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幼少期からの包括的性教育—子どもの性の疑問にどう答える?

染矢明日香NPO法人ピルコン理事長
はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた(筆者撮影)

近年、子どもへの性暴力への対策としても、注目が高まる性教育。

一方で、性教育についてきちんと教わった記憶がなく、特に幼い子どもに対し性について伝えるイメージが具体的に湧かないという方も多いのではないでしょうか。「子どもから性について聞かれても『学校でそのうち習うよ』などとはぐらかしてしまった」「性教育は必要だと思うけど、幼い子にはまだ早いかも」といった声もよく聞きます。

しかし、生まれた時から性の学びは始まっています。そして、性について幼い時から発達段階に応じて学んだ子どもは、性トラブルから身を守り、解決する力が育まれ、よりよい判断ができるようになることが分かっています。今回、ユネスコらがまとめた包括的性教育(※)の指針『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(以下、『ガイダンス』)や世界中で活用されているアメリカの性教育アニメ動画AMAZEの保護者向けコンテンツ(NPO法人ピルコン)を参考に、保護者からよくいただく疑問を紹介・解説します。

(※)包括的性教育:性を性交や出産だけではなく、人との関わり方や相手の立場を考えることとしてとらえ、科学・ジェンダー平等に基づき幅広く、年齢に応じたカリキュラムに沿って学ぶ性教育

「赤ちゃんはどこからくるの?」「どうやってできるの?」と聞かれたら?

写真:アフロ

多くの子どもは4歳から6歳ごろに、赤ちゃんはどこからくるのか、どのようにしてできるのかなどの疑問を抱くようになります。これは、過去、現在、未来という時間軸を認識できるようになる発達段階での自然な疑問です。もし子どもから質問されても、慌てず「いい質問だね」などと肯定的に受け止めましょう。

命のもとである男性の精子と女性の卵子が一緒になり、女性のお腹にある子宮という場所で新しい命が育っていくこと、子宮から外につながる腟を通って生まれてくることを説明できます。腟は、おしっこが出るところとうんちの出るところの間にあり、大切な場所であることや、お腹・子宮を少しだけお医者さんに切ってもらって産まれてくる子もいることを話すこともできます。

また、精子と卵子がどのように一緒になるかについては、科学的な視点から説明ができます。

精子は精巣で作られ、ペニスの先端から精液として出てきますが、空気中や水中で精子は長く生き残ることはできません。そのため、男性の性器(ペニス)を女性の性器(ワギナ・腟)に入れて、女性の子宮にある卵子の近くまで送り届ける方法があると伝えられます。それを動物では「交尾」、人間では「性交・性行為」と言います。

また病院で精子と卵子を合わせるのを手伝ってもらう方法(人工授精や体外受精)があることも伝えてもいいでしょう。

8歳頃までの幼い子の方が、性についてネガティブなイメージが固定化しておらず、性交や生殖についてすんなりと受け止めてくれたという声もあります。もちろん、年齢にかかわらず「キモイ!」というような否定的な反応をする子もいます。「そういう風に感じるのも自然な気持ちだよ。したくない人に無理やりするのは、とてもその人を傷つけることなんだ。性行為は、大人になってお互いに『したい』と思う人同士ですることで、楽しい経験にしていけるものだよ。」などと、性暴力や性的同意について広げて伝えるのもいいでしょう。

「パパとママもするの?」と聞かれたら?

性交について子どもに伝えた時に、「じゃあうちは子どもが3人だから、3回性交したっていうこと?」という疑問を投げかけられたり、自分の性行為について子どもに聞かれることに不安を感じる人もいるかもしれません。

皆さんはどう答えますか?

こちらの質問について、何か一つの決まった答えがあるわけではありませんが、信頼し合う大人同士で愛情を伝えたり、赤ちゃんがほしいと思ったりした時に、性交・性行為をするのは自然なことであると伝えられます。ただし、今も性行為をしているか、これまで何回したことがあるか、などは、「それはプライベートなこと(自分だけの大切なこと)だから、話さないよ」などと伝えてもいいのです。自分のこと(相手を伴うこともあります)をどこまで話すのか、どのように話すのか、話さないのか、性について伝える人が、自分で境界線を引けるということも大切です。子ども自身も「自分の経験やプライベートな話をどこまで話すかは自分で決めていいんだ」という学びにつながるでしょう。

うんち、おしり、ちんちん…性的な言葉を繰り返す場合は?

写真:イメージマート

子どもが性的な言葉を連呼し、どう対処すべきか戸惑った経験のある方もいるかもしれません。

排泄の達成感や、体への興味、周囲の慌てる反応を見て楽しんでいるのかもしれません。一方的に叱る、一緒に笑うなどは、かえって「性に関することはおかしいこと」という性のタブー視を強めることに繋がります。

性に関することに興味を持つのは(個人差はありますが)自然なことである一方で、性的な言葉は人を不快にさせることがあること、人前で大声で話したり茶化したりすることはマナー違反であることを教える機会にしていきましょう。

「うんちや性器ってとても大事なことだよね。ちゃんと知ることは、自分の体を大切にすることにつながるよ。何か知りたいことはある?」と落ち着いて話し、排泄や性について学ぶ機会につなげていくことができます。

もしこれまで子どもからの質問をはぐらかしたり、ごまかしてきたりした時は?

どうやって自分が生まれてきたのかを聞かれて、たとえば「お空のお星さまがお腹に宿ったんだ」といった答えもロマンチックかもしれませんが、事実ではありませんよね。誕生についての事実を知った時に、子どもは大人から嘘をつかれたとショックを受け、「性に関することは知ってはいけないことなんだ」と学んでしまうかもしれません。

もし質問にきちんと答えていなかった場合は、子どもに間違いを認め、訂正することができます。「この前こんな質問をしてきたこと、覚えている?あの時は言えなかったけど、今は答えられるよ」などと伝えられます。

絵本や動画などを使って伝えるのもいいでしょう。性教育アニメ動画AMAZE(NPO法人ピルコン翻訳)や、遊びながら学べる「はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた」(合同出版)などの教材もあります。

いかがでしたか? 今回紹介したのは、性教育の中でも特に大人から「ハードルが高い」と言われる生殖にかかわる内容が中心でしたが、包括的性教育にはジェンダーやボディイメージ、性の多様性、健康的な人間関係など、様々なテーマが含まれます。

また、性についての学びには、「何を言うか」も大切ですが、「どんな態度でどう伝えるか」も大切です。禁止や抑圧的なメッセージではなく、肯定的に、また子ども自身がどう考えるかを聴きながら対話的に学ぶことが深い学びにつながります。

そして、子どもたちは信頼できる身近な大人と性について話し、学ぶことで、インターネットや友人などの不確かな情報ではなく、信頼できる大人を性の情報源や相談先としていき、子ども・若者たちの健やかな成長をサポートすることにつながるのです。

NPO法人ピルコン理事長

性の健康啓発を行うNPO法人ピルコン代表。中高生などの若者を対象とする性教育講演やコンテンツ制作の他、保護者や教育関係者向けの性教育講座も定評があり、自治体からも多く要請を受ける他、政策提言なども積極的に行っている。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。公衆衛生学修士。公認心理師。著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」』、『はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた』。

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