威迫による不同意性交等罪を新設すべきである

(写真:アフロ)

■はじめに

 性犯罪規定の2017年改正によって、「暴行・脅迫」による「姦淫」を処罰していた強姦罪(3年以上の懲役)が、被害客体と行為態様を拡張するかたちで強制性交等罪(5年以上の懲役)へと改正されました。

 審議の過程では、この暴行脅迫要件を撤廃して、相手の同意のない性行為を「不同意性交罪」として処罰する規定を設けるべきだという意見も出されましたが、行為を限定せずに広く処罰することや不同意の立証の困難性などについて強い反対論が出て、この要件はそのまま残されています。しかし、本年(2019年)3月に性犯罪に関して4件の無罪判決が続き、再び暴行脅迫要件を撤廃すべきであるとの議論が再燃しました。

  • とくに岡崎支部の事件(準強制性交等罪の事案)では、改正前の強姦罪と準強姦罪の関係性が改正後も維持され、「反抗を著しく困難にする程度」とされてきた(旧)強姦罪の暴行脅迫の程度に連動して、準強制性交等罪の「抗拒不能」も同程度のものとして理解されてきたという背景があった(岡崎支部はこの抗拒不能の程度を高く理解した)。

 そこで、本稿ではこの不同意性交罪の問題を、従来とは角度を変えて、全国47の都道府県すべてにおいて設けられているいわゆる青少年健全育成条例の淫行(いんこう)罪から考えてみたいと思います。

  • 淫行とは、「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」(昭和60年10月23日最高裁大法廷判決[pdf])である(太字は筆者)。

■性犯罪における〈暴行・脅迫〉の意味

 強制性交等罪(旧強姦罪)では、性交等の手段としての暴行脅迫は「被害者の反抗を著しく困難にする程度」であることが必要だとされてきました。

 強盗罪と(旧)強姦罪とを比べると「強」という文字が共通であることから、犯行の手段として両罪に共通の暴行脅迫の程度は、被害者の反抗を抑圧して無理やり財物を奪う強盗を基準に解されるという学説もありましたが、性犯罪が被害者の性的自由を侵害する罪だと理解されていたことが、そのような解釈に影響を与えていると思われます。

 つまり、普通に行われている性行為じたいが有形力の行使(暴行)ですし、性交について真に同意している者に対して、性交のためにさらに強い暴行脅迫を加えることは考えられないので、性交に際して相手方の反抗を著しく困難にする暴行脅迫が加えられた場合には、それは被害者の同意がなかったということを推測させる重要な状況証拠となります。

 しかし、被害者が抵抗しなかったように見えることが逆に性交についての同意を推測させ、暴行脅迫の評価にプラスの影響を与えるとすれば、本末転倒の議論といえます。なぜなら、よく言われることですが、被害者が恐怖で「固まって」いたり、ヘタに抵抗すると命の危険さえあるため、むしろ自ら積極的に「協力した」といったケースすらもあるからです。

 ただ、実務においては、暴行脅迫の程度を実質的に判断し、とくに軽い暴行の場合を「脅迫」と評価することによって拡大的に処罰している事例も見られます。しかし、他方で準強制性交等罪における「抗拒不能」に心理的抗拒不能の場合が認められていますが、被害者が性的行為を拒否しにくいケースまでもが「抗拒不能」に包摂されるようになると、強制性交等罪の独自性が薄れ、条文の存在意義が失われる可能性があるだけではなく、犯罪の輪郭そのものが曖昧になるおそれがあります。やはり刑法が両罪を書き分けている以上、両罪の連動性を維持しながら、暴行脅迫の基準を「被害者の反抗を著しく困難にする程度」として維持することに意味はあると思います。

 そうすると、そこで問題となるのは、たとえば「暴力団員だ」とすごんだり、入れ墨をチラつかせたりして性交を無理強いするような場合です。このようなケース(一般的にいえば、「威迫」を用いた場合)は、強制性交等罪となるかどうかが微妙な限界事例といえます。なぜなら、「脅迫」とは「殺すぞ」とか「殴るぞ」、「(ナイフを向けて)刺すぞ」といった加害の告知ですから、単に「すごむ」場合を脅迫とすることに難点があるからです。

  • 威迫とは、言葉や動作によって相手に不安や恐れの感情を生じさせることであり、具体的な加害の告知である「脅迫」よりも広く、かつ意思に与える影響が低い場合を想定した法概念である。

