立法ミス―被告人が一番驚いた無罪判決―

(写真:アフロ)

■はじめに

 国会で審議する法律案や条約案に単純なミスが続発し、大きな問題になっています。基本的に人の手によるものである以上、立法という作業にミスはつきものですが、今回はちょっとひどすぎます。

 ところで以前、刑事法の分野でも有名な立法のミスがありましたので、それを紹介したいと思います。

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■被告人が一番驚いた無罪判決

 まずひとつ目のケースは、被告人が刃渡り15.1センチメートルの「たんば」と呼ばれる登山ナイフか小刀のようなものを正当な理由なく所持していて、改正前の銃砲刀剣類所持等取締令違反に問われたものです。

 現在は改正によって修正されていますが当時は、「刃渡り15センチメートル以上の刀、ひ首、剣、やり及びなぎなた」といった刀剣類の所持が全般的な禁止の対象であり、「刃渡り15センチメートル未満のひ首又はこれに類似する刃物」は、業務上その他正当な理由による場合以外は携帯することができないとされていました。そして、被告人が所持していた「たんば」は、刃渡りが15.1センチメートルであったのです。

 最高裁は、被告人に無罪を言い渡しました(最高裁昭和31年4月10日判決)。その理由はこうです。

  1. 刃渡りが15センチメートル以上であっても、「刀、ひ首、剣、やり及びなぎなた」に当てはまらないものは法が規定する「刀剣類」ではない(「ひ首」とは「匕首(あいくち)」のこと)。
  2. 「たんば」は、「ひ首」に類似するが「ひ首」ではない。
  3. 被告人が所持していた「たんば」は「ひ首」に類似する刃渡りが15センチメートル未満の刃物ではなく、15センチメートルを超えている「ひ首」に類似する刃物なので「取締の外にあった」。

 ちょっと分かりにくいですが、要するに「刃渡り15センチメートル未満のひ首又はこれに類似する刃物」という条文に立法者の単純ミスがあり、本来は「ひ首」と「又は」の間に「、」(読点)が必要だったのですが、読点がなかったために「15センチメートル未満」という文言が「類似する刃物」にまでかかってしまったのです。

 その結果、15センチメートル未満の「たんば」は「ひ首」に類似する刃物として禁止の対象となるのに、それを超える「たんば」が野放しになるという不合理な結果になったわけです。たぶん、無罪判決を聞いて一番驚いたのは被告人ではなかったかと思います。

(著者作成)
(著者作成)

■長らく放置されたおかしな条文

 もう一つの例は、放火罪に関する立法ミスです。

 放火罪については、刑法108条の現住(現在)建造物放火罪と、刑法109条の非現住建造物放火罪という2つの基本類型があります。

 刑法108条の放火罪は、放火のときに人がいるか、人がいなくても住居に使用されている建物を放火する場合です。

 ところが以前の刑法109条1項は、次のような規定になっていました。

刑法109条1項 火を放て現に人の住居に使用せず又は人の現在せざる建造物、艦船若くは鉱坑を焼燬(しょうき)したる者は2年以上の有期懲役に処す(旧規定)

 「人の現在せざる」とは、犯人以外の者がいないことですが、その建物が住居であれば、放火の当時人がいなくても刑法108条の放火罪が成立します。そして、犯人以外の者がたまたまいれば「人の現在する建造物」となって、これも刑法108条の放火罪になります。したがって、この条文における「又は」というのは、論理的に「かつ」でないと矛盾が生じるわけです。

 このミスは80年以上も放置されてきましたが、平成7年にようやく改正され、現在は次のような条文になっています。

第109条1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。

(著者作成)
(著者作成)

■まとめ

 立法にミスはつきものですが、それにしても今回の立法ミスは多すぎます。

 誤字や脱字などのケアレスミスも、上の事例のように、本来罰すべきものを無罪とせざるをえないなど、重大な影響を及ぼします。しかし、今回のミスでは、たとえば防衛省設置法等改正案の関連資料では「カナダ軍」とすべきところが「英国軍」となっているなど、法そのものが根本的に成り立たないようなミスが連発されています。法案を提出する側としては、もっと気を引き締めて立法作業に当たっていただきたいと思います。(了)