Yahoo!ニュース

King&Prince脱退メンバーが発する「海外」の意味──「CDでしか聴けない全編英語詞の曲」の闇

松谷創一郎ジャーナリスト
King&Princeの5人(「Johnny's net」より)。

強調される「海外」

 昨年より、今後の活動について、より具体的に話し合う時間が増えました。グループの活動のことから個人の人生について、時間をかけて本音で話し合った結果、大切にしていることは同じでも、海外での活動をはじめとして、それぞれの目指したい方向が異なることもわかりました。

2022年11月4日「King&Princeより大切なファンの皆さまへご報告」『Johnny's net』(太字は引用者による)

 昨日11月4日の深夜、ジャニーズ事務所の5人グループ・King&Princeのメンバー3人の脱退が突然発表された。岸優太、平野紫耀、神宮寺勇太は来年5月にグループを脱退し、平野と神宮寺は同時に退所。リーダーの岸優太も映画などの仕事を終えて、秋には退所するという。冒頭に引いたのは、ファンに向けて発せられた言葉だ。

 脱退の理由を簡単にまとめれば、「方向性の不一致」ということになるだろう。だが、強調されているのは「海外での活動」だ。ここが脱退の大きなポイントなのは間違いない。

 結論から言えば、3人は海外での活動を目指してジャニーズ事務所を離れると考えられる。

「海外」志向の相違

 第一報の後、ファンクラブサイトの動画で本人たちはみずから脱退の理由を語っている。そこでも強調しているのは、「海外での活動」だ。

 まず、『鉄腕DASH!』などでもお馴染みの岸優太は以下のように話している。

「ドラマや舞台、バラエティーなどに出させていただきながら、海外で通用するスキルを身につけることを同時にやる器用さが自分には無く、だんだんと夢と目標に、自分の実力にギャップを感じるようになっていきました。そして、海外で活躍できるグループになるためには、今のままでは到底無理だとも感じるようになってきました(略)活動を終了した後は、まだ具体的には決まっていないですが、海外に関わる仕事もしてみたいですし、いろいろな挑戦をしてみたいです」

『日テレNEWS』2022年11月5日「3人脱退のKing & Prince 涙をこらえて心境明かす『この先もずっと5人で頑張っていくと思っていた』」(太字は引用者、以下同)

 かなり言葉を選んでいるが、ジャニーズ(「今のまま」)では海外での活動を目指すことはできないと述べている。そして今後にも含みを持たせている。

 次に平野紫耀は、以下のように説明した。ジャニーズの若手ではトップクラスの人気のひとりだ。

「“海外で活躍できるグループになること”を目指して頑張ってきましたが、メンバーそれぞれが年を重ねて、それぞれが経験を積んで、活動方針に違いが出てきました。また、改めて自分の年齢と向き合ったときに、海外で活躍できるグループを目指すというのは、そこにグループのそれぞれの活動方針を踏まえた上で、全力で取り組んだとしても“もう遅いな”と感じてしまい、目標を失い、今回の決断に至りました」

『日テレNEWS』2022年11月5日、同前

 これは一見、平野自身が「年齢的に海外での活躍は難しい」と話しているように見えるが、それは「King & Princeだと海外での活躍は難しい」と受け止められる。言い換えれば、「活動方針が同じメンバーのグループであれば海外で活躍することもできる」ということだ。

 そして脱退するもうひとりのメンバー、神宮寺勇太はこう話す。

「僕はKing & Princeとして海外に進出することが、僕自身とジャニーさんと、そして応援して下さっているファンの皆さまの、大切な夢の一つでありました。その夢を追い続けるために、活動をしていきましたが、活動していく中で、海外進出のことだけではなく、活動方針の考えが変わっていきました

『日テレNEWS』2022年11月5日、同前

 これも海外の活動も含めて、メンバー同士で意見の相違が生じたということを意味している。状況的に考えれば、ふたりでKing & Princeの活動を続ける永瀬廉と髙橋海人には海外志向が乏しいということになる。

解禁されないストリーミング

 つい先日の10月28日、ジャニーズ事務所からは新グループ・Travis Japanがデビューしたばかりだ。しかもそれはアメリカのレーベルから全編英語詞の曲で、ジャニーズでははじめてデビュー段階からストリーミング配信もされた。

 しかし、Travis Japanは例外的な存在だ。ジャニーズは、嵐など一部のグループを除けばストリーミング対応をさほどしていない。King & Princeも例外ではなく、一曲も配信されていない。他国に比べて日本はストリーミングの浸透が極端に遅れているが、それを引き起こしてきた主要因は間違いなくこうした姿勢を堅持するジャニーズだ。

