バドミントン福島・廣田組に科せられる2年間の出場制限は合法か──実業団スポーツと独禁法の関係

2017年12月3日、全日本総合選手権大会で優勝した福島由紀・廣田彩花組(写真:松尾/アフロスポーツ)

五輪メダル候補が2年間も出場制限

 2017年の世界バドミントン選手権・女子ダブルスで銀メダルを獲得した、福島由紀・廣田彩花組。2年後の東京オリンピックでもメダルを期待されるこのふたりが、突如として所属する再春館製薬所を退社するとの報道が4月23日になされた。両選手は、再春館の元監督・今井彰宏氏を追って5月から他チームに移籍すると見られる。

 こうした報道で注視すべきは、以下の一文だ。

 2人は岐阜トリッキーパンダースに入団するが、再春館製薬所は移籍を認めない方針。日本実業団連盟の取り決めで、前所属の移籍承諾が得られていない場合は、国内の団体戦に2年間出場できない。

出典:共同通信2018年4月23日付「世界選手権銀ペアが再春館退社へ──バドの福島、広田組」

 福島・廣田両選手は、それぞれ24歳と23歳。アスリートとして全盛期にあると言っていい。だが、そんな彼女たちがこれから2年間、国内の団体戦出場を制限される。それは大きな損失となる可能性がある。

 移籍制限──スポーツ界や芸能界で昨今強く問題視されているこの規定は、はたしてどれほど合法なのか。

ラグビーでは廃止された移籍制限

 福島・廣田組が出場できなくなる大会は、日本実業団バドミントン連盟(籾井勝人会長)が主催する厚生労働大臣杯全日本実業団選手権のことだ。今年も6月に開かれるこの大会には、たしかに「選手のチーム間の移籍(略)については、その相互チームの代表者の承認を要し、もしいずれかの代表者の承認が得られない場合は、その選手は本大会への出場を2年間認めない」との規定がある(「大会取り決め事項」)。

 また、社会人チームが競うバドミントンS/Jリーグも、この規定に則っていると見られる。よって両選手は、S/Jリーグへの出場も難しい状況に置かれたと考えられる。なお、S/Jリーグ運営事務局の所在地は、実業団バドミントン連盟とまったく同じであり、関係者も多く重複している。

 だが、このような移籍による出場制限は、独占禁止法に抵触する可能性がある。今年2月、公正取引委員会は「『人材と競争政策に関する検討会』報告書」を発表し、スポーツ選手の移籍制限にも具体的に言及している。

 この公取委の見解と相前後して、目立った動きも生じている。ジャパンラグビートップリーグを運営する日本ラグビー協会は、報告書発表の4日後に移籍制限の撤廃を発表した。それまで同リーグでは、前所属チームの承諾がないかぎり、移籍しても1年間試合に出場できない規約があったからだ。実際これによって、昨シーズンも20代の2選手が1年間リーグ戦へ出場できなかった。

実業団連盟は規約改正の検討に

 24日午前中の筆者の取材によると、再春館製薬所は福島・廣田組から辞表を受け取っていたことを認めた。だが、両選手の退職予定日が1週間後の4月30日付ということもあり、一部で報じられた「移籍を認めない方針」については、「そのような発表はしておりません」と明言を避けている。夕方には、同内容を正式に発表した。

 一方、移籍制限の規約を設けている日本実業団バドミントン連盟の今井茂満理事長は、今後について以下のように話す。

「公取委の判断やラグビートップリーグの規約改正については把握している。われわれはずっと常識の範囲内でやってきたが、過去に引き抜きなどがあって移籍制限の古い取り決めが生きたままになっていた。これから規約改正を検討しなければならないと考えている」

 つまり現状では、再春館による移籍承諾の判断は未定であり、実業団連盟は規約を改正する可能性がある、ということにとどまる。現状のまま大きな変化がなければ、独禁法に抵触するおそれも出てくる。

東京・霞が関にある公正取引委員会(2018年3月30日/筆者撮影)
東京・霞が関にある公正取引委員会(2018年3月30日/筆者撮影)

 こうした騒動のなかでひとつ留意する必要があるのは、福島・廣田両選手の契約形態だ。両選手は、これまで再春館製薬所と社員契約を結んでいた。移籍先である岐阜トリッキーパンダースの親会社サムライ・ジャパンの村井裕介オーナーも、5月1日からの社員契約を予定していると話す。決して業務委託契約(プロ契約)ではない。

 公取委の「人材と競争政策に関する検討会」では、社員契約(雇用)についての言及も少なくないが、おもに議題とされたのは業務委託契約についてだった。日本の実業団スポーツは、野球のように、プロと実業団(社員契約)が明確に分かれているケースはむしろ少数だ。陸上などプロ契約が増えている競技も多く、「実業団=ノンプロ、アマチュア、社員契約」という図式はかならずしも成立しない時代だ。

公序良俗に反する移籍制限規定

 こうした今回の一連の騒動について、弁護士で早稲田大学スポーツ科学学術院の松本泰介准教授はこのような見解を述べる。

「本件は、そもそも実業団連盟による出場資格の問題なので、企業との契約形態の話というより、主催者が定める出場資格の法的合理性が問われます。移籍承諾が出ないと2年間も大会に出場できないほどの強い拘束自体が、独占禁止法や他の法律でも公序良俗に反する点で無効にされる可能性があります。社会的にもなかなかコンセンサスは得られないでしょう。そこに正当性を見出すことはなかなか難しいと思われます」

 実業団バドミントン連盟は、NHK前会長である籾井勝人氏が会長を務め、役員にもさまざまな企業の社員が名を連ねる(「連盟役員について【平成29-30年度】」)。実業団連盟の規約は、これら各企業のコンプライアンスとの整合性も問われてくるだろう。

 ひとつ加えるならば、今回の移籍の背景には再春館製薬所の元監督・今井彰宏氏の存在がある。再春館によると、今井氏は金銭的不正行為によって2017年1月に監督を解任され、今年の2月に同社を退職している。再春館は、昨日のリリースで日本バドミント協会へ告発するとも発表している。

 一方、すでに今井彰宏氏が在籍し、福島・廣田両選手も移籍すると見られる岐阜トリッキーパンダースは、今年の3月にサムライ・ジャパン社に買収されたばかりだ。村井裕介オーナーは、将来的には選手たちのプロ化を目指しており、全国各地にアカデミーを作る構想もあると話す。

最優先されるべきはアスリート

 今回の移籍騒動がこれからどのように推移するかはまだ見えないが、複数の要素が絡み合って事態を複雑にしている。

 きっかけは再春館製薬所と今井元監督の間で生じたトラブルであり、もうひとつは福島・廣田両選手の移籍で表面化した実業団連盟の出場制限規定の問題だ。さらに、その背景にはあくまでも実業団として続けてきた連盟側と、岐阜トリッキーパンダースを子会社化したばかりのオーナーとの、アスリートの立場をめぐる思想的な対立が透けて見える。

 ただ、そうした混乱状況のなかでもっとも優先して考えなければならないのは、間違いなく福島由紀・廣田彩花両選手の立場だ。2年後の東京オリンピックを目標とする20代のアスリートの将来を、こうした混乱によって台無しにすることがあってはならない。

 実業団連盟、再春館製薬所、トリッキーパンダースの三者が、今後どのような対応をするか注目される。