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「ケジメ」ではなく「ギンギラギンにさりげなく」──近藤真彦とジャニーズはWin-Winの関係を保った

松谷創一郎ジャーナリスト
東京・乃木坂にあるジャニーズ事務所(筆者撮影)。

 4月30日、ジャニーズ事務所で40年以上も活躍してきた近藤真彦の退所が発表された。

 70年代後半のデビュー以降、近藤(通称・マッチ)はたのきんトリオとして活躍した田原俊彦と野村義男とともに、現在に繋がるジャニーズの礎を造った。その後デビューする少年隊、シブがき隊、光GENJI、そしてSMAPなどは、マッチの活躍なくして生まれなかった存在だ。

 しかし、そのジャニーズにとって最大の功労者が退所する。背景には、いったいなにがあるのか。

「ジャニーズ長男」の引責退所

 ジャニーズタレントでは最年長だった56歳の近藤は、長らく「ジャニーズの長男」と呼ばれてきた。それゆえ、ジャニーズを離れることはないと見られきた。

 ブレイクのきっかけとなったドラマ『3年B組金八先生』(1979~1980年/TBS)でも、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長とともに生徒役として出演している。当時まだ中学生だったふたりは、幼なじみと言っていい関係のはずだ。契約上は事業者同士のパートナーシップだが、ジャニーズ事務所と近藤に限ってはかなり近い感覚もあったはずだ。

 それでもマッチが退所することになったのは、おそらく昨年11月に『週刊文春』が抜いたスキャンダルに端を発していると見られる。発表された退所コメントにある「これからの人生、自分の責任において芸能とレースの道を歩んでいきたい」との一節からもそれがうかがえる(ジャニーズ事務所「弊社所属タレント近藤真彦に関するご報告」2021年4月30日)。

 つまり、“引責退所”だ。そこで思い起こされるのは、1984年の近藤のヒット曲「ケジメなさい」だ。多くのひとは「ケジメなさいあなた」と歌う近藤を連想した。

ジャニーズから退所が相次ぐ3つの理由

 しかし、この退所には寂寥感や緊迫感がない。なぜなら、もはやジャニーズ事務所からの退所(専属契約の解除)は珍しくないからだ。それは、この2年あまりで実に10人にものぼる。中居正広や手越祐也、長瀬智也、そして近藤とともに80年代のジャニーズを興隆させた少年隊の錦織一清と植草克秀もいる。11月には森田剛も退所予定で、人気ジャニーズJr.のメンバーも含めるともっと多い。

 退所が相次ぐ背景に、近年ジャニーズ事務所に訪れた3つの変化がある。

 ひとつは、組織体制の変化だ。周知の通り、2019年の夏にジャニー喜多川社長が亡くなり、その2ヶ月後には妹のメリー喜多川副社長も退任した。それまで日本型タテ社会の旧い組織構造だったジャニーズ事務所は、とても慕われていたジャニー氏の人望によってタレントをつなぎとめていた。だがジャニー氏の逝去によってその義理と人情のつながりが切れてしまえば、ジャニーズ事務所に残る理由はなくなる。メリー氏が経営から離れたことも大きいと見られる。

公取委の「注意」とメディアの多様化

 もうひとつが、ジャニー氏の死去から一週間ほどに報じられた公正取引委員会からの「注意」だ。ジャニーズ事務所は、民放テレビ局などに対して新しい地図の3人(元SMAP)を「出演させないよう圧力をかけていた疑いがある」とされた。“芸能界の掟”はこれで終わった。これによって干されるリスクは格段に減り、芸能人の移籍・独立の自由度が高まった。

 最後が、メディアの多様化とコンテンツのグローバル化だ。この5年ほど、YouTubeやNetflixなどの動画配信、AppleMusicやSpotifyなどの音楽配信がより浸透し、われわれのメディア環境は激変した。地上波を中心とするレガシーメディアは完全に相対化された。独立した芸能人は、たとえ地上波テレビから干されても、他に選択肢がたくさんある。手越祐也はYouTubeで伸び伸び活動し、山下智久は海外ドラマに出演し、長瀬智也は退所後すぐにInstagramを始めた。

 以上の理由で、もはやジャニーズ事務所からの退所は、大きなリスクではなくなった。むしろ自由に活動したい芸能人にとっては、機動性の劣る大手プロダクションのほうがマイナスとなる。

筆者作成。
筆者作成。

実業家でありレースチームの監督

 ただ、今回の近藤の退所には、さらにふたつの要因があると考えられる。ひとつは近藤側に、もうひとつはジャニーズ事務所側にある。

 広く知られているように、近藤真彦は20代から自動車レースの活動を続けている。ドライバーはすでに引退したが、現在も自身のチーム・KONDO Racingの監督として活躍している。チームを運営するのも、自身が経営するエムケイカンパニーだ。つまり、本業の芸能活動以外にかなりしっかりと副業を続けてきた。

 そして、この10年ほどの近藤の芸能活動を振り返れば、もはや本業と副業の立場が逆転しているようにすら見える。つまり、レース会社経営のかたわらで芸能活動をしてきたようなものだ。副業で成功する芸能人も少なくないが、それがレース業なのは珍しい。

 その事業がどれほど順調かはわからないが、日産やペプシ、サントリーなど多くの有力企業がスポンサードしている(KONDO Racingホームページ)。近藤は、その実力と知名度を活かして長らく手腕を振るってきた実業家だ。

 そうした近藤にとって、ジャニーズ事務所を経由する芸能活動はむしろ機動性に欠ける状況だったかもしれない。今後の芸能活動は自身が経営するエムケイカンパニーで行うそうだが、ふたつの仕事の窓口が一本化するので、効率が良くなる可能性もある。

