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リモートワークで「見えないメンバー」をマネジメントするには〜今後、被評価者トレーニングも必要になる〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
何をやっているのかわからない・・・(写真:PantherMedia/イメージマート)

■新型コロナ禍がリモートワークを促進

未だに全世界が新型コロナウィルス禍によって大混乱しています。しかし、それでも可能な限り経済を回していかねばならないということで、ご存知のとおり、現在急速にリモートワークが広がっています。

これまでいろいろと理由をつけて「難しい」と避けていた企業も、さすがに今の状況ではリモート化をせざるを得ず、ある調査によれば、現在ではおよそ8割の企業がリモートワークを導入しているとのことです。実際、会議やイベント、採用面接や会社説明会など、あらゆるものがどんどんオンラインで行われるようになっています。

■働く人にとっては好評

さらに、最初は不慣れでバタバタしたリモートワークに働く人たちも徐々に慣れてきて、今では「こんなメリットがある」「もっと早くやっておけばよかった」といった声がたくさん聞こえてくるようになりました。中でも通勤時の満員電車から逃れられ、負荷が減ったことが最も大きかったようです。それを見て、コロナ禍が終息した後でも、リモートワークは維持していこうという経営者もたくさん出てきました。おそらく確実にリモートワークは定着するでしょう。

■リモートワークの問題点は「見えない」こと

さて、不幸中の幸いとして広まり、結果として一定以上の人には好評なリモートワークですが、解決しなくてはならない問題点もまだまだあります。その根本問題はブラックボックスであるということです。

マネジャーから見ると、自分のメンバーが今何をしているのかがなかなか分かりませんし、いちいち聞くわけにもいきません。そうなると、途中のプロセスが全然見えなくなってしまい、ただでさえ難しいマネジメントがさらに難易度を増してしまうように思えます。見えない相手をどのようにマネジメントすればよいのでしょうか。

■「見える化」を志向せず「見えない」を前提に考える

そのうち、新しいテクノロジーやサービスによって「見える化」され、リアルと同じような情報がオンラインでのリモートワークでも実現するかもしれません。しかし、私には筋が悪いように見えます。本連載は「コミュニケーション力やマネジメント力」を必要としない組織というのがテーマですから、むしろ、「いや、見える必要はないのだ」と開き直って、一度考えてみてはどうでしょうか。そもそもリモートワークはコロナ禍以前でも2割程度の人はやっていた働き方です。やってやれないことはないはずです。

■「成果」にせよ「業務」にせよ明確化する

では、「見えない」状態でのマネジメントに必要なことは何でしょうか。それは、これまでも長年ブラックボックスでやってきた「業務委託」と同じく「結果」の明確化です。

業務委託とは、成果物を出すことで報酬を受け取る「請負」と、決められた業務を実行することで報酬を受け取る「委任(法律行為以外は準委任という)」の総称です。同様に、リモートワークにおいても、メンバーに期待する結果が「成果」なのか「実行」なのかをはっきりさせることが必要です。これまでもMBO(目標管理)などでやってきたことですが、さらに明確化しなければなりません。

■「情意評価」が良くも悪くもできなくなる

これまでの見えている場で働いている状態では、結果だけではなく、働く姿勢や熱意、態度などを評価する「情意評価」を取り入れている企業は多くありました。平たく言えば、結果が出なくても頑張っていたら評価してあげたいということから生じた評価要素ですが、評価者の主観がかなり入るものでもあり、評価制度の納得感が低下する一因にもなっていました。

しかし、「見えない」のであれば、情意評価は行えなくなります。結果が出なかったが頑張っている人は拾えなくなりますが、結果のみの評価になることで、明確さや公平感は高まります。

■被評価者に説明責任が生じる

しかも、結果評価は経験の少ない評価者にも実行しやすい方法です。情意評価などのようにセンスが求められることはなく、デジタルに評価ができるからです。加えて、今までなら「上司はメンバーを観察しておくべき」というのが前提だったのですが、ブラックボックスになってしまうことで、被評価者であるメンバー側から出した結果について、きちんと説明してもらわなければならなくなります。要は評価についての責任が、評価者の観察責任から、被評価者の説明責任へ移るということです。これも評価者の負荷を下げる要因と言えるでしょう。

■今後は「被評価者トレーニング」が必要になる

さて、マネジメント力不足に悩む企業にしてみれば、マネジメントの負荷が減ることはむしろ良いことかもしれません。ただ、マネジャーが楽になる=組織がうまくいく、というわけではありません。

結果評価への変更&被評価者への責任転嫁を行えば、確かに被評価者はグウの音も出なくなりますが、文句を言えないのと納得することとは違います。そのため、これまでは評価に関して、企業は基本的に評価者の方にトレーニングを施してきたわけですが、今後は被評価者に自分の成果をアピールするトレーニングをしなければならないかもしれません。

■企業にとっても怖い仕組みとなる

このように考えていくと、リモートワークは通勤負荷の軽減など、ある側面では働く人にとって優しい働き方でもあるのですが、こと評価ということを考えると、実は上記のような厳しさのある働き方でもあります。出社して働きぶりを見せていれば、成果を出さなくてもある程度は情意評価をしてもらえていたのが、結果だけで評価され、しかも自分で説明をしなければ分かってもらえない。企業側から見ればこれをサポートしなければ、結果は出なかったが頑張っている社員や、仕事はできているのにアピール下手な社員を失うことにもなりかねない、実は怖い仕組みともいえるのです。

HRZineより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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