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「使命感」で働く人と「モチベーション」で働く人のどちらが信頼できるプロフェッショナルなのかは明らか

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「あー、なんかやる気でねえ」「俺のモチベーション上げてくれないかなー」(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

■社員のモチベーションが全然上がらない

よく職場で使われている「モチベーション」とは「意欲」や「動機づけ」などと訳されています。モチベーションが高いと、行動が促進されて成果につながるのだろうかという考えにより(自然な考えですが)、この数十年、社員のモチベーションを上げるために、あれこれ試行錯誤がされてきました。

仕事が面白くなるような工夫をしてみたり、ほめてみたり、お金を与えてみたり、昇格させたり、一体感を醸成したり、権限移譲をしたり、理念を浸透させたり、安心して仕事ができるように福利厚生を整備したりというようなことです。

しかし、あらゆる企業が社員をモチベートしようとして何年も立ちましたが、未だに「どうやって社員のモチベーションを高めるべきか」と悩んでいるのはどういったわけなのでしょうか。

■モチベーションは短期的なもの

もちろん、高いモチベーションを持った人は、エネルギッシュに行動を行うことができ、その結果成果が出やすくなるというのは事実でしょう。しかし、モチベーションは能力やスキルなどとは違い、上がったり下がったりするものです。何らかの施策を打って一度モチベーションを高めたら、その後ずっと落ちないというものではありません。

そのため、モチベーションに頼って社員のパフォーマンスを生み出そうとすると、モチベーションをずっと気にし続けなくてはならないことになります。一度、パフォーマンスを上げるためにそういったカンフル剤に頼ったとしたら、その後、ずっと薬が切れるたびにカンフル剤を打たねばならないようなものです。

■人はすぐ刺激に慣れてしまう

しかも、人間は、「馴化」と言って、どんな刺激にも徐々に慣れていき、その効能は薄くなっていきます。そうなると、モチベーションアップを画策するような様々な施策による刺激は、その強度をどんどんアップしていかなければ、同じようにモチベーションが上がっていかないことになります。

ところが、昇進にしてもお金にしてもほめるという行為にしても、すべて限界があります。どこまでも強度をアップしていくわけにはいきません。それが、モチベーションをあげようと頑張ってきたのに、いつかはまたモチベーションが低下してしまう企業がほとんどという状態が起こる背景なのです。

■リモートワークで社員をモチベートしにくくなった

しかも、昨今のコロナ禍によって各社でリモートワークが急速に増えたことで、モチベーションアップの手法のバリエーションが減っています。接触の機会が減ったので、上司は部下を観察することもできず、タイミングよくほめたり、成果をあげるためのサポートをしたりすることもできません。

雑談をして相互理解を促進し、一体感も作ったり仲良くなったりすることも難しくなっています。こういう状況では、従来どおりモチベーションに頼って部下のパフォーマンスを上げようとするのはやや無理が出てきているように思います。しかし、そういうやりにくい方法を後生大事に使い続ける必要はあるでしょうか。

■できる人は「モチベーション」など気にしない

そもそも、継続的に高業績を上げているようなできる人はモチベーションなど気にしません。私生活でトラブルが起こったり、風邪を引いたりすれば、モチベーションは低下しますが、その都度、パフォーマンスが下がるような人はプロフェッショナルではありませんし、クライアントからしても「あなたのモチベーションがどうとかは知りません。ちゃんと仕事やってくださいね」というだけのことです。

やる気があろうがなかろうが、やるべきことを明確に認識して、粛々淡々とやり始める。そういう人がプロフェッショナルです。彼らは使命感や責任感で動いており、モチベーションではありません。

それなのに、モチベーションを上げようとして、そういうプロフェッショナルに何らかのインセンティブを付与して、さらに行動強化をしようとすると、アンダーマイニング効果と言って、もともと持っていた自発性を失う可能性があるので注意です。

このように、人がもともと持っている自発性に頼って、中から湧き出してくる使命感を醸成して働いてもらう方が、個人にも企業にもよいのではないかと思うのです。

■自発的に動くことなど期待せず、明確に指示を行う

ただ、これまでモチベーションが上がらないことを「できない理由」にしてきたようなダメな人にいきなりハイパフォーマーと同じように自発的に仕事をしていくことを期待することもできません。そういう彼らに対してすべきこととは、「明確な指示」です。

モチベーションアップなど考えずに、まずは取り敢えず明確な作業を行ってみるのです。クレペリンという心理学者は「作業興奮」と言って、つまらないとか面倒くさいとか思っていたことでも、とにかく一度始めてしまうと徐々に気持ちが乗ってくると言っています。この効果を利用して、人を動かしていくのです。

■型にはめると、逆に自発的に動くようになるかもしれない

このリモートワーク時代には近年重要視されてきた創造性を求めるとか自発性を引き出すとかを一旦無視し、むしろどんどん細かく明確な行動指示を与えて、とにかくやらせる方がよいのではないかと思います。少なくとも「やらせれば、やってくれる」わけですから、モチベーションの高まりを気長に待つよりは即効性があります。

しかも、逆説的ですが、人は型にはめられると、反抗心が働いて自分で工夫をしたくなるものです。結果、モチベーションアップとは違うアプローチ方法ですが、そんな人たちでも、自発性や創造力が出てくるかもしれないのです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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