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「席替え」のパワー〜停滞する組織に「ばらばら席替え」の勧め〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
嫌な人の隣や前には絶対に座りたくないのが人間の本音(写真:maroke/イメージマート)

■座る位置はフォーマルな組織通りでないとダメなのか

子どもたちが横断歩道の白いところだけ踏んで渡っている場面を見ると、「元々人間はとりあえず『きちっと』したい存在なのだなぁ」と思います。曲がったものはまっすぐに直したい、本棚の本は大きさを揃えて並べたい、色を合わせたり種類を揃えたり、強迫的にそうせざるをえないぐらい「きちっと」したいのです。

職場の座席もそうです。昔、私がいた会社では、自分の課を一つの島にしたいがゆえに、何十万円もかけて壁をずらさせた偉い人もいました。最近はフリーアドレスの職場も増えましたが、ほとんどの会社で職場の座席は何らかのフォーマルな組織に基づいて決まっているはずです。しかし、そんな必要はあるのでしょうか。

徐々にコロナが落ち着いて行く中、出勤する人も少しずつ増えていると思います。そんな時に「どこに座るのか」「誰の隣なのか」というような席替えの重要性について真面目に考えてみたいと思います。

■大事なのは「フォーマルな組織」だけではない

部とか課とかのフォーマルな組織は、そのチーム毎に目標を持っていたり、レポートラインを指定されていたり、組織のトップがそれぞれの社員の人事評価権限を持っていたり、そもそも毎日一緒にする仕事があったりと、かなりの求心力を持っています。

その組織は特段維持しようとしなくても自然にふつうに維持され、簡単に崩壊したりしません。わざわざ物理的に机を並べ、島を作って近くにいなくても、絶対にコンタクトを取る必要があるので、コミュニケーションがなくなることはありません。

「いやいや、コミュニケーションを頻繁に取る必要があるからこそ、近くにいないと非効率なのじゃないか」

という理屈もわかります。確かにそういう側面もあると思います。しかし、リモートワークすら様々なところで試されていて「意外にいける」ことがわかってきた今、席がちょっと離れているだけで問題が起こるでしょうか。私はあまりそう思いません。

このように放っておいても維持されるフォーマルな組織よりも、意識して作らないと生まれもしないし、あってもすぐに無くなってしまうインフォーマルなネットワークこそ、作ったり維持したりする努力をするべきではないでしょうか。というのも、インフォーマルなネットワークには、組織にとってとても良い効果をもたらすものだからです。

■インフォーマルなネットワークが「社員の絆」を強める

インフォーマルネットワークとは、要はフォーマル組織とは直接的に関係のない社内の人間関係のことですが、それが強い組織は、別の言い方をすれば仲が良い組織とも言えますし、社員同士の絆が強い組織とも言えます。

そういう組織では、例えば誰かが仕事に悩んで転職を考えているようなときに、マネジャーや人事が知らなくても、別の誰かが手を差し伸べて相談に乗ったり、励ましたりして、残留を決意したりします。

メンタルヘルスに問題を起こしそうなときにも、サポートをする人がいたりします。組織内の情報伝達度が速く、噂もすぐに伝わりますが、良いこともさっと広がります。そんなインフォーマルネットワークは、非公式であるがゆえに求心力は低く、放っておくと無くなってしまうかもしれません。

インフォーマルネットワークを強化する方法はいろいろありますが、ものすごく簡単でお勧めなのは「ばらばら席替え」です。フォーマル組織や担当プロジェクトなどに関係なく、ばらばらに席を決めるということです。実は当社でもやっています。

■マンネリ組織には「補完」の関係で席を配置

無論、本当にばらばらというわけではなく、フォーマルな組織に関係ないという意味であり、本当はかなり念入りに検討を重ねた上で席を決めています。

何をよりどころに決めているかというと、パーソナリティの「相性」です。フォーマルな仕事上の関係は、先に述べたように「どうせつながる」ので放置し、むしろあえてつながないとつながらないが、相性の良さそうな人を並べるのです。

ちなみに「相性の良さ」というのは大変難しい領域の話ですので、今回は深入りしませんが、一つだけお伝えすると、「同質」か「補完」の関係にある間柄です。

「同質」(似たタイプ)は似た者同士なのでコミュニケーションコストが低く、すぐに仲良くなります。もし退職者が多くて困っていたり、ギスギスした雰囲気があったりするような時には、同質マッチングを行うとよいでしょう。

一方「補完」は、異質なタイプではありながら、お互いに足りないところを補い合うような関係です。最初はわかりあうまでに時間はかかりますが、ひとたび仲良くなれば、違う意見を出し合って融合していくため、創造的な関係になりえます。マンネリ化が進み、新しいアイデアが出ないような組織の停滞状態になっている場合は、有効な「相性の良さ」と言えるでしょう。

■「苦」を取り除けば「楽」になる

人間のあらゆる苦しみを仏教語で「四苦八苦」と言いますが、生老病死の他、精神的な4つの苦しみのひとつに「怨憎会苦(おんぞうえく)」というものがあります。嫌な人に顔を合わせる苦しみのことを指しますが、八苦に入るぐらいの「苦」とされているわけです。

社会では嫌だからと言って、一緒に仕事をしないというわけにはいかない場合も多々あります。そこから逃げてはいけないでしょう。

しかし、たかが「席替え」。仕事で役割としてチームを組まなくてはいけないのは仕方ないですが、できるだけ顔を合わせる時間は少なくしたい。そういうニーズを持つような方々は多いのではないでしょうか。席ぐらいは楽な人と一緒にさせてあげれば、毎日通うのが楽しい職場になるかもしれません。

キャリコネニュース より転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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