独立系候補者から読む都知事選──2016年都知事選・小池百合子候補「圧勝」の影にあるもの

渋谷で演説する東京都知事選・マック赤坂候補者(写真:アフロ)

小池百合子氏「圧勝」

7月31日、東京都知事選挙の投開票が行われました。舛添要一前都知事の辞任、保守分裂による三つどもえ、野党統一候補のスキャンダル報道など、複数の要因によって今回の選挙はいつも以上に注目を浴びました。

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結果としては、自民党都連を無視して立候補した小池百合子候補が、約291万を獲得して圧勝しました。自民党推薦の増田寛也候補は179万票、野党統一候補の鳥越俊太郎氏は134万票なので、かなりの差がつきました。

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この小池氏の291万票とは、過去21年の間に行われた8度の都知事選でも、3番目に多い得票数であり、得票率でも4番目の高さです。公示後の情勢調査では、小池氏が有利だとは伝えられていたものの、そうした予想を大幅に上回る結果だと言えます。

この最大の要因は、やはり有権者の4割ほどである無党派層の票が小池氏に流れたことでしょう。選挙中に鳥越氏のスキャンダル報道もあり、無党派層の票が無所属で立候補した小池氏にかなり流れたと推測できます。

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また、そもそも今回の選挙は投票率が高かったことも特徴です。過去8度の選挙では、2番目の高さです。これは当初は接戦が予想されていたからだと思われますが、今年から選挙権を得た18~19歳にとっては夏休み期間、さらに『ポケモンGO』のヒットも投票率を押し上げた要因かもしれません。

さて、こうした今回の都知事選では、もうひとつこれまでにはなかった現象が生じました。それは、都知事選では史上最多となる21人が立候補したことです。小池・増田・鳥越の三氏を除く「泡沫候補」とも呼ばれるこの18人は、そのほとんどが政治的な基盤を持たない独立系の候補者です。

彼らは、勝つことが難しいこの選挙に、いったいなぜ立候補したのでしょうか──。

上杉隆候補の約18万票

今回の独立系候補では、MXテレビで冠番組も持っていたジャーナリストの上杉隆氏が、約18万票(得票率2.74%)を獲得しました。次に、ヘイトスピーチで注目された在特会元会長の桜井誠候補が約11万票(得票率1.74%)を得ました。過去3回の都知事選に立候補したマック赤坂氏をはじめ、それ以外の16人は全員が得票数10万・得票率1%を下回る結果となりました。

では、上杉・桜井両候補のこの結果は、過去20年ほどの都知事選において、どれほどの位置づけになるのでしょうか。得票率10%未満の候補者で比較したのが、この表です。

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上位4人は、元政治家や政治団体のメンバー、既成政党の支援を受けた候補者が並びます。上杉隆氏はその次に来る結果ですが、6%以上の得票率の上位4人と比べるとがくっと低い数字になります。桜井誠候補は、前回まで都知事選の常連だったドクター・中松(中松義郎)氏と同じくらいの結果です。都知事選常連のマック赤坂氏が、今回過去最多の約5.1万票だったことを踏まえると、桜井候補の11.4万票は独立系候補のなかでは、少なくない得票数と言えるかもしれません。

今回の都知事選では、街頭でヘイトスピーチを続けてきた桜井候補がどれほど得票するかは、それなりに注目されていました。それは、前回2014年の都知事選に立候補した田母神俊雄氏が、約61万票(得票率12.55%)を獲得した背景があるからです。このふたつの異なる結果は、愛国系保守層(田母神候補)とレイシズム層(桜井候補)の差異として、ひとつの目安にはなるものでしょう。

桜井候補の得票率は1.74%ですが、有権者数全体における絶対得票率では1.03%になります。レイシズムを支持する層は、100人にひとりかふたり程度だということです。

