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人体模型をアニメ調の美少女で作る必要があるのか?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
どこの学校にもある人体模型(ペイレスイメージズ/アフロ)

 先日、学校の理科室にある人体模型(骨格標本)が実は本物の人骨であった、と大騒ぎになりましたが、今日ネットを見ていると、国内最大の造形イベント「ワンダーフェスティバル 2019[冬]」で、〈美少女の人体模型〉が開発、展示され、話題になっていました。

下記GIGAZINEの記事より
下記GIGAZINEの記事より

 それは、人体の内部(臓器や血管など)を学ぶための人体模型を、アニメ調の可愛い少女を模して作ったものでした。体型は女性らしさを強調して、背中や腰、臀部のあたりが柔らかくデフォルメされていますが、身体の内部は医師の監修の元、正確につくられているようです(詳細は次のリンクを参照してください)。

GIGAZINE:理科室などによくあるあの「人体模型」をなぜか美少女フィギュア化してしまった「美人体模型」、内臓パーツも取り外し可能で医者の監修も進行中

 私は、この〈美少女人体模型〉を見て非常な違和感、あるいは不安感を覚えました。それは、〈命〉を学ぶのに、このような教材を用いることが妥当なのかどうかということです。

 男性の人体模型も開発中とのことですが、「人体模型」というなら、わざわざこのような「可愛い少女」の姿を模す必要はないのに、この教材の意図するところは何なのか、ちょっと私には理解できません。上記の記事によると、今までの人体模型は少し怖い顔の男性であることが多かったので、フィギュア造形の美しさを切っ掛けに、人体の構造への驚きや、医学・生物学への興味をかき立てるためだそうです。「無機質で不気味な感じのする人体模型を美しくしようという『美人体模型プロジェクト』」というのだそうです。

 しかし、中学生や高校生が、この「美少女人体模型」を取り囲んで、臓器をひとつずつ取り出して「勉強」している場面を想像するだけで、私はどうしてもおぞましいものを感じてしまいます。これは猟奇としか表現しようのない個人的な不安感覚です。

 『遠野物語』で有名な柳田國男が、「殺生の快楽は酒色の快楽の比ではなかった。罪も報いもなんでもない。」との言葉を残しています。いろいろな殺傷犯罪を見ていると、まさに人間は、殺生や猟奇的なもの、あるいは残酷なものに、本能的に感応する素質をもっていると思わざるをえません。〈美少女人体模型〉で生徒たちが「勉強する」場面を想像したときに感じた不安感も、まさにこれと同質のものでした。

 人体模型という〈命〉に真摯に向き合うことを学ばせる教材が、このような〈美少女フィギュア〉であることは倫理的にも問題はないのでしょうか。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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