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部下の「無言の抵抗」にどう対応するか〜全てのリーダーが直面する「メンバーがついて来ない」悩み〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「いや、別に何にもありませんよ。大丈夫ですよ(本当は違うけど)」(写真:アフロ)

■すべてのメンバーが方針に共感することは難しい

あらゆる組織でリーダーを張っている人は、多かれ少なかれ「メンバーがついて来ない」という悩みを抱えています。組織における何らかの方針は、たいていの場合、すべてのメンバーに賛同されることはないからです。

特に改革を伴うものであれば、メンバーの利益に反する場合もあるでしょう。そんなときでも、リーダーであれば全員に方針を行きわたらせなければなりません。リーダーという仕事についてしまったら、メンバーがついて来ないという悩みを持つのは宿命といってもよいでしょう。

■「ついていかない」と表明する部下はマシ

「ついて来る」といっても、リーダーの後ろをぞろぞろメンバーが並ぶわけではありません。では、具体的にはどんなときに「ついて来ない」と感じるのか。一番わかりやすいのは、ちゃんと反発してくれるときでしょう。

リーダーにとって、きちんと反発してくれるのは、実はとてもうれしいことです。「あなたの言っていることは、こういう理由でおかしいと思う」と言ってくれれば、リーダーは対応の取りようがあります。

誤解があれば解くことができますし、納得まではさせられなかったとしても、どこに意見の相違があるのかを明らかにすることができます。職場が健全な状態にある一つの現象が、このように「ストレートに反論できる」ということです。

ところが、もう一つ「ついて来ない」と感じさせるものがあります。それが「無言の抵抗」です。特に声をあげるわけではなく、リーダーの話を冷たく無表情で聞き、目線も合わせず、うなずきもせずにいる。リーダーにとってこれほど嫌なメンバーの行為はありません。

明確に反発しているわけでもないので、問いかけることもしにくい。「何か不満なことがあるのですか?」と問いかけたとしても、そもそもそういう態度を取る人は「いえ、特に」と答える場合がほとんどです。不満があって言いたければ、言っているでしょうから。

■「面従腹背」は卑怯。利己的で中途半端な行為

そういう反応をされたら、リーダーは、本当はよくないのでしょうが「ならよいのですが」と言うしかありません。そして「あれは不満を持っているのだろうなあ。でも、何に対してどんな不満だったのだろう」と思い悩むわけです。

これはあくまで私の意見であり、皆さんにご賛同いただけるかはわかりませんが、私はこういったメンバーの「無言の抵抗」は、組織を蝕む卑怯な行為だと思います。リーダーは、こういう行為を許してはいけません。

反対するなら、きちんと明確に言葉にして意見すべきですし(その場でなくとも構いません)、そうでないなら、うなずいたり微笑んだりして賛意を示すべきです。なお、誤解ないと思いますが、念のため「反論自体を許すな」ということではありません。

A.O. ハーシュマンが『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』(ミネルヴァ書房刊)で指摘したように、ある存在に欠陥があった場合、その場から離脱するか賛同して忠誠を表すか、そうでなければ改善を求めて発言すべきでしょう。

リーダーにあからさまにわかるような表情をしている時点で、実質的に反対を表明しているのに、反対していることを追及されないように、表面上は巧妙に反対などしていないという態度を取る。そんな「面従腹背」の態度は、自分の中だけで反抗心を満たし、組織に対しては何のよい影響も与えようとしない利己的で中途半端な行為ではないでしょうか。

■仏頂面の「ダブルバインド」で組織は硬直する

「無言の抵抗」がいけないのは、倫理的な問題だけではありません。無言の抵抗は表面的なメッセージと真のメッセージが矛盾する、いわゆる「ダブルバインド(二重拘束)」なコミュニケーションです。人間はこのような状態になかなか耐えられないため、様々な問題が生じます。

空気を読みすぎたり忖度しすぎたりするなど、言葉に表されていない意味にばかり偏執するようになったり、逆に以心伝心やあうんの呼吸が通じないなど言葉の文字通りの意味にしか反応しなくなったり。メンバー間で他者への無関心が進み、組織コミットメントが低下してコミュニケーションそのものから逃避したりするなど、不健全なコミュニケーションが組織に蔓延する可能性があります。

このように表立った言葉やメッセージが信用できない状態では、コミュニケーションコストがかかりすぎて、組織の動きは鈍くなり、硬直化してしまいます。

さらに言うと、「無言の抵抗」は、ふてくされた不機嫌な顔つき、いわゆる「仏頂面」なわけですが、これも組織にとって害悪です。ゲーテも「人間の最大の罪は不機嫌である」と言ったといいますが、不機嫌な仏頂面は周囲の人を委縮させ、空気を暗くさせ、不要な気を使わせることで職場全体のパワーを削いでしまいます。

仏教では、悟りを得るために実践すべき徳目の一つとして、布施(ふせ)、すなわち施しをすることを重要視しています。その中でも「顔施(がんせ)」もしくは「和顔施(わがんせ)」と呼ばれているものがあります。これは仏頂面の正反対で、和やかで穏やかな顔をしていることこそが、周囲に対する施しであるということです。こういう面からも「無言の抵抗」は問題ある行為だと私は思います。

■「面倒くさい人」を放置しないのもリーダーの責任

さて今回は、職場において「無言の抵抗などするな、堂々とストレートに発言をせよ」と、メンバーにばかり頑張る責任を押し付けたような話になってしまいました。しかし、最終的な責任はリーダーにあるのは当然のことです。

「無言の抵抗」という組織にとってマイナスな行動しかとらざるを得ないようなモノを言いにくい空気を作っているのかもしれませんし、「無言の抵抗」をするメンバー(たいてい面倒くさい人だったり、職場においてインフォーマルにパワーを持っている人だったりします)にきちんと注意をしないで放置しているのかもしれません。

リーダーにとって「無言の抵抗」はかなり御しがたい問題行動ですが、それに負けず、根絶できるような職場作りを是非頑張っていただきたいと思います。

キャリコネニュースにて、人と組織のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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