Yahoo!ニュース

本当に多い「聞けてない」採用面接担当者。最も多いパターンとは。

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「あー、そうそう。たぶんそう。知らんけど」「聞いてますか?」(写真:アフロ)

■面接トレーニングで評価が擦り合わないのは日常茶飯事

人事コンサルティングという仕事柄、私は人事採用担当者の方々やリクルーター、面接担当者の方に対して、採用面接のトレーニングをさせていただく機会がたくさんあります。

「生身」の学生さん達をお招きして、参加者の方々に実際に面接をしていただく。そして、お互いにすり合わせをしないままで評価をつけていただくと、たいがいの場合(これまでは100%)、参加者の評価はちょくちょく割れます。ある人を高く評価する人もいれば、低く評価する人もいる。面接という選考方法の精度の低さ(研究がいろいろあります)を知っている人からすれば当たり前の現象と思えるでしょうが、当の面接担当者の方々にとってはショックな出来事です。なぜ、こういうことが起こるのでしょうか。

■具体的な根拠なく評価をしていることが多い

その後、学生1人ずつに対して「なぜ、そういう評価をつけたか」について、全員でディスカッションを行います。そこで私が皆さんに注文をつけるのは、必ず、「こういう聞けた事実に基づいて、こういう見立てや評価を行った」という「事実→評価」というセットで説明をしてほしいということです。すると、本当に多くの面接担当者が、「事実なし」で評価をしているのがわかるのです。

面接担当者

「この学生はなんだか内向的で人に対して積極的じゃないように思いました」

「それはどういう事実から、そう思えたのでしょうか。何かそれを示唆するエピソードはありましたか」

面接担当者

「・・・」

もちろん、無意識に入ってくる様々な情報を人はきちんと情報処理していますので、印象というものはまったくランダムで適当なものではありません。おそらく何らかの事実(過去のエピソードだけではなく、面接の場での表情や姿勢、服装なども事実です(というより、過去のエピソードは、本当は事実そのものではないですが・・・)から判断したのでしょう。

■事実ベースに評価しなければ、バイアスの餌食になる

しかし、人の心には「バイアス」(偏り、傾向)というものがあります。例えば、類似性効果と言って自分に似ている人に好意を抱く傾向があったり、ハロー(後光)効果と言って飛びぬけた良い特徴のある人は、その他の要素についても高く評価する傾向があったり(卑近な言い方で言えば「ただし、イケメンに限る」。福山雅治なら何をしても格好いい、みたいなものでしょうか)します。

そういうバイアスからはなかなか人は抜けられないものですが、はっきりと意識していれば少しは抵抗できます。しかし、上記のように、自分の評価や判断が何から来ているのか意識できていなければ、抗うことは極めて難しいです。ですから、面接担当者は「自分はなんの事実から、相手をそういう風に判断したのか」ということについて、神経質なぐらい意識をすべきだということです。それができていない。

■コミュニケーション能力が高いから、事実が聞けない

「事実を聞く」などということは、極めて基本的なことだと多くの方が思われるでしょう(しかし、くどいようですが、本当にできていないのですが)。

それができない理由にはいくつかパターンがありますが、最大の理由は、面接担当者が「一般的な意味」で「コミュニケーション能力」が高いということです。「一般的な」と言うのは、日常的なビジネスシーンで求められるコミュニケーション能力と、面接とでは正反対とまでは言いませんが、かなり違うものが求められるということです。

例えば、「コミュニケーション能力」の高い面接担当者は、応募者が話す内容について、想像力をきちんと働かせて「たぶんこういうことなんだろうなあ」とイメージします。しかし、それがダメなのです。面接では、「相手が言っていないことは、聞いてない」が鉄則です。言ってもいないことを、勝手に自分の想像で埋めてはいけません。

■相手が言っていないことを「察する力」が邪魔をする

日本的文化の中では、ふだんは、「みなまで言わずともわかる」「一を聞いて十を知る」「あうんの呼吸」「空気を読む」などと、「言っていないことを、想像する」ことが貴ばれます。しかし、人を評価する面接でそれをしてしまうと、相手を過大評価したり、過小評価したりしてしまいます。

面接担当者は、いくら聞かなくとも想像がつくと思えるような話であっても、きちんと応募者に話させないといけません。「それは具体的にはどういうことですか」「なぜそういうことをしたのですか」「それをもう少し詳しく説明してくれますか」等々。日常的にそういう質問を繰り返すと「くどい」「ものわかりの悪いやつ」などと言われます。

■面接担当者は「ものわかりが悪い」ぐらいがちょうどいい

しかし、面接担当者は「ものわかり」が悪くなくてはならないのです。相手の言うことを鵜呑みにして、簡単に納得してはいけません。こういうことを以て、私は「面接担当者はバカになって聞け」と言っています。「ああ、それね。わかる、わかる。あれでしょ」と、言いたくなるところを、「へえ、そうなんですね。それってどういうことなんですか」と、わかっていても聞かなくてはならないのです。

「能ある鷹は爪を隠す」ではありませんが、知っていることも、知らないそぶりで聞かなければ、結局、自分の相手に対する印象を強化させるだけのことになってしまいます。このことに気を付けるだけでも、面接の精度はかなり高まるのです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

曽和利光の最近の記事