NiziUの大ヒットが日本の音楽産業を打開する――ジャニーズ事務所は既得権益に縛られたまま

NiziUの9人(公式ホームページより)。

大ヒットを続けるNiziU

 誕生したばかりのガールズグループ・NiziUが、予想以上の大ヒットを続けている。6月29日に発表されたプレデビュー曲「Make you happy」は、YouTubeの視聴回数が1ヶ月で7000万回に達しようとするほどだ。

 日本出身の9人で構成されるNiziUは、今年上半期に放送されたオーディション番組『Nizi Project』(Hulu/YouTube)から生まれた。地上波でも日本テレビ『スッキリ!』でダイジェスト版が放送されたこともあり、大きな注目を浴びている。

 この企画は、TWICEを生んだK-POP大手のJYPエンターテインメントと、日本のソニー・ミュージックが手を組んだものだ。いわばK-POP日本版といったグループだ。長期に渡るオーディションを経て1万人から選ばれた9人は、まさに精鋭揃いだ。

 ビルボード・チャートでは、ミュージックビデオ(MV)が公開された週に2位にランクインした(7月13日付)。地上波放送があったとはいえ、新人がいきなり2位に入るのは異例のことだ。

 一方、この週の1位を飾ったのは、Hey!Say!JUMPの「Last Mermaid…」だった。ただ、この週以降の推移をNiziUの「Make you happy」と比べると、非常に興味深い傾向が見られる。

 先に結論を書けば、それは古いメディアを中心とするジャニーズ事務所と、新しいメディアを中心とするK-POPの違いに起因する。

オリコンとビルボードの違い

 日本で音楽チャートといえば、長らくその中心にあったのはオリコンランキングだ。その特徴は、レコードやCDなどパッケージ(メディア)売上を基準としていたことだ。

 一方、10年代に入って存在感を徐々に増していったのが、アメリカ発のビルボード・チャートだ。2008年から日本で本格的にサービスを開始したビルボードの特徴は、CDだけでなくさまざまなメディアでの音楽受容を合算した複合チャートにある。

 ビルボードは、メディアの多様化に合わせて、チャートを構成する項目も年々変化させている。現在(今年)は、CDセールス・ダウンロード数・ストリーミング数・ラジオ放送回数・PCによるCD読取数(ルックアップ)・ツイート再生数・動画再生回数・カラオケで歌われた回数、の8項目からなる。詳しい比重は不明だが、これらの合算でランキングが構成される。

 その特徴は、パッケージ(CD)ではなく曲を単位とすることだ。よって、論理的にはCDのカップリング曲やアルバムのなかの一曲がチャートで1位を獲得する可能性もある。

 オリコンも昨年からデジタルも含んだ合算ランキングを始めたが、その項目はCDセールス・ダウンロード数・ストリーミング再生数の3つと限られている。現在の音楽シーンの中心と言ってもいいYouTubeなどにおけるMV再生数は入っていない。

 傾向としてはパッケージを重視するオリコン、フラットな曲単位のビルボードという違いだ。

初週のみ“ヒット”のジャニーズ

 いまでこそ合算ランキングやデジタルランキングをやっているオリコンだが、CDのみだった10年代はランキングがどんどん機能しなくなっていった。その最大の原因は、もちろんAKB48グループだ。握手券を添付することでCD販売枚数を激増させ、オリコンランキングはハッキングされてしまった。

 深刻だったのは、AKB48グループだけでなく他の多くのアーティストも、CDに特典をつけるなどして従来のビジネスモデルを維持しようとしたことだ。インターネットが普及して多様化する音楽受容の状況になかなか移行しなかったのである。

 その代表格はジャニーズ事務所だ。ここ数年は若手グループや年内で活動休止予定の嵐のデジタル配信を始めたが、それもごく一部のみ。完全に出遅れている状況だ。

 そして、この状況が進行形であることが確認できるのが、冒頭で触れたHey!Say!JUMPとNiziUの差異だ。

 ビルボード・チャートにおいて、Hey!Say!JUMPの「Last Mermaid…」は初登場で1位(7月13日付)に輝いたが、翌週は42位、翌々週以降は圏外(101位以下)とランクを下げた(図1)。

図1
図1

 こうなるのは、「Last Mermaid…」がまったくネット対応をしていないからだ。MVをYouTubeで公開せず、ストリーミングサービスやダウンロード販売もしていない。CDセールスを中心としたビジネスモデルから脱却できず、初週のトップもCDを健気に買う熱心なファンによって成立している。

