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勝負を分けた監督力の差──2016年日本シリーズを振り返る

松谷創一郎ジャーナリスト
日本ハムファイターズ・栗山英樹監督(2014年)(写真:アフロスポーツ)

圧勝で決めたファイターズ

日本ハムファイターズは、強かった。

日本シリーズ第6戦は、ファイターズが広島カープを10対4でくだして日本一の座を獲得した。これまでともに本拠地では負けていなかったが、広島で勝利したファイターズは“内弁慶シリーズ”を打破した。

簡単に第6戦を振り返っておくと、初回のファイターズの先制から始まり、カープの逆転、ファイターズの再逆転、カープが追いつくという一進一退の攻防で7回まで進んだ。両チームとも先発投手は5回をもたずに降板し、試合は中継ぎの出来に持ち込まれた。

勝負は、8回表2アウトから決まった。6連投のジャクソンが西川、中島、岡に3連打をくらい、中田に押し出しの四球。続くピッチャーのバースもタイムリーを放ち、とどめはレアードのグランドスラムと、完膚なきまでカープを叩きのめした。

カープは、2点リードされた5回裏に丸のソロホームラン、6回裏に代打・下水流のタイムリー内野安打で追いついたが、この試合では控えに回っていた安部と新井を4回裏に代打で使ったために、8回裏は代走で出た赤松をそのまま打席に立たせざるを得なかった。積極策に出たものの、4回はまだ岩本や下水流がベンチにいたために、少々前のめりだったという印象もある。

札幌の3試合は接戦だったが、最後はファイターズにカープが力負けしたという印象だ。

勝負を決した中継ぎの出来

さて、このシリーズを通して振り返ると、チーム力に大きな差は感じなかった。打線では、ファイターズの中田やレアードはしっかりとチャンスをものにし(4勝中2勝は中田、1勝がレアードの決勝点)、カープも1~3番の“タナキクマル”は機能し、エルドレッドも3本のホームランを放った。

打線が互角であったことは、数字にも表れている。ファイターズが、打率.228・本塁打5・出塁率.324・OPS.692・得点24だったのに対し、カープは打率.223・本塁打5・出塁率.320・OPS.661・得点19となっている。第6戦が6点差となったものの、それほど大きな差にはなっていない。

投手も、総合的には大きな差はない。ファイターズは、防御率2.55・被安打42・被四死球26・WHIP1.28・投球数910。カープは、防御率こそ3.38だが、被安打44・被四死球28・WHIP1.29・投球数959。防御率に差が出たのは、第6戦の7自責点があるためだ。

ただ、その内実に目を向けると差がはっきりする。それは先発と中継ぎ投手の違いだ。ファイターズは先発5投手の防御率が2.93(27.2回)だったのに対し、中継ぎ7投手は2.13(25.1回)と先発よりも良い。しかも、先発とほとんど変わらないほどの投球回だ。

一方カープは、先発4投手の防御率は1.05(34.1回)と極めて良いものの、中継ぎは7.58(19回)とひどく悪い。なかでも6連投で、うち3度の逆転打を食らったジャクソンは、5.2回を投げて自責点10、防御率15.88と完全に“逆シリーズ男”になってしまった。

通してシリーズを見ていても瞭然だったが、中継ぎの出来が勝敗を分けてしまったことはデータからも十分に裏付けられる。

カープの敗因は采配

第5戦までで十分に明白だったが、やはり緒方監督の投手起用の頑なさがカープ敗戦の主要因だろう。

先発を4人で回すリスクを取ったのは正解だったが、全試合でリードあるいは同点で終盤に至ったために、すべて勝ち試合の継投になった。ここで緒方監督は、頑なにシーズン中と同じ継投を繰り返した。結果、今村とジャクソンが6連投となった。これは1956年の西鉄ライオンズ・稲尾和久以来の記録だ。それくらい異例のことだ。

ジャクソンは、三振を取るスライダーがことごとく甘いところに入った。第3戦の中田のタイムリー、第4・6戦のレアードのホームランはすべてスライダーだった。2アウトから四球でランナーを出すなど、ストレートのコントロールも乱れ、空振りを取りに行ったスライダーが打たれたというパターンだった。結局ジャクソンは、チーム総自責点20のうち半分の10点を喫する散々な出来だった。

ジャクソンは、今年のカープの快進撃を支えた一人だ。ただ、シーズンでも好不調の波があるように、このシリーズでは明らかに不調だった。ジャクソンは、今シーズン67登板のうち12試合で点を取られている。だが、その12試合のうち9試合は連続しての失点だった。これは登板数の多い今村や中崎と比較しても、非常に顕著な特徴だ。悪いイメージを引きずるタイプなのかもしれないが、好不調の波の激しさがシーズン中にも少し出ていたのだ。

問題は、そうしたジャクソンの出来ではない。不調のジャクソンを6試合も連続で使い続けたベンチワークにある。第戦の戦評でも触れてきたように、緒方監督の采配は意固地なくらいにワンパターンだった。全試合でベンチ入りした福井・九里・一岡の3投手は、結局一度も登板しないままだった。振り返れば、第2戦で4点リードの際にこの3人のひとりでも試していれば、もっと継投の幅が広がったと思える。それができなかったのは、シーズン中と同じ戦い方にこだわったからだ。短期決戦の経験のなさは、選手ではなく監督のほうが強かった。

緒方采配は、ほかにも第3戦の守備固めをしなかったこと、第4戦の早すぎた守備固めとDH解除、そして第6戦ではジャクソンがピッチャーのバースにまでタイムリーを打たれたものの続投したことなど、雑な点がこの6試合でも多く見られた。

対して、ファイターズの栗山監督はフレキシブルだった。第6戦でも増井を3回で降板させて勝負に出た。それは中継ぎへの信頼の厚さもあったのだろうが、戦況のなかでの臨機応変な対応でもあった。また8回表のチャンスでは、中田の打席で、ネクストバッターサークルに大谷を立たせた。実際に代打は送らなかったものの、これも強烈なプレッシャーになった。

結局のところ、戦力の差ではなく、監督力の差が勝負を分けたという印象が強く残る日本シリーズだった。栗山監督は、緒方監督よりも一枚上手どころか、三枚以上も上手だった。

幻となった黒田対大谷

なにより残念なのは、引退を表明していた黒田博樹と大谷翔平の先発が予定されていた第7戦が行われなかったことだ。これはカープファン、ファイターズファンだけでなく、多くのプロ野球ファンが期待していたことだった。勝っても負けても、黒田には十分すぎるほどの花道となったはずだ。これがとにかく残念でならない。

ただ、そのことはファン以上に選手自身が身をもってわかっているはずだ。第6戦、カープが粘って追いついたのは、黒田のためだった。しかし、黒田の登板はもう二度と見られない。

カープにとって、この日本シリーズの敗退は来年への十分な糧となるだろう。前田健太が抜け、黒田も抜け、カープは2年で先発投手ふたりを失うこととなる。打線は来年もそれなりの結果を出すだろうが、福井や岡田、九里、戸田、薮田、塹江などの若手投手陣が覚醒しないことには連覇はそう簡単ではないはずだ。今シーズンの野村祐輔のように、彼らの奮起が望まれる。

この悔しさを忘れないでほしい。ファンも絶対に忘れない。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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