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老いるニッポンの『紅白歌合戦』──若返りを図る『紅白』の行く先は

松谷創一郎ジャーナリスト
PxHereの素材をもとに筆者作成。

40%前後で推移する視聴率

 大晦日におこなわれた『第69回NHK紅白歌合戦』。

 昨年もっともヒットした(ビルボードチャート)米津玄師の地上波テレビ初出演が注目され、さらに大トリではサザン・オールスターズと松任谷由実が「勝手にシンドバッド」で大騒ぎして、なかなか好評だったようだ。実際、視聴率は第1部が37.7%、2部が41.5%と、安室奈美恵の出演が注目されながらワースト3位だった一昨年よりも数字的にはじゃっかん持ち直した(ただし、統計的には誤差範囲の3.3%以内であるが)。

 そんな『紅白』は、1951年に始まりこれまで69回続いてきた。80年代中期までは視聴率も70~80%と高い水準で推移していたが、CD普及などによってひとびとの志向が多様化した80年代後半に急激に低下する。89年から二部制にするなどテコ入れをおこなって現在にいたり、視聴率はこの15年ほど40%前後で推移している。昨年と一昨年の視聴率を比較しても、この10年ほどは大きな変化はない。

筆者作成。
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“ベテラン”の元アイドルたち

 マンネリ化と言われても久しい『紅白歌合戦』だが、2018年の出演者(※1)を出演回数順で整理すると、次のグラフのようになる。

筆者作成。
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 初出演は、米津玄師をはじめ、あいみょんやKing & Prince、DAOKOなど10組。常連になりつつある2~5回には、近年安定的にヒットしている欅坂46やTWICE、星野源などが入るが、全盛期だった70年代から80年代にかけて一度も出演しなかった松任谷由実もここにカテゴライズされる。

 6回を超えると中堅と呼べる存在となるが、西野カナやPerfumeなどまだ30歳前後のアーティストもここも区分される。そして16回を超えるベテラン勢には演歌歌手がやはり目立つが、そのなかで松田聖子と郷ひろみというアイドル出身者が目立っているのが、戦後の芸能文化の成熟を意味しているのかもしれない。

※1:『紅白歌合戦』では紅白対決のメンバーを「出場者」と呼び、その枠以外の者を「特別出演」とする。昨年の場合は、大トリのサザン・オールスターズが特別出演である。

 では、経年的にはどのように変化してきたのか?

筆者作成。
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 第1回から確認すると、視聴率の低下が際立った80年代後半から90年代前半にかけて、初出演者を増やすなどテコ入れの努力がうかがえる。同時期の1990年と91年は、外国からアーティストを多く招き国際化を目指していた向きもあった。

 その後は、初出演組が2割ほどで推移する状況が続いているが、80年代以降に目立つのは出演数が21回を超えるベテラン勢だ。歴史を重ねればそれだけ各出演回数が増えるのは当然ではあるが、21回以上の出演者が占める割合がもっとも高かったのは3年前の2015年のことだ。

 10年代は、和田アキ子や小林幸子など常連組の落選も注目され、北島三郎や森進一の卒業も発表されたが(北島は昨年復帰したが)、ここ3年ほどはベテラン勢を減らして新陳代謝を図っている傾向が見られる。

中年にさしかかった嵐

 次に出演者の年齢を見ていこう。

 まず今回は、一般的に若者と区分できる34歳以下が、49%と約半分を占める。そして中年層の35~54歳までが34%、残りの16%が高年層となる。つまり、若者と中高年層が半々だ。34歳以下には、ジャニーズやAKB48などなどアイドルがやはり目立つが、嵐の平均年齢は36歳とアイドルであっても中年層に区分されるように。

筆者作成。
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 一方アイドル出身の松田聖子や郷ひろみが50代後半から60代、YOSHIKI feat. HYDEもふたりの平均は51歳で中年層に位置する。80年代から90年代にかけて若者文化を牽引してきた彼らが、そのスタイルを大きく変えることなく『紅白』に出演しているあたりに、時代の移り変わりが感じられる。昨年の場合、70代を超えるのは五木ひろしだけとなっており(北島三郎は北島兄弟との平均で算出)、年齢的にも若返りの状況が認められる。

66年は出演者の86%が34歳以下

 だが、経年的に見ると、『紅白』の出演者の多くが若者で占められていたのは60~80年代にかけてだ。なかでも、もっとも34歳以下の割合が高かったのは1966年になる。この年は出場者の50組中、24歳以下が20組(40%)、25~34歳が23組(46%)と、若い世代が全体の86%を占めた。具体的には、この年最年少の都はるみ(18歳)をはじめ、中尾ミエ(20歳)、吉永小百合(21歳)、水前寺清子(21歳)、舟木一夫(22歳)、橋幸夫(23歳)、坂本九(25歳)、島倉千代子(28歳)、加山雄三(29歳)、北島三郎(30歳)などである。

筆者作成。
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 紅組には35歳以上は越路吹雪(42歳)しかおらず、紅組のトリもまだ29歳の美空ひばりだった。大トリは出場者のなかで最年長の三波春夫だったが、それでも43歳だ。この時期は、ビートルズ人気を受けて日本でもグループ・サウンズブームが起こり始めた時期でもあり、同時に、ひとつのジャンルとして演歌という言葉が一般的にも認知されていく頃でもある。

