「日本オタク党」の可能性──参院選・“オタク族議員”山田太郎人気から考える

2015年夏、コミックマーケットでTPP著作権問題について話す山田太郎氏。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

元SPEED並みの人気

 7月10日に投開票が行われた参議院議員選挙は、与党の圧勝で終わった。与党及びおおさか維新の会の議員数は、憲法改正を発議できる三分の二に達し、今後の焦点もそちらに移っていくだろう。

 全般的に情勢調査通りの結果となった今回の選挙だが(詳しくは「『議題設定』が抑圧された選挙戦」)、このなかでちょっと興味深い現象も見られた。それは、新党改革から比例代表で立候補した山田太郎議員が、落選したものの個人得票で29万1188票も獲得したことだ。

 この29.1万票とは、落選議員では圧倒的にトップだ。それどころか、全体でも13位に入る。民進党トップの小林正夫議員や社民党トップの福島瑞穂議員を上回る数字だ。上には、自民党の青山繁晴氏や片山さつき氏、歌手・今井絵理子氏の名前がある。山田氏はこれらに次ぐ人気である。もはやその人気は元SPEED並みなのだ。

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 比例区は個人の得票が党の得票とされるので、総数で山田氏の当選はならなかった。新党改革は、直前に舛添都知事の辞任などもあり、党としては逆風の選