 ストリーミングを解禁しないこととはつまり、海外展開の扉を閉ざすことも意味する。この新しい音楽視聴の方式は、定額料金で簡便に世界中の音楽を聴けることを可能とした。これによって音楽は急激にグローバル化し、低迷していた産業も(日本以外は)右肩上がりの復活を続けている。そして、こうした波に乗ってグローバルで大きな成果をあげているのがK-POPなのもよく知られているところだ。

 ジャニーズがストリーミングを解禁しないのは、従来のビジネスモデルを支えるCD売上の減少を怖れているからだと思われる。CDだけでは音楽的な広がりがなく、チャートでランキング上位に入りにくくなっても、既存の熱心なファンを囲い込んで高い単価を維持すればいい──ジャニーズはその選択をいまも続けている。

 King & PrinceやSexy Zone、SixTONES、Snow Manといった若手のジャニーズグループが、いまもストリーミング解禁されないのはそのためだ。こうして、海外展開の可能性の芽を摘まれ続けてきたわけである。

「CDでしか聴けない全編英語詞の曲」の闇

 King & Princeは、本人たちも述べるように早い段階から海外志向を見せてきた。昨年夏に発表された「Namae Oshiete」は全編英語詞で、2019年にロサンゼルスでレコーディングされた。デビュー当初に見られたジャニーズ特有のキラキラ感はそこにはなく、非常にスタイリッシュな一曲だ。

 が、この曲はYouTubeで発表されても、ストリーミングは配信されない。よって、音源を入手するにはCDを購入するほかない。だが海外ではCDプレイヤーすらほとんど売られていないなか、CDを買う者はごく一部だ。つまり、CDのみで発表している以上、海外展開などできるわけがない。

 それ以前にもKing & Princeは全編英語詞の曲を発表してきたが、それらはYouTubeのMVもなかったので海外に展開することはない。つまり、ストリーミングが一般化した時代に「CDでしか聴けない全編英語詞の曲」という、コントのような状況を続けてきた。筆者がそのことを指摘したのは1年半前だが、いまだに状況が改善されていないのである(「なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差」2021年5月11日)。

 Travis Japanのデビューと同時のストリーミング解禁は、ジャニーズがこうした古いビジネスモデルから脱却する可能性を示唆していた。そこで見られた海外志向は、K-POPと競うことを前面化したとも捉えられるだろう。

 が、今回の3人の脱退は、King & PrinceにはTravis Japanのような展開の可能性が低かったことを示唆している。3人の海外展開の希望がかなうのであれば、脱退などしなかったはずだからだ。

滝沢氏と共通する3人の思想

 King & Princeメンバー3人の脱退でもうひとつ気になるのは、10月31日付けで退社した滝沢秀明副社長のことだ。今回の一件は、それからわずか4日後だ。このタイミングの近さによって多くのひとが推測してしまうのは、滝沢氏が設立する新会社に3人が移籍するシナリオだ。

 だが、3人と滝沢氏に目立った関係は存在しない。King & Princeは、ジャニー喜多川氏が生前に手掛けた最後のグループとして知られる。一方、滝沢氏が芸能界を引退してジャニーズJr.を統括するようになったのは、King & Princeがデビューした後のことだ。

 この両者の退社/退所は、たまたま同じ時期になっただけかもしれない。だがもしそうではなく、3人が後に滝沢氏と合流するとなれば、そこで目指されるのは積極的な海外展開だろう(もしかしたら、そこに昨年脱退した岩橋玄樹も合流するかもしれない)。

 しかも、この両者には共通点もある。それは創業者であるジャニー喜多川氏の薫陶をしっかりと受けてきたことだ。滝沢氏は実質的な後継者であり、前述したようにKing & Princeはジャニー氏が手掛けた最後のグループだ。

 つまり、ジャニー氏の意思を直接的に受け継いだという点で、両者の思想=「ジャニーイズム」は共通する

 もちろん今後どのような展開が生じるかはまだわからない。ただし、A.B.C-ZやSexy Zoneなど、新グループの台頭でジャニーズ内でも存在感を失っているグループもある。今回の一件は、そうしたグループにも変化をもたらす可能性も高い。

 しかも創業者姉弟ももういない。恩義のあるジャニー氏も、強圧的だったメリー氏もいないのである。それはつまり、ジャニーズ事務所を離れるハードルが低くなったことを意味する。

 ジャニーズからの離脱はさらに続く可能性が高い──。

注:2023年4月8日、記事タイトルを一部変更しました。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

松谷創一郎の最近の記事