独立系得票率7.55%

上杉・桜井両候補が得票率1%を超えたと言っても、しかしやはりそれは微々たる数字にしか過ぎません。それにも満たない他の16人の候補者はそれ以下ということです。同時に彼らは、選挙前に法務局に預けた供託金300万円を没収されることとなります。18人ですので、総額5400万円です。

日本の選挙では、国政・自治体にかかわらず立候補するにあたって一定の金額を法務局に預けなければなりません。都道府県の知事選挙では、300万円が必要とされます。このお金は、有効得票総数の10分の1(得票率10%)に達しなければ戻ってきません。今回の選挙のケースでは、小池・増田・鳥越の三氏は10%を超えていますが、それ以外の候補者は18人全員を合わせても7.55%にしかなりません。

しかし、失礼ながら彼らのほとんどは当選を目的とせず、おそらく自己主張と売名を目的に立候補しています。都知事選は、選挙公報がすべての家庭に配られ、周囲に邪魔されずに街頭で主張を繰り広げることができ、さらにNHKで6分ほどの政見放送が幾度か放映されます。なかには夜の22時台に放映される候補者もいます。また、ネット選挙が解禁され、政見放送がネットにアップされることもあり、ネットで強く注目を集めることを目的とした候補者も今回複数名いました。こうしたなかでは、供託金300万円を宣伝費と考える候補者も少なくないはずです。

この300万円という額には、当然のことながら賛否があります。大きく分ければ、それは「高すぎる」「安すぎる」「ちょうどいい」という三つの意見です。もしそこで売名行為を抑止することが目的ならば、それには極端に高くするか、より安くするかのどちらかになるでしょう。極端に高くすれば立候補者は減り、安くすればさらに立候補者が乱立して個々人が目立たなくなるからです。

これは被選挙権のハードルをいかに調節するかという問題でもありますので、現実的にはそのハードルを下げることが現実的でしょう。

推定7.4万の無効票

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今回の選挙では、独立系候補者が乱立したばかりでなく、その得票数も決して少なくなかったことも特徴です。得票率10%未満の候補者の総得票数では、松沢成文氏が立候補した2012年、大前研一氏などが立候補した1995年に次ぐ、3番目に多い約49万票です。

全体の状況としては、投票率が高く、同時に独立系候補者の得票数が多かったのです。傾向としては、2012年と似ています。このときも投票率が高く、独立系候補者が多く票を集めました。なかでもドクター・中松氏は、自己最高の約13万票を獲得しています。

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同時にこのときと似ているのは、無効票の数も多かったことです。2012年は、推定約21万票の無効票がありました。今回は、2番目に多い推定7.4万票が無効になっています。無効票は、候補者の名前を書き誤ったものも含まれますが、その多くは意図的な白票(棄権)です。わざわざ投票所に行って、「棄権」の意志を表明するのです。

しかし、ともに無効票が多い2012年と今回では、「棄権」の質が異なるのも確かです。2012年は、石原都知事の衆院くら替えによって生じた選挙で、事前に大勢が決まっており、実際猪瀬氏が史上最多の約434万票で圧勝しました。ただ、今回は接戦が伝えられていたので、あのときとは状況が異なります。

このふたつの似て非なる状況から推察できることは、こういうことでしょう。

2012年は、大勢が決まっていることへの不満が無効票を招いたのに対し、今回は主要3候補への投票を回避した結果が棄権に繋がったのだと考えられます。上杉・桜井・赤坂候補などの独立系の得票数が多いのも、3候補を避けたためでしょう。より具体的に言えば、おそらくスキャンダル報道で鳥越氏への投票を取りやめた層が、保守派の小池・増田両氏を忌避し、独立系への投票および棄権に繋がったのだと考えられます。

独立系候補者への約49万票と推定7万の無効票は、合わせると約57万票になります。2012年ほどではありませんが、これは約1108万人の有権者のうち約5%に当たります。この数字は、決して小さいものではありません。

小池氏の圧勝で終わった今回の都知事選は、選挙そのものや候補者たちへの不満も見え隠れする内容だったと捉えられます。