 一方、同じ週に2位にチャートインしたNiziUの「Make you happy」は、それとはまったく異なる推移を見せる。この曲はCDセールスをしておらず、ダウンロード・ストリーミング・YouTubeのみで発表された。初週こそ2位だったものの、翌週は6位、翌々週は4位、そして4週目(最新)は7位と高い順位を維持している。当然、中長期的にはHey!Say!JUMPよりも上に位置するのは間違いない。

 チャート上位を維持できるNiziUに対し、3週目には圏外に落ちるHey!Say!JUMP。この違いは、ビルボードがCD(パッケージ)中心ではなく、曲単位(多メディア合算チャート)だからこそ生じる。

CDと一体化する囲い込みビジネス

 ビルボードの有料サービス・チャートインサイトでは、曲受容(人気)の差異をより詳細に確認できる。それを表すのが右の円グラフだ(図2)。

図2
図2

 Hey!Say!JUMPの「Last Mermaid…」は、CDセールスとPCによるCD読取数(ルックアップ)が全体の約86%を占めるのに対し、NiziUの「Make you happy」は、ストリーミング数とミュージックビデオ(MV)再生数が全体の約83%を占める(パーセンテージはともに円グラフから筆者が目算)。非常に好対照なデータだ。

 この受容状況が意味するのは、熱心なファンのCD購買力で短期的に人気を見せるHey!Say!JUMPに対し、広く長く楽曲が訴求し続けるNiziU、という差異だ。韓国の大手プロダクションが仕掛けるNiziUは、これまでのK-POPアーティスト同様に楽曲やパフォーマンスに力を入れ、インターネットを中心にするからこそ露出も維持され人気も拡大する。しかし、Hey!Say!JUMPはCDに依存する結果、コアなファン層のみに支えられ、現在のメディア環境では人気が拡大しにくい。

 そこから見えてくるのは、ジャニーズ事務所の囲い込みビジネスがオールドメディア(CD)と一体化していることだ。NiziUに限らず、音楽などエンタテインメント産業において、ファンクラブや会員制などの囲い込みは当然だが、このビジネスモデルが特定のメディアと一体化する必要はない。それでもジャニーズがCDを重視するのは、まだそこで十分な売上が見込めるからだ。

 実際、全体的には、日本は依然としてCDなどパッケージメディアを中心としている。一昨年から配信の売上は増えているが、それでもまだ約70%はCDとDVDの売上だ(図3)。

図3
図3

 しかし、世界的に見れば日本のマーケットだけがかなり特殊な状況だと言える。2017年の国際比較では、日本のパッケージ(CD)依存率は異常なほど高い(図4)。

図4
図4

 日本でも一昨年あたりから、若者にストリーミングサービスの浸透は著しい。筆者が教えている都内の私大で大学生200人強にアンケートを取ったところ、ストリーミングサービスの有料契約者の割合は、2018年秋は33%だったのに対し、2019年秋は56%に激増した。都会の若者たちにとって、ストリーミングサービスはほぼ定着しつつある状況だ。

産業構造改革を阻む既得権益

 ジャニーズ事務所をはじめとする日本の芸能/音楽プロダクションは、従来のビジネスモデルによる既得権益を保持しようとした結果、全体として古い産業構造から脱却できず、グローバルな競争に直面しつつある。SMAP解散後にジャニーズ事務所から退所者が相次いでいるのも、こうした古いビジネスモデルから脱却できないことがその要因のひとつだ。それは、先月退所した手越祐也さんの記者会見からも明らかだった(「変化する芸能人、変化しない芸能プロダクション──手越祐也・独立記者会見から見えてくる芸能界の変化」2020年6月25日)。

 一方NiziUは、まさにグローバルに進展する音楽産業を体現するかのような存在だ。メンバーやプロダクションによる高い水準のパフォーマンスだけでなく、メディア戦略としても時代に合ったことをしている。しかし、決して特殊なことをしているのでなく、グローバルな文化産業においては標準的な方法論だ。

 世界第2位の規模の日本の音楽産業は、旧態依然としたままだ。このままであれば、この先に待ち構える未来は間違いなく厳しいものとなる。理由はシンプルだ。インターネットはなくならないからだ。 

 JYPがソニー・ミュージックと組んでNiziUを生んだ可能性を、業界はひとつのメルクマールにしなければならない。