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Amazonが大麻合法化に向けて動き出した

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
ポルトガルの大麻生産企業 医療用などに世界に出荷(写真:ロイター/アフロ)

■はじめに

 Amazonが、大麻の合法化に向けて動き出しました。

 Gigazineの記事(2021年09月22日)によれば、本年6月の「大麻合法化支持表明」に続いて、Amazonが積極的なロビー活動を行っていることを明らかにしたということです。また、「運輸省に規制されていない宅配ドライバーなどについては、薬物検査の対象から大麻を除外することを決定し」、「求職者に対する雇用前の薬物検査対象からも大麻を除外」、さらに、「過去に薬物検査に引っかかって解雇された元従業員や、雇用対象から外れた求職者の就労資格を復活」させたということです。

 世界的な超巨大企業の決定ですから、その影響力は間違いなく想像以上に大きなものがあると思われます。そこで、このような決定にいたった、大麻規制に関する国際的な背景を見ておきたいと思います。

■国際的な大麻緩和の流れとこれから

 大麻についての国際的な扱いは、その有害性を前提に今なお厳格な方向性を示しています。しかし、厳しい国際世論にもかかわらず、今では大麻を寛大に扱っている国や地域も多く、医療用大麻はもとより、すでに嗜好用大麻さえも合法化した国や地域もあり、世界的に見れば大麻規制は確実に緩和の傾向にあるように思われます(→世界各国の医療大麻・嗜好大麻最新情報まとめ)。

  • 嗜好用大麻を合法化したカナダやアメリカの一部の州については、規制に失敗した結果の苦肉の策であるとの評価が日本では強いように思われますが、欧米での大麻規制緩和の背景には、大麻の有害性の議論以外に、貧困や人種差別の問題が横たわっており、問題はそれほど単純ではありません。

 大麻の有害性に言及する際には、世界保健機関(WHO)の「報告書」(1997年)(日本語訳PDF)がよく引用されています。それによると、(1)身体的毒性として、長期使用による気管支炎、男女ともに生殖機能への影響、未成年への健康被害が指摘され、(2)精神的毒性として、記憶、学習能力、知覚への悪影響があり、(3)長期使用により中枢神経へ作用して精神的な依存性が生じることなどが指摘されています(酒やタバコは中枢神経系に影響することはありません)。

 しかし、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が出している「世界薬物報告」(2006年)(日本語訳PDF)では、(WHOの上の「報告書」を引用したうえで)「大麻は依然として強力な薬物である。大麻の使用は、中枢神経から心臓血管、内分泌、呼吸器、免疫システムまで、人体のほとんど全ての器官に影響を与える。使用者の精神及び行動に及ぼす影響は大きいと考えられる」としながらも、「他の薬物とは異なり、大麻の過剰摂取による死亡例は極めてまれであり、大麻の常習が原因で路上の犯罪や売春を行う人の数は少ない。多くの国では大麻は暴力行為と無関係であり、人々の頭の中では事故と大麻の関連性ははっきりしていない」(太字筆者)と説明されています。

 また、世界的な薬物専門家からなる組織であって、各国政府に、人権、健康および開発における科学的証拠に基づく政策提言を行っている、薬物政策国際委員会のレポート「精神作用物質の分類(2019)」(日本語訳PDF)がネットで公表されていますが、その23頁に各種薬物の「加重スコア」の表があります(拡大図)。

薬物加重スコアの表
薬物加重スコアの表

 これは各種薬物の「害悪性」をトータルに評価した表です。有害性や危険性といった概念は相対的な概念だから〈何と比較して有害・危険なのか〉を論じないと意味がありませんが、その点、この加重スコアは重要な意味をもっています。これによると、トップはアルコール、以下、ヘロイン、クラックコカイン、メタンフェタミン、コカイン、タバコ、アンフェタミンと続き、その次に大麻がきます。

 もちろん、今後さらに医学的薬学的見地からの研究が深められる必要があることはいうまでもないことですが、現時点では、大麻と暴力的犯罪との結びつきはアルコールなどと比較すると明らかに低く、社会的有害性よりは個人の身体的精神的有害性の方がむしろ問題であるという認識の方が一般的であるように思われますし、国際的にもこれが共通認識になりつつあるようです。

 さらに、1961年の麻薬単一条約では、従来大麻はヘロインやオピオイドなどの最も危険な薬物が指定されている「附表Ⅳ」に分類されていましたが、2020年12月2日、国連麻薬委員会(CND)は大麻をここから除外することを決定しています(→UN commission reclassifies cannabis, yet still considered harmful)。これは2019年1月にWHOが、医療的有効性の高さから大麻を除外することが妥当だとする勧告に応えたものです。もちろん、大麻規制は各国の政府が決定する(日本は反対票を投じた)ことですが、世界の大麻規制が今後大きく変わることは間違いないと思われます。

■まとめ

 以上のように、世界は大麻規制を緩和する傾向にあると言って間違いないように思います。Amazonの今回の決定は、このような国際的な大麻規制緩和の流れに沿ったものですし、この傾向をいっそう推し進めるものだといえます。

 他方、日本では厚労省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が、現行の大麻取締法に欠けている「大麻使用罪」の新設に向けた報告書を公表しています。ここでも中心的な論点になっているのは大麻の〈害悪性〉です。

 どんなものにも害悪性はあります。タバコや酒はもちろんのこと、砂糖や塩も取りすぎは健康を害します。問題は、それらをどう社会的にコントロールするかです。大麻取締法は、大麻をほぼ無条件に刑罰で禁止していますが、依存物質をみずからの自由な意思で摂取した者が、なぜ「犯罪者」として糾弾されなければならないのかを改めて問うべきだと思います。

 日本でも、近い将来、大麻取締法違反の前科前歴を雇用に関して考慮せず、また大麻そのものをアルコール並に扱う企業が出てくるかもしれないといえば、あまりにも楽観的な見方でしょうか。(了)

参考記事

正高佑志「Amazon が狙う大麻産業への参入と独占

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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