2005年2月27日、F1ドライバーのラルフ・シューマッハ(左)と握手を交わす、トヨタのフォーミュラ・ニッポンチーム監督としての近藤真彦。
2005年2月27日、F1ドライバーのラルフ・シューマッハ(左)と握手を交わす、トヨタのフォーミュラ・ニッポンチーム監督としての近藤真彦。写真:ロイター/アフロ

コロナ禍が影を落とすエンタテインメント界

 一方、ジャニーズ事務所にとっての近藤は負担となっていたかもしれない。大功労者ゆえに厚遇を維持してきたと考えられるが、この10年ほどの近藤の芸能活動を見ると、けっしてそれに見合うものになっていたとは考えにくい。

 そしてコロナ禍が起きてしまった。すでに1年以上エンタテインメント界は厳しい状況に置かれているが、ジャニーズも同様だ。おそらく昨年度の売上は激減したと予想される。

 ジャニーズの場合は、グループアイドルを中心とするので必然的に多くのタレントと専属契約を結んでおり、さらに練習生扱いのジャニーズJr.も200人ほどいると見られる。

 さらに、東京・新宿区には東京グローブ座を保有している。そもそも劇場はランニングコストがかかるが、緊急事態宣言のなかでいくつかの公演は中止され、その後も感染防止対策のために観客数も減らされている。

2018年12月9日、フェンシング全日本選手権大会の際の東京グローブ座。イギリスの劇場を模して、日本では珍しい円筒形になっている。設計は磯崎新。
2018年12月9日、フェンシング全日本選手権大会の際の東京グローブ座。イギリスの劇場を模して、日本では珍しい円筒形になっている。設計は磯崎新。写真:アフロスポーツ

 こうしたなかで今年1月に発表されたのは、ジャニーズJr.の年齢制限だ。これは、Jr.たちの活動を2023年から原則として満22歳までとするものだ。ジャニーズ事務所はその理由を「多様な未来を確保・尊重するため」としているが(「ジャニーズJr.制度改定に関するご報告」2021年1月16日)、事業のスリム化も念頭に入れられているはずだ。要はリストラだ。

 つまり、近藤との契約解除にもコロナ禍が影を落としている可能性がある。もちろんジャニーズ事務所が倒産するようなことはないが、先進国でワクチン接種がもっとも遅れている日本では、この状況からの脱出にはまだ時間がかかると見られる。近藤との契約関係の解消(退所)は、ジャニーズにとっても助かるわけだ。

“共演NG”を吹き飛ばす現役&元ジャニーズ

 以上を踏まえると、今回の一件は、近藤真彦にとってもジャニーズ事務所にとってもWin-Winの結果だと考えられる。双方にとって大きなデメリットはない。退所を申し出たのは近藤のほうだと報じられているが(「スポニチ Sponichi Annex」2021年4月30日配信)、長い関係のジャニーズ事務所に気を遣った結果なのだろう。

 むしろ、楽しみなのは今後だ。

 元SMAPの中居正広は、昨年3月いっぱいでジャニーズ事務所との専属契約を解消して独立したが、その後もレギュラー番組を継続し、ジャニーズ事務所のタレントとも当然のように共演している。ジャニー喜多川氏の思い出話も、以前と変わらない様子で話している。

 あるいは、嵐の活動休止までを追ったNetflixのドキュメンタリー『ARASHI’s Diary -Voyage-』では、松本潤の対談相手としてONE OK ROCKのTakaが登場する(第21話)。2003年にNEWSメンバーとしてデビューしたTakaは、その後ジャニーズタレントとの共演がいっさい見られなかった。しかし本丸のドキュメンタリーにいきなり登場したのだ。

 それは地上波テレビ局などに対する、「もう忖度しなくていい」というメタメッセージでもあるのだろう。ジャニーズにとっては、もしまた圧力めいた行為をすれば、今度は公正取引委員会から「警告」が出される可能性がある。次に待つのが「行政処分」となる「警告」(=イエローカード)は、法人にとってはきわめて重い。そうした事態に至らないための努力をしているようにも見える。

 “共演NG”といったパワハラめいたコミュニケーションは、もはやなくなったのである。

 

“ギンギラギンにさりげないやり方”

 元SMAPの3人がジャニーズ事務所との専属契約を解消し、新しい地図として活動を始めて3年半が経過した。

 退所直後から月に1度ABAMAで放送されている『7.2 新しい別の窓』には、さまざまな芸能人が出演してきた。番組当初はいっさい登場しなかった吉本興業やワタナベエンターテインメントなどの所属タレントも、段階的に出演するようになった。“共演NG”はほぼ消えた。

 だが、いまだに新しい地図とジャニーズ事務所のタレントとの共演は、現役・元ともに見られない。元SMAPの中居正広も、番組で3人が話題にしてもまだ共演は見られない。

 こうした状況において、近藤真彦の存在は突破口として大きな役割を果たすだろう。あるいは、田原俊彦と野村義男を含めた3人で出演する企画もありうるだろう。

 新しい地図の3人にとっては大先輩であるたのきんトリオと、どんな回顧をするのか興味は尽きない。そして近藤の出演こそが、さらに旧い因習を突破することにもつながる。

 つまり、ギンギラギンにさりげなく、近藤真彦のやり方を見せてほしい──I got you baby, I need you baby, I want you baby, Right on!

■関連

・グローバル時代のジャニーズ事務所──組織体制の変化、公取委の監視、メディアの多様化とコンテンツ競争(2021年3月17日/『Yahoo!ニュース個人』)

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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