータイプ」

人を口説くという業務に長けるためには、人から信頼される力や、人の心を動かすことのできる情熱を持っていなければなりません。人はされたことを返そうとする特性(返報性)を強く持った生き物です。信頼されたり、期待されたり、愛されたりすれば、自分も相手に対して、信頼して、期待して、愛そうとするものです。だから、信頼や期待を、応募者に対して抱くことができるかどうか、それが応募者から信頼され、期待されるための採用担当者(フォロータイプ)の必要条件です。

■優しい人ほど口説けない

人の人生に対して影響を与えてしまうことに対する覚悟を持てることも大事な特性です。人を口説くことは責任の重い業務です。あの時、応募者に影響を与えることがなければ、きっと違う人生を歩んでいただろう。そういう重い仕事を引き受け、極端に言えば一生背負っていく覚悟があるかです。私も20年たっても採用に関わった方々との関係は切れません。長い間離れていても人生の節目でひょっこり出会うなど、関係は続きます。

ところが、実は、前述のような優しく誠実な人であれば、相手を気遣うあまり、この「覚悟」が持てないことも多い。人生選択の重さをわかっているからこそ、相手の人生に責任など持てない。だから、安易に口説けないのです。そういう担当者は、自分に責任が及ばないように、客観的事実ばかりを提供し、「選ぶのはあなたです」と応募者を突き放すことがあります。そうすることが、誠実な行為と考えているからです。

■人を口説く覚悟ができるか

しかし、私は、人が人と出会った際に、どんなに気を付けたとしても、影響を与えずにいることなど不可能であると思います。むしろ、そのように多少なりとも影響を与えているのに、「私は影響を与えていない。選んだのは相手だ。だから、相手の人生には何の責任も持ちません」という態度の方が不誠実ではないかと思います。もちろん、口八丁手八丁で、だますように人を口説いて、誤った道に誘い込もうとしているのであれば、論外です。しかし、自社の将来に「本当に」希望を抱いていて、応募者に適性を「本当に」感じているのであれば、口説く勇気を持ってもよいのではないでしょうか。

これが私の思うフォロータイプの特性ですが、ジャッジタイプとの対比で言うなら、「ホットでエモーショナル」な人と言えます。

■採用課題によって適したタイプを考える

自社の採用課題が、多数の応募者の中から適性の高い人材を厳選することにある企業(応募者が多い人気企業や、わかりやすいスペックや筆記試験などで測れる能力で採否を判断しないようなポテンシャル採用重視企業など)であれば、ジャッジタイプの採用担当者の必要度が高くなります。一方、採用課題が、見つけ出した適性の高い人材を、入社してもらえるように口説くことにある企業(自社の採用ブランドで来る人材以上の「分不相応な採用」をしようとしている企業や、辞退率の多さに悩んでいる不人気業種など)であれば、フォロータイプの採用担当者の必要度が高くなります。

難しいのは、この2つの力がなかなか同一人物の中には存在しないところにあります。もちろん両者の側面を併せ持つスーパー採用担当者もいると思います。しかし、実際にはどちらかが強くどちらかが弱いのが通常です。ですから、採用担当者を選ぶ際には必要な特性をあれもこれもと欲張らず、自社の採用課題の優先順位を見極めた上、どちらかのタイプの能力が突出した人材を採用担当者として配置することをお勧めします。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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