 なんにせよ、視聴率が70%台で推移していたこの時代において、若い歌手たちの音楽を若者だけでなく全世代で楽しんでいたことがうかがえる。もちろん現在と比較すると若者がずっと多かった時代ではあるが、だれもが知っている“大衆歌謡”が成立していた時代だった。

 こうした歌手の多くは、1947~1951年生まれの団塊の世代だ。和田アキ子や細川たかし、八代亜紀、谷村新司、五木ひろし、都はるみ、森進一など、後の常連組がここに含まれる。1990年前後に35~44歳の世代が目立つのも、この団塊の世代が中年にさしかかったからだ。戦後の芸能文化は、60年代以降テレビを中心に発展してきたが、その中心にいたのもこの団塊の世代だった。

 現在はその先頭が70代に達した団塊の世代だが、『紅白歌合戦』は戦後芸能界に大きな貢献をしてきた彼らの存在を無碍にしなかったゆえに、80年代中期以降の高齢化および低迷が訪れたと考えることもできるだろう。

高まり続けた出演者の平均年齢

 最後に、出演者の平均年齢と年齢の中央値の推移を確認してみよう。

 すると平均がもっとも低かったのは、前述した34歳以下の割合がもっとも高かった1966年(26.8%)だった。中央値で見ると1970年の24.7歳がもっとも若かった(※2)。これらの数値からも、60~70年代にかけての『紅白』出場歌手は、とても若かったことがうかがえる。

筆者作成。
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※2:中央値とは、項目(この場合は出演者)のデータ(同・年齢)を順に並べていったとき、もっとも中間に位置する数値のこと。項目が偶数の場合は、中間のふたつの平均で算出する。1970年が24.4歳となったのは、ピンキーとキラーズが24.7歳(グループ平均)、続く佐良直美の年齢が25歳だったため。

 だが70年代後半以降、『紅白』出演者の年齢は徐々に上がっていく。

 平均年齢がもっとも高かったのは、2015年の41.3歳だった。たった3年前のことだ。この年、美輪明宏が史上最高齢の80歳で出演し、68歳の森進一も「卒業宣言」をして最後の出演となった。また65歳の和田アキ子と細川たかしもこの年を最後に出演していない。この翌年から下がる傾向にあるが、それでも先日の2018年は38.4歳となっており、80年代よりも高い状況が続いている。

 中央値を見ると、00年代以降は平均との差が目立つようになっている。年にもよるが、3~5歳くらい若い傾向がうかがえる。これは、高齢層と若年層の人数の違いによって生じている。

星野源発言は『紅白』改革の予兆?

 ここまで見てきたように、60~70年代の全盛期にかけて『紅白歌合戦』の出演者は若かったが、80年代中期以降は出演者の年齢が高まっていく。これは視聴率が下がっていくプロセスと重なるが、若者がかならずしも若い歌手のファンだとはかぎらないし、80年代中期以降の『紅白』の視聴率低下はそれよりもCDの普及などにともなう音楽志向の多様化という側面のほうが強いだろう。

 ただ、ひとつ確実に指摘できるのは、『紅白』の場において年配者が若い歌手・アーティストの出演の障壁になっている事態だ。先に見てきたように団塊の世代を中心とする歌手たちは、若き日から長らく出演し続けてきたケースが目立つ。テレビを中心とした60年代以降の芸能界では、この世代にとってはいまほど先輩は多くなかったはずだ。

 一方、若い歌手やアーティストにとっての『紅白歌合戦』とは、古き日本の芸能界の象徴として映っているかもしれない。実際若い歌手ばかりだった60~70年代もロックバンドやニューミュージックの歌手の出演は少なく、過去2年にかぎっても安室奈美恵や米津玄師は会場のNHKホールを避けるかのように他の場所から中継で出演した。それは意図的に番組と距離を置くスタンスのようにも感じられる。

 『紅白』は、2016年から東京オリンピックまでの4か年の共通テーマとして「夢を歌おう」を掲げてきた。この3年の若返り策は、おそらくその一環だ。今後のポイントは、それをどの水準まで進めるかということになってくるだろう。周知のとおり、日本は先進国のなかでも極めて高齢化した社会だ。そのなかで公共放送のNHKは、出演者だけでなくその構成についても微調整しながら視聴者に向けて『紅白歌合戦』を続けてきた。

 最後に、今回の『紅白歌合戦』ではひとつ注目されるシーンがあった。星野源が自身の冠番組『おげんさんといっしょ』のキャラクター・おげんさん(母親役)に扮し登場していたときのことだ。他のキャラクターから、「おげんさんは白組と紅組どっちなの?」と聞かれ、おげんさん(星野源)はこう回答した。

あーどっちなんだろう? 確かにおげんさん、男でも女でもないから、どーしていこうかしら。

だから思ったのは、紅白もこれからね、紅組も白組も性別関係なく混合チームで行けばいいと思うの。そしたらおげんさんも出れるし。

出典:『第69回NHK紅白歌合戦』2018年12月31日

『紅白歌合戦』は、これまでそれが当然のように紅組=女性、白組=男性という対抗戦の構成となっていた(※3)。だが、LGBTの社会的立場が認知されつつある社会において、この単純な二分法の対決図式自体が古いものとなりつつあるのは言うまでもない(その勝負の結果はそもそも重視されていないとしても)。

 星野源のあの発言は、番組構成の大きな変革を予兆するようにも聞こえたのだった。

※3:男女混成グループの場合は、ヴォーカルの性別で判断されることが多かったが、AAAの場合は紅組や白組の両方で出場している。

■関連

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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