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とっとと就職してしまえば悩みは消えるかも〜1社に決めることに不安な就活生の皆さんへ〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
えーい、もう行っちゃえ!(写真:アフロ)

■未成熟であるから、変化に対応できる柔軟性があるという説

進化は幼形成熟(ネオテニー)から起こるという話を聞いたことがあります。前の世代の幼形がそのまま成熟することで、進化が進むという話です。

幼形=未成熟とは、「何かに特定化されていない」=「まだ何でもない」ことです。「何でもない」ということは、逆に言えば、「何にでもなりうる」ということです。そのため、柔軟に環境変化に対応しやすく、それが進化の芽である・・・ということだと理解しました。

実際、人間はサルのネオテニーであるという説もあるようです。人間は、サルの胎児に似ていると言えば、そんな気がしないでもありません。

■キャリアにおいても「未成熟」に価値がある?

以上は、生物学的な進化の話であるのですが、キャリアにおいても似たような構図をみることができるように思います。

キャリアにおいて、自分のアイデンティティを特定しすぎることなく、「まだ何者でもない」状態で居続けることができるのであれば、その時の状況に合わせて、自分を変えることが容易になるという理屈です。

自分は「こうである」と固く定義してしまえば、それが足枷になって、異動をしたり、転職したり、身軽に動けなくなってしまいます。本当はキャリア観のような形の無い概念は、形が無いからこそ、いくらでも可塑性があるはずなのに、「こうでなくてはならない」と自縄自縛してしまう人は多い。

そんなことを考えて、昔の私は、無限の可能性があるはずの自分を「こうである」と定義してしまうことが怖かった。それゆえに、できるだけ結論を先延ばしにして、極力「何者にもならない」ようにしてきてしまいました。そうすることで、無限の可能性を捨てずに済むと思えたのでした。

■何者にもならないぞ、と頑張ることはキャリアではプラスではない

しかし、なんと言う思い上がりであったかと、今では思います。

自分の可能性を(根拠もないのに)信じれば信じるほど、何かになってしまうことが怖くなります。「オレはまだこんなもんじゃない」などと思ってしまうのです。こんなレベルに身を置いてしまえば、成長が阻害される、とかなんとか、邪念に襲われます。

しかし、私も社会に出てだいぶ立つのですが、見てきた現実は逆で、そんな「余計なこと」を考えずに、目の前のものに身をきちんと投じて、がむしゃらに何かを行ってきた人の方が、キャリア的には成功しているように思えます。

私の以前の上司で、元ライフネット社長、現立命館アジア太平洋大学学長の出口さんも、友人にたまたまついていって出会った会社にそのまま入って、定年近くまで勤めたとおっしゃっていました。何も深い考えがあって、人生の選択をしたわけではないと本人の談です。

それが数十年後、その業界の第一人者となる。そして、還暦を超えた今なお、さまざまなチャンスに恵まれている。チャレンジができる機会がまだまだ残っている。素晴らしいなあと思います。

■悩んでいる暇があったら、早く何かになってしまうべき

逆説的だが、先にとっとと何かになってしまった方が、結局、可能性が広がるのではないでしょうか。

何かに自分の身を投じることは、他の選択肢を捨てるわけなので、自分の可能性を減じるようで、多くの人は怖がるというのはわかります。

例えば、就職活動で1社に決めることなどはそうでしょう。決めてしまえば、他社には行けない。オレほどのやつであれば、もしかしたら三菱商事に受かるかもしれない、ゴールドマンサックスに受かるかもしれない、とか思う人は、最初の方にもらった内定を蹴ってしまったりする。で、結局はそうはならないことが確率的には当然多いのです。

そういうときは、「いま、目の前にあるもの」に集中して、ひとまずそれに乗りに乗ってみることが、自分の可能性を最大化する戦略であるのかもしれません。

■そもそも「本当にやりたいこと」というものが幻

そもそも、「本当にやりたいこと」なんて、ほとんどの人は持っていないのではないでしょうか。少なくとも「本当にやりたいこと」を「探している」なんていうのは、語義矛盾であると思います。

探さなければならないなら、まだやりたいことはないのです。やりたいこととは、探すようなものではなく、どうやって消そうとしても消せずに、強迫的に生じてくるようなものではないでしょうか。

私のこれまでの新卒採用での面接経験においても、その年代で「本当にやりたいこと」を本当に持っている人の割合は、1割にも満たなかったように思います。

■「本当にやりたいこと」など、まだなくたっていい

むしろ、もし「本当にやりたいこと」などが中途半端にあってしまったら、自分の能力とマッチしていればよいが、そうでなければ地獄です。

「やりたいこと」と「できること」は違うからです。

できなければ、させてもらえないし、もし万一させてもらえてしまったりなんかしても、できないのであれば、よい成果はでないでしょう。

「好きこそものの上手なれ」という言葉もありますが、それは「本当に好き」=「どんな艱難辛苦を乗り越えてでも、努力し続けるぐらいの覚悟がある」という場合にのみ成立すると思います。

■経験値を積んで「できること」を増やすことに注力する

そうではなくて、目の前にあること=できることをやり続けることで、経験値を積んでいけば、「できること」がどんどん増えていきます。

やっているうちに、成果が出て、よいフィードバックがあれば、それがインセンティブとなって、結局は「できること」が「やりたいこと」になっていくかもしれません。こちらのループの方が、強い因果関係であるように思うのです。

だから、「案ずるより産むが易し」でともかく何かを始めることの方が、(いつになってもわからない)「最も正しい道」を一生懸命探すことよりも、大事なのです。

■やって来た流れをチャンスと考えてさっと乗れる大人になろう

こんな風に、今自分の目の前に差し出された状況に乗っていくこと、言いかえれば「流れに乗る力」「流される力」こそが、それぞれの人の可能性を最大化させる力ではないでしょうか。

「自分の可能性を信じる」という名のもとに、いつまでたっても、怖がって流れに乗らず、結果、何も生み出さないという子どもっぽいことをし続けるのではなく、目の前の現実を受け入れて、ひとまずそれに乗り、自分ができることをやって、少しずつでも何かアウトプットする人になるのが大人になるということなのかもしれません。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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