公文書の改ざんについて問題となる罪は?

森友文書改ざん問題 官邸前で抗議デモ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

■はじめに

 国と森友学園との土地取引に関して、その交渉経過等を記録した公文書が、上級国家公務員らによって組織的に改ざんされたのではないかが大きな問題となっています。

 そもそも公文書の正確な記録と保存は、民主主義を支えるもっとも重要な事項です。それは、公文書が国や政府などの意思決定や行動を記録したものであり、その妥当性を国民が事後的に検証するために必要不可欠なものだからです。公文書の正確性に対する信頼、そして、知る権利や報道の自由、表現の自由など、情報を自由に流通させるための基本的な仕組みの上にさまざまな制度・組織が組み立てられているのです。

 今回、上級国家公務員らによる公文書の組織的な改ざんがあったとしたら、それは民主主義を根本から否定し、破壊する重大な犯罪行為として、厳しく断罪されなければなりません。

 公文書の改ざんに対する刑法の規定は、若干複雑な内容になっていますので、そのことについて分かりやすく解説したいと思います。

■作成権限(決裁権限)の有無によって罪名が異なる

 公文書の改ざんに関して問題となる主な条文は、刑法155条の〈公文書偽造罪〉と刑法156条の〈虚偽公文書作成罪〉です。この2つの犯罪は、行為者に作成権限(決裁権限)があったのか、なかったのかで区別されます。

公文書偽造罪について

 まず、〈公文書偽造罪〉ですが、これは、公務員であれ、一般人であれ、具体的な作成権限のない者が、(実際に使う目的で)偽の公文書を作成する罪です。「偽造」という言葉が使われていますが、これは、権限ある公務員によって当該文書が適正に作成されたかのように、人をだますことを意味します。内容の真偽は問題にならず、もっぱら名義人の記載をごまかしたかどうかだけが問題になります。

 たとえば、今回の改ざん事件でいえば、森友学園との土地取引に関する経過の記録は、通常は直接の担当者が起案し、それが上司の決裁を経て確定的な記録として保管されることになると思いますが、その決裁権限のない者が事後的に内容を改ざんして、新たな公文書を作成した場合には、作成名義を偽ったとして公文書偽造罪が問題になってきます。

 また、事後になって他の公務員がその作成権限ある公務員の同意を得て書き換えても、その書き換えが一定の手続きを経ていないならば、やはり公文書の信頼性を侵しており、たとえ作成権限ある者の同意があっても、犯罪性を否定することはできません。

 なお、改ざんが当該文書の本質的な部分になされたのではない場合は、偽造ではなく、変造と呼ばれます。ただ、これも公文書の信頼性を損なう行為ですので、偽造の場合と法定刑は同じです。

虚偽公文書作成罪について

 次に、公文書の作成権限がある者が改ざんした場合には、〈虚偽公文書作成罪〉が問題になります。

 これは、具体的な作成名義を偽って偽の公文書が作成された場合ではなく、作成権限のある公務員が文書の内容について事実と反する記載を行い、その結果、嘘の公文書が作成されたという場合です。何か手を加えて虚偽の内容にするような場合が普通でしょうが、当該文書の重要な部分を削除するような場合も虚偽公文書の作成になります(判例)。

 今回の事件についていえば、いったん確定的に作成された公文書に、決裁権者が手を加えたり、重要な箇所を削除したならば、本罪が問題になってきます。また、単なる字句の訂正程度ならば「変造」とはいえないでしょうが、本件についていえば、かなり重要な事実について削除されており、改ざん後の文書を見せられた者は、本件土地取引の経緯について真実とは異なった見方をしてしまうおそれがありますので、「虚偽」の文書が作られたといえるでしょう。

■コピーが改ざんされたらどうなのか?

 今回の事件は、原本そのものが改ざんされたのではなく、そのコピーについて改ざんがなされたようです。この点も問題になります。原本ではなく、コピーの改ざんは犯罪なのでしょうか。

 最近は、公文書(たとえば保険証や運転免許証など)の原本を呈示するのではなく、そのコピーを示すことで手続きが進むようになっています。そこで、以前、公文書の原本ではなく、コピーに改ざんを加えて、あたかもそれと同じ内容の原本が存在するかのように相手をだました場合に文書偽造罪が成立するのかということが問題となりました。

 確かに原本と写しは、その信用性に大きな違いがあります。たとえば、パスポートの本物を持っていても、その写しだけを呈示して出国することはできませんし、運転免許証は家に置いていて、その写しだけを所持していても、免許証不携帯の違反行為はまぬかれません。

 しかし、最高裁は、写しに原本と同様の社会的機能と信頼性が認められるならば、原本ではなく写しに改ざんを加えて、あたかもそれに対応する原本が存在するかのような形で、改ざんされた写しを行使した場合には、公文書偽造罪が成立するとしています(反対する学説は少なくありませんが、これは確立した判例となっています)。

 この判例は公文書偽造罪に関するものですが、虚偽公文書作成罪についても、同じ論理は妥当するでしょう。

 今回の事件でいえば、説明に当たる官僚が国会にいちいち原本を呈示しなければならないならば手続はたいへん面倒になりますので、普通は原本の写し(コピー)を呈示します。そこには、その資料は担当公務員が原本をそのままコピーしたのであって、何も手を加えていないのだという信頼が前提にあります。そして、そのコピーを前提に議論が進んでいきます。こう考えると、権限のない者がコピーを偽造した場合はもちろんのこと、作成権限がある公務員が原本のコピーに改ざんして原本とは異なる内容のコピーを国会に呈示して、あたかもそれの元になった原本が存在するかのように議員を欺いた場合には、虚偽公文書作成罪が成立することになるでしょう。

■虚偽公文書作成罪に作成権限のない者が関与したらどうなるのか?

 今回の事件には、多くの公務員が組織的に関与していることが予想されます。その中には、当該文書の作成権限がある者もいれば、ない者もいるでしょう。虚偽公文書作成罪は、作成権限のある者によって犯される犯罪ですので、権限のない者がどうなるのかという問題があります。

 一定の地位や権限のある者によってのみ犯される犯罪は「身分犯」と呼ばれます。公務員しか犯すことができない収賄罪などがその典型です。このような身分犯に身分のない者が関与することは当然あります。刑法はそのような場合を想定して、刑法65条に次のような規定を置いています。

刑法65条(身分犯の共犯)

1.犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。

2.身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。

 とくにこの刑法65条1項によって、作成権限のない者が他の作成権限のある公務員による虚偽公文書作成罪に関与した場合には、その共犯として処罰されることになります。

■おわりに

 今回の事件では、少なくとも財務省理財局から近畿財務局に対して何らかの指示ないし働きかけがあったことは事実のようです。しかし、当該公文書の作成権限者(決裁権者)がだれなのか、まただれの指示で、どのような経緯でこのような改ざんがなされたのかなど、事実関係において不明な点が少なくありません。いずれにせよ前代未聞の重大な犯罪行為がなされた疑いが濃厚ですので、適切に事案の解明がなされることを切に期待します。(了)

【参照条文】

刑法155条(公文書偽造等)

1.行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

2.公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

3.前2項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

刑法156条(虚偽公文書作成等)

 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前2条の例による。