■条例では「威迫」による性行為の強要が処罰されている

- 現状

 ここで条例による性犯罪の処罰に目を転じますと、現在、18歳未満の青少年に対する「淫行」を処罰(最高2年の懲役)するための規定が、すべての都道府県で整備されているという現実があります。具体的にどのようなかたちでこの淫行処罰が条文化されているかについては、次のように分類することができます。

  • (a)威迫・欺罔・困惑による性行為ーー長野、千葉、三重、大阪(4)
  • (b)経済的利益(役務・職務)・欺罔・困惑による性行為ーー京都、山口(2)
  • (c)淫らな(みだらな)性行為・わいせつ行為ーー神奈川、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、東京、新潟、富山、石川、福井、山梨、岐阜、兵庫、奈良、鳥取、島根、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄(27)
  • (d)淫行・わいせつ行為ーー北海道、青森、静岡、愛知、滋賀、和歌山、岡山、広島、徳島、香川、福岡、大分、鹿児島(13)
  • (e)不純な性行為・わいせつ行為ーー愛媛(1)
(c) sonoda
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 これらのうち、(a)と(b)の類型については手段が限定されていますが、(c)(d)(e)の類型においては手段が限定されていません。しかし、「淫らな性行為」とは「淫行」と同義であって(東京都の条例解説[平成28年版])、最高裁判決(上記)によれば、「淫行」とは、(1)青少年を誘惑・脅迫・欺罔するなど、心身の未成熟に乗じて行う性交または性交類似行為、あるいは、(2)青少年を単に性的欲望の対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為のこととされているのですから、少なくとも「威迫」による性交ないしは性交類似行為の強要は、京都府と山口県(愛媛県)を除く、他の都道府県における淫行処罰の最大公約数として抽出可能になります。

 そして、これはまさに「不同意性交罪」の一種だといえます。ただし、このような条例の処罰については問題点と限界もあります。

- 問題点

 第一に、条例が設けることができる罰則は、最高2年までの懲役刑です(地方自治法14条3項)。威迫等による強制性交も、条例では2年までの懲役刑でしか対応できません。有効な同意のない強制性交でありながら、その可罰的評価は非常に低くなっているといわざるをえません。近時の性犯罪に対する社会的な見方からも、このような軽い評価は重大な問題だといえます。

  • たとえば、このような場合の典型例として、18歳未満の者に対して「暴力団の構成員だ」といってすごんで性交等を行う場合が考えられる(大阪府条例解説[平成26年版])。しかし、2017年の改正における強制性交等罪の法定刑の引き上げ(重罰化)を考慮すると、このような犯罪行為に対する法定刑が2年以下の懲役というのは明らかに不適切である。

 第二に、威迫の程度が進み「脅迫」のレベルに達すると強制性交等罪が成立するわけですが、単にすごんで性交を強制しただけでは、被害者が18歳以上の場合に犯罪として処罰できるかは不透明です。しかし、18歳未満と以上とで、その恐怖に差があるとは思えませんし、また差を設けることに合理性はありません

 このような状況から考えると、「威迫による強制性交等」を「不同意性交等罪」として、年齢による制限を廃止して正面から刑法典に組み入れて、強制性交等の基本類型とすべきではないかと思います(現在の強制性交等罪は不同意性交罪の加重類型)。

■まとめ〈立法提案〉

 第一に、少なくとも「威迫」による性行為等を刑法典の中に「不同意性交等罪」として規定すべきです(法定刑は、旧強姦罪で規定されていたように3年以上の懲役とし、死傷の結果が生じた場合は、強制性交等死傷罪に同じ)(なお、それに対応した、「抗拒困難」を要件とする「準不同意性交等罪」を新設すべきだと思いますが、これについては別稿に委ねたいと思います)。

 第二に、暴行脅迫を手段とする強制性交等罪は、手段の点でより悪質ですから、「威迫による不同意性交等罪」の加重類型として位置づけられることになります(すごんで財物を奪う場合が、強盗罪ではなく恐喝罪で処罰されているのと同じような関係と理解できます)。

 なお、私は、性交同意年齢を現在の13歳未満から16歳未満に引き上げるべきだと考えており、さらに、欺罔(偽計)による不同意性交のケースも犯罪化すべきだと考えていますが、これについても別稿に委ねたいと思います。

 最後に、以上のような改正が実現すると、青少年健全育成条例上の「淫行罪」で保護の対象となる年齢層は16歳以上18歳未満となり(16歳未満の被害者の場合は、ただちに刑法犯となる)、この年齢層はどのような保護が望ましいかについてとくに議論になる年齢層ですから、青少年の健全育成についての論点の明確化がはかられることになります。(了)

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