■経営者は「内定辞退」が大嫌い

以前、万単位のプレエントリーがあるような人気企業の人事の方とお話をしていて、ある嘆きを聞きました。

その時は、私の一番の得意領域である「攻めの採用」についてお話をしていました。自社の現時点での採用ブランドでふつうに来るファン層だけではなく、こちらに見向きもしないような優秀層を狙ってこちらから攻めていくような採用活動をしていかないと、いくら御社といえども徐々に採用の質が下がっていくのではないですか、というようなよく言っていることを話し、その人事担当者の方もご納得していただいたようなのですが、最後の方に苦悩の表情でこうおっしゃいました。

「おっしゃるような攻めの採用は是非やってみたいです。しかし・・・それを実行すると、引く手あまたな優秀な人にアプローチできてしまうので、内定辞退率や入社後の転職率などは上がりますよね・・・。それだと、うちの経営者は評価しないでしょうね・・・」

つまり、内定辞退率や転職率などの「低さ」こそが採用成功を表す指標と、その経営者は考えている(ということが言動の端々に見られる)ということでした。人事ご担当によれば、おそらく「うちのような会社を辞退したり辞めたりするような人はけしからん。なぜそのような人を人事は採ったのだ!」というようなプライド(それ自体は問題ではないと思います)ゆえの怒りなのではないかとのことでした。しかし、果たして、その怒りは正しいのでしょうか。

■内定辞退率は下げるだけなら簡単、重要なのは「採用競合がどこなのか」

結論から言えば、私にはその意見にあまり賛同できません。内定辞退率や転職率はもちろん低ければ低い方がよいように思えますが、実は数字だけでは評価しにくいものです。率の高低だけではなく、その中身が重要です。例えば、内定辞退率は下げようと思えば簡単で、自社のファン層だけ採っていれば下がります。ファン層だけが来るようにするには、面倒くさいハードル(手書きの履歴書や、長時間のイベントへの参加等々)を連発すればよいだけです。

しかし、ロイヤルティが高いこと自体はとてもよいことですが、悲しいことにファン層よりも非ファン層の方が優秀なことが事実としては多いため、そういう採用をしていては、採用レベルは下がることが多いです。逆に、攻めの採用をして、非ファン層の優秀者にもアプローチをすれば、優秀層は引く手あまたですので、敵も強いため、それだけ辞退率は当然ながら高まります。

私見ですが、結局、内定辞退率は、数字だけではなく、「どこと戦って負けたのか」が重要です。同業他社しか競合がいない場合は、あまり攻めていないと思われますし、異業種のトップ企業などと競合する場合は、かなり攻めている採用だと思ってよいのではないでしょうか。

そういう構造があるのに、辞退率が高いこと「だけ」で叱責したり、最重要指標として改善=低下を至上命令として出したりしてしまえば、採用担当者は泣く泣く従わざるをえません。辞退率は顕在的ですぐわかるものですが、攻めた方が良い人が採れるということが証明されるのには時間がかかるからです。「証拠を出してみろ」と言われてしまっては、「5年待ってください」とは言えないでしょう。

■それなのに辞退率を最重要指標とすると採用力が下がる

経営者がこのように「何が採用の成功を示す指標なのか」をわかっていないと、結果として自社の採用力を下げる行為を採用担当者に強いることになってしまいます。もちろん、経営者としては、動機は善だと思いますし、内定辞退をされるということは経営者にとってはまるで自分を否定されたような気分になることでしょう。しかし、本当は採用活動では、そういう感情的な部分を乗り越え、「攻めて」「その結果強い敵と戦い」「負けて前向きに倒れる」という苦い経験を一定数しなければなりません。

極端な言い方をすれば、採用活動の成果は粉飾できます。要望された人数や属性さえ揃えておけば、実はそれほどよい採用ではなかったとしても、すぐにはばれません。良い人を選考プロセスの途上で落としたり、逃がしたりしていても、別れた人は永遠にわからないので、それもばれません。そのため、結構本稿のような状態(表面的な内定辞退率「だけ」を下げようとしてしまっている)の会社は多いように見えます。

しかし、それでは、採用力は減退し、会社の将来は暗くなっていく(少なくとも人材採用の上で)ように思います。心ある採用担当者の皆様におかれましては、経営者や人事責任者に対して、使命感を持って説明責任を果たし、本当に採用成功を測る方法を示すべきです。また、経営者や人事責任者の側も、採用活動をブラックボックス的に見て、表面的なわかりやすい指標に一喜一憂するのではなく、常に「自社のポテンシャルを最高度に発揮した採用ができているのか」を、中身を見に行く(実際に採用活動に参加したり、内定者や内定辞退者と話をしたり、等)ことで、採用の成否を判断する目を持つことが必要ではないでしょうか。