SNSの拡大で児童買春処罰法が空洞化されるおそれが

(写真:アフロ)

■はじめに

 平成20年に出会い系サイト規制法が改正され、事業者による届出や年齢確認、書き込みの確認強化などにより、児童買春や青少年健全育成条例違反による被害児童数は大きく減少しました(図1)。しかし、その後、児童買春などの犯罪行為の場がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)へと移り、出会い系サイトでの過去最多の被害児童数を上回っています(図2)。とくに、Twitter、LINE、Facebookなどのいわゆる複数交流系のコミュニティサイトにおける被害児童数の増加が顕著です(図3)。

 このようなSNSを利用した児童買春事案については、児童買春処罰法の構造的な問題が生じており、そのことが児童買春処罰法を空洞化させるおそれがあります。法改正を含めた何らかの対策が必要だと思われるのです。以下、その理由について述べます。

*図は、いずれも警察庁のサイトからの引用

【図1】出会い系サイトにおける罪種別被害児童数の推移
【図1】出会い系サイトにおける罪種別被害児童数の推移
【図2】コミュニティサイト及び出会い系サイトに起因する事犯の被害児童数の推移
【図2】コミュニティサイト及び出会い系サイトに起因する事犯の被害児童数の推移
【図3】主なコミュニティサイト種別の被害児童数の推移
【図3】主なコミュニティサイト種別の被害児童数の推移

■児童買春罪の構造

 児童買春とは、18歳未満の児童やその保護者等に対し、「対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等」を行うことであって(児童買春処罰法第2条2項)、法定刑は「5年以下の懲役又は300万円以下の罰金」です(第4条)。

 多くの犯罪は、殺人罪における殺人行為のように、1つの行為で構成されていますが、児童買春罪は2段階の行為によって構成されているのが特徴です。すなわち、児童に対して、まず(1)対償の供与あるいはその約束を行って(以下、「第1行為」と呼びます)、そして、(2)性交等を行うこと(以下、「第2行為」と呼びます)が必要です。

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 犯罪が成立するために、このように2つの行為が要求されている犯罪は、決して珍しいことではありません。たとえば、(1)暴行や脅迫行為を行って、(2)財物を強取(ごうしゅ)することが成立の要件となっている強盗罪や、同じく(1)相手をだまして、(2)財物を交付させることが必要な詐欺罪などがあります。

 そして、このような犯罪が成立するためには、第1行為と第2行為の全体にわたって故意が認められることが必要なのです。児童買春罪もそうで、性交等の対価として金銭などを支払うそのときに、性交等を行う相手が「18歳未満」であるという点についての認識とそれを容認する気持ちがあったことが必要です。もしも、第1行為の段階で、相手が18歳未満であるという認識が欠けるならば、「児童買春を行っている」という故意が欠け、児童買春罪は成立しません(児童と知らずに買春してしまったという過失犯は処罰されていません)。たとえば、向こうにあるのが人形であって人間ではないと思って、石を投げた場合、暴行罪や傷害罪が成立しないのと同じことです。

 なお、上の第1行為のときに、「ひょっとしたら相手は児童かもしれない」と思って、買春を行った場合は、故意は必ずしも確定的なものでなくても構いませんので(これを未必(みひつ)の故意といいます)、児童買春罪は問題なく成立します。

■途中で児童だと気づいた場合は?

 では、第1行為のときには児童であるとの認識がなく、18歳以上だと思って対償の供与あるいはその約束を行ったが、第2行為の段階になって初めて児童だと気づいた、あるいは「ひょっとして児童かもしれない」と思ったにもかかわらず、そのまま第2行為を行ったような場合、児童買春罪は成立するのでしょうか。

 この場合も、最初に児童に対償を供与するなどの意思がないので、児童買春を行うという認識(故意)がありません。したがって、児童買春罪は成立しません。

 以下、Q&A形式でさらに詳しく説明したいと思います。

■Q1.第2行為を開始する時点で、相手が18歳未満との認識があった場合には、第1行為の「経済的対償の供与ないしはその約束」の効果が持続しているので、第2行為は児童買春行為となるのではないでしょうか?

