桜を見る会前夜祭 刑事法から見た疑問点

2018年 安倍首相主催「桜を見る会」(写真:Shutterstock/アフロ)

■はじめに

 連日、「桜を見る会」(平成31年4月13日開催)についての疑惑が報道されています。ただ、今の段階では情報が錯綜し、情報過多の中での空虚感という逆説的な気持ちを抑えることができません。

 「桜を見る会」についてはさまざまな問題が指摘されていますが、ここではホテルニューオータニで会の前日に行われた前夜祭(「夕食会」)に焦点を絞って、刑事法的観点からみた疑問点をまとめてみました。

 詳細な事実関係はまだ明らかではありませんが、報道等によると、どうも次の3点は事実のようです。

  1. 夕食会の主催者は「安倍晋三後援会」であり、「安倍晋三事務所」がホテル側と具体的な段取りを行った。
  2. 参加者に渡された領収書から判断すると、ホテル側に支払われた夕食会の総額は、少なくとも1人5,000円×約800人=約400万円だった。
  3. ニューオータニの宴会場で、立食形式のパーティーを催す場合の費用は、最低でも1人11,000円からとなっている(したがって、単純に計算して、「夕食会」の費用として500万円弱の差額が生じている)(ホテルニューオータニ/パーティープラン)。

 さて、問題はこのような事実から、可能性として何が言えるのかということです。私は大きくは以下の2つの可能性が問題になるのではないかと思っています。

■第一の可能性(公職選挙法違反)

 まず、夕食会がホテルの上記最低料金で行われたとして、その正規料金との差額、つまり500万円弱の費用が安倍晋三後援会(ないしは安倍晋三事務所)によって補填されていたかもしれません。

 そして、もしもそうならば、この場合は公職選挙法が禁止する寄附行為に当たる可能性があります。

 公職選挙法の第199条の2第1項は、現職の政治家(候補者も)が選挙区内の人に寄附をすることを禁止しています。たとえばお中元やお歳暮、病気見舞いや出産祝い、地元の行事への寸志や差し入れ、飲食接待などがこの寄附行為に当たります。また、政治家本人はもとより、政治家の後援団体(後援会など)が行う寄附も、政治家の寄附同様に禁止されています

 政治家と有権者のクリーンな関係を保ち、選挙や政治の腐敗を防止するためには、「政治家(候補者、立候補予定者、現に公職にある者)と私たち有権者とのつながりはとても大切です」。「しかし、金銭や品物で関係が培われるようでは、いつまでたっても明るい選挙、お金のかからない選挙に近づくことはできません」(総務省)。政治家の寄附行為は民主主義の発展を阻害する行為であり、寄附行為の禁止は、民主主義にとって重要な意味をもっています。

 この寄附行為の禁止に違反した場合は、「1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」に処せられます(公職選挙法第249条の2第2項)。

■第二の可能性(贈収賄)

 安倍晋三後援会が上記の差額を補填していなかったとしたら、ホテル側が費用(約500万円)を大幅に値引きした可能性があります。そして、その場合は値引きの理由が何であったのかが問われるべきです。

―値引きの理由は何か―

 ここで注目されるのは、10月23日に安倍首相夫妻の主催で行われた即位礼の晩餐会(予算が1億7千万円)の会場が、同じニューオータニだったことです。

 ここから先はまったくの憶測になるわけですが、「夕食会」がかりにこの即位礼晩餐会との「セット」ならば、いわゆる「つけ回し」の可能性があったのではないかということが疑われます。

・内閣総理大臣夫妻主催晩餐会の次第概要等について(pdf

・皇位継承式典関係(一般会計)予算額(案)(pdf

―「つけ回し」があったのか―

 「つけ回し」とは、飲食代金などの「ツケ」を他人に回すことです。分かりやすく言えば、公務員が自分の私的な飲食代金を業者(贈賄者)に肩代わりさせて、債務の全部または一部の免除を受けることです。実質的には公務員に対して現金を渡すことと同じことですから、このような債務弁済は賄賂の目的である金銭的利益だといえます。

