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監禁の手段とその程度

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:アフロ)

■はじめに

埼玉県朝霞市で行方不明になっていた女子中学生が、約2年ぶりに保護されました。報道によれば、少なくとも最近の監禁状態はそれほど強いものではなかったということです。容疑者とされている男は少女と2人で外出し、買い物もしていたようです。また、少女は一人で買い物にでかけることもあったとも言われています。

ここで出てくる疑問は、監禁とは人の行動の自由を制約する犯罪ですから、いったいどの程度の拘束を行えば犯罪となるのかということです。

ただし、女子中学生の事件は、現在捜査中でもあり、報道から見えてくる事実もごく限られたものですので、本件について直接言及することは避けて、ここでは刑法の監禁罪において、どの程度の自由が拘束されれば犯罪の成立がみとめられてきたのかということを、一般的に説明したいと思います。

■監禁罪とは

人の意思決定の自由や身体活動の自由は、生命や身体と並んで、社会生活を営むうえで非常に重大な利益であることは間違いありません。このような自由を刑法は、(害を加えるぞと脅す)脅迫罪や(義務のないことを強制する)強要罪などを設けて保護しています。強制わいせつ罪や強姦罪も性的自由を保護する規定です。そして、逮捕罪や監禁罪は、とくに行動の自由を保護する規定です。

(逮捕及び監禁)

第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

(逮捕等致死傷)

第221条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。(注:致傷の場合は、50万円以下の罰金~15年以下の懲役刑、致死の場合は、3年~20年の懲役刑)

■監禁の方法とその程度

監禁とは、一定の区域から被害者が脱出することを不可能にするか、あるいは著しく困難にして、被害者の行動の自由を奪うことです。普通は、(1)有形的・物理的な障害を設けることが手段として一般的ですが、(2)無形的・心理的な障害を設定することでも監禁は可能です。

有形的・物理的方法による監禁

たとえば、手足を縛ったり、鎖につないだりして、部屋や倉庫、自動車内などに閉じ込める場合が典型的です。

部屋に閉じ込めて外から施錠するとか、監視をつけて脱出を困難にするような場合ももちろん監禁です。

自動車に乗せて疾走するといった場合も、脱出が著しく困難であり、監禁に当たります。

スクラムを組んだり、円陣を作って被害者を取り囲み、脱出を難しくする場合も監禁とした判例があります。

なお、脱出が不可能か、あるいは著しく困難かという判断は、被害者の年齢や性別、犯人の数や性別、監禁場所の状況、時間などを総合的に評価して判断されることになります。

無形的・心理的方法

これには、被害者の恐怖心や羞恥心を利用したり、被害者をあざむいて錯誤に陥れて、これを利用するといった場合が考えられます。物理的方法の場合は、脱出を拒むその障害の程度を客観的に判断することはそれほど難しいとは思えませんが、とくに心理的方法による場合には、その強さが問題になります。

脅迫等の心理的な方法によるときには、被害者が恐怖のあまり一定の場所から立ち去ることが著しく困難であるほど、心理的拘束が高度な場合であることが必要だとされています。

刑法の教科書などでは、露天風呂に入っている女性の衣服を奪って、露天風呂から出られなくする場合も監禁かということが議論されることがありますが、ここでも脱出が著しく困難だったのかどうかという羞恥心の程度が問題になります。

恐怖心を利用する典型的な場合は、被害者に対して強い暴行を加えるぞと言って怖がらせる場合です。この場合も、被害者が抱いた恐怖が、脱出を著しく困難なものとする程度に強いものであることが必要です。

なお、被害者に対していわゆるマインドコントロールを加えたり、だまして絶望感を抱かせるといったような場合にも監禁罪が成立する場合もあるでしょう。ただ、その場合、その心理的な障害の強さは当然裁判で問題にはなるでしょう。

脱出に関する心理的な障害の程度も、被害者の年齢や性別、犯人の数や年齢、監禁状況、場所などを総合的に評価して判断することになります。

■PTSD(心的外傷後ストレス傷害)

PTSDとは、深刻な被害体験後にその記憶がよみがえったりして、不眠などの強いストレス状態が1カ月以上続く場合です。最高裁(最高裁平成24年7月24日決定)も、このような特徴的な精神症状が継続して発現した事案において、それは傷害に当たるとしていますので、監禁の被害者にPTSDの症状が発症し、それと監禁行為との間に因果関係が認められれば、当然監禁致傷罪が成立します。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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