 A1.たとえば、相手を殴った後ではじめて財物を取る意思が生じて財物を取った場合、確かに判例は強盗罪の成立を認めています。しかしそれは、犯人の最初の暴行・脅迫によって被害者が抵抗できない状態になり、その状態が継続する中で財物を取る行為が、先に加えられた暴行・脅迫と相乗的に高まって、財物強奪のための暴行・脅迫と同視できるからです。だから、最初の暴行・脅迫によって被害者が意識を失ったか、あるいは死亡してしまったような場合には、犯人みずからが作り出した被害者の反抗抑圧状態を利用したとしても、判例も強盗や強盗殺人罪を認めておらず、(財物を取る行為について)窃盗罪を認めるにすぎません。

 児童買春罪も同じで、第2行為の段階で初めて児童だと気づいた場合には、児童とは知らずに行った第1行為の効果がそのまま持続していると単純に考えることはできません。

■Q2.詐欺罪は、「だます」という第1行為と、被害者に「財物を交付させる」という第2行為から構成されていますが、たとえば、有名な画家の手になる絵画の複製を、知人に冗談で「本物だ」と言ったところ、相手がそれを信じて「ぜひ売ってくれ」と言って現金を出してきたので、その時になって初めて詐欺の犯意が生じ、そのままその複製と現金を交換したといったような場合、詐欺罪における第1行為はなされていないのに詐欺罪が認められると思いますが、児童買春罪でも第2行為で初めて犯意が生じたならば、児童買春罪として処罰してもよいのではないでしょうか?

 A2.上の事例では詐欺が認められるでしょうが、それは途中で生じた犯意が、最初の冗談でなされた「だます行為」をさかのぼって詐欺罪の実行行為(第1行為)とするのではなく、犯意が生じた時点以降の不作為(ふさくい)がいわゆる不作為の詐欺罪として構成されるからです。

 この点は少し難しいですが、釣り銭詐欺のケースで説明しましょう。

 たとえば、1000円の買い物をして5000円札を出したところ、相手が1万円札と間違えて9000円のお釣りを差し出したとします。この場合、相手が間違っているということを知りながら9000円を受け取れば、詐欺罪になります。なぜなら、行為者には、取引上相手の間違いを指摘する義務があり、その義務を果たさずに、相手に財産的損害が生じるような事態をそのままにしたとして、積極的に最初から相手をだました場合と同じだとされているのです。

 しかし、児童買春の場合は、詐欺罪と違って、第2行為(性交等)は何もしないという不作為と考えることはできませんので、詐欺の場合と同じだと考えることはできません。

■Q3.児童買春罪が成立しないとなると、無罪になるのですか?

 A3.児童買春罪が不成立だとしても、全国の都道府県において制定されている(名称は異なりますが)青少年健全育成条例にある「淫行」(いんこう)罪で処罰される可能性があります。「淫行」とは、(1)青少年を誘惑・脅迫・欺罔するなど、心身の未成熟に乗じて行う性交または性交類似行為、あるいは、(2)青少年を単に性的欲望の対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為(最高裁昭和60年10月23日判決)ですが、条例によって要件は微妙に異なります。

 また、被害者が13歳未満ならば、強制性交罪(刑法第177条)や強制わいせつ罪(刑法第176条)が成立することは当然です。

 なお、売春も問題になりますが、売春防止法は、「何人も、売春をし、またはその相手方となってはならない」と規定(同法第3条)し、違法であることは宣言していますが、処罰されるのは、勧誘や場所の提供、周旋などの周辺的な行為です。

■まとめ

 以上のように、児童買春罪では、第2行為の段階ではじめて相手が「児童」だと気づいた場合は、児童買春罪の故意はなく、犯罪不成立ということにならざるをえません。もちろん、児童買春罪の故意は、第1行為(対償の供与や約束)の段階で、ひょっとしたら相手は「児童」かもしれないという程度の認識で足りるので、多くのケースでは児童買春罪の成立は否定されないでしょう。たとえば、外見や話し方、声、話の内容などから児童かもしれないと思えば、「児童」であるとの認識はあったとされます。

 しかし、年齢確認がそれほど厳格ではないSNSが児童買春に利用されるようになると、SNSは文字が中心のコミュニケーションですから、相手が児童だとの認識にいたる、外見や話し方などの身体的・年齢的特徴を認識することができません。そこで、相手が18歳以上だと思って、性交等(売春)の対価としてあらかじめ相手の銀行口座に金銭を振り込んだり、あるいはネットゲームの有料のアイテムなどを渡したりし、それから相手と実際に会ったとします。そのときになって初めて、ひょっとしたら相手は児童かもしれないと思ったものの、そのまま性交等に及んだような場合は、「児童に対して、(1)対償を供与して、(2)性交等を行った」ということにはなりません。

 今後、SNSの利用はますます拡大されるでしょう。そして、児童買春にも利用される場合は増えてくるでしょう。そうしたときに、上のような児童買春処罰法の構造的な問題は一層露呈してくるように思います。法改正が必要だと思います。(了)