 「夕食会」と「晩餐会」がセットになっていたとすれば、ホテル側としては全体でプラスの利益がでればよいわけですから、1億7千万円の国の予算が付けられた「晩餐会」を受注できることを条件に、その約0.03%に相当する、私的な「夕食会」の料金のうちの約500万円の大幅値引きを行ったということも考えられないことではありません。

 ただこのつけ回しが賄賂だといえるためには、それが公務員の職務に関連して行われたということがいえなければなりません。賄賂とは、公務員の職務に対する対価(見返り)という意味をもっているからです。職務と無関係ならば、賄賂とはいえません。つまり、「夕食会」と「晩餐会」(の選定)が「内閣総理大臣安倍晋三」という個人で繋がっていなければなりません。

  • これについて参考になるのは、現職の総理大臣の犯罪が問題になった「ロッキード事件」(昭和47年)です。この事件は、ロッキード社の日本における販売代理店である丸紅の社長Xらが、同社の航空機を全日空へ売り込むにあたって、当時の内閣総理大臣田中角栄に対して、全日空に対して同社の航空機の購入を勧めるように運輸大臣を指揮することを依頼し、その成功報酬として5億円の授受が行われた(贈収賄)というものです。
  • 最高裁(平成7年2月22日大法廷判決)は、運輸大臣が全日空に対し特定の航空機の選定購入を勧奨する行為は、運輸大臣の職務権限に属する行為であるが、「内閣総理大臣が運輸大臣に対し右勧奨行為をするよう働き掛ける行為は、内閣総理大臣の運輸大臣に対する指示という職務権限に属する行為ということができる」と判断して、5億円について賄賂性を認め、Xらに贈賄罪の成立を認めました(田中被告は裁判中に死亡したため、受託収賄については司法判断はなされませんでした)。

 このロッキード事件判決の考え方によると、即位礼晩餐会は安倍首相夫妻の主催であり、予算・発注は内閣府ですから、晩餐会会場の選定等については内閣府の長である首相の一般的な職務権限は当然肯定され、議論の余地はないと思われます。

 なお、安倍晋三後援会は、安倍首相にとっては第三者で、値引きがあったとすれば、その金銭的な利益も直接には安倍晋三後援会の利益です。しかし、その金銭的利益に対して、安倍首相本人が事実上の支配力、実質的処分権限を有するものと認定できる場合には、その金銭的利益は本人が受け取ったものだということになります(この点は、政治献金と賄賂の問題として議論されています)。

―不当な便宜供与かも―

 実際にかかった費用が本当に1人あたり5,000円だったということも考えられます。しかし、ネットのあちこちに挙がっている当日の写真から見る限り(唐揚げを見つけることはできませんでした)、とても1人5,000円の料理だったとは思えませんが、実際にホテル側が特別に費用を1人5,000円でしたのだとしたら、安倍晋三後援会だからということで、特別に行われた不当な便宜供与ではないのかという疑問が生じ、上と同じ問題になります。

 また、1995年にはホテルニューオータニを舞台に、ホテルの職員と外務省職員らが会議費用を水増し請求し、詐取した公金を裏金としてプールし、赤字の補填に使用したり、私的に流用していたという事件がありました。もしもこのような裏金作りがなされており、「夕食会」の赤字費用がここから補填されていたとしても、不当な便宜供与だという問題は生じます(もちろん、ホテル側に刑法や税法上の責任は生じます)。

■おわりに

 「桜を見る会」だけではなく、その前夜の「夕食会」も、あまりにも不明な点だらけであるといえます。今のままでは、情報の混乱が疑惑を呼び、疑惑が憶測を生み、さらにそれが疑惑を生むといった悪循環から抜け出すことはできません。少なくとも、ホテル関係者、安倍後援会、あるいは安倍晋三事務所のそれぞれしかるべき責任者による説明があって当然ではないかと思います。(了)

【追記】

 脱稿後、晩餐会については、内閣府の皇位継承式典事務局がニューオータニと随意契約(ずいいけいやく)していたことが分かりました。国や地方公共団体などが行う契約は、原則は入札やせりなどの競争入札ですが、金額が少額であったり、特殊な技術が必要だったりする場合などは、任意で適当と思われる相手と契約を締結することが認められていて、そのような場合の契約のことを随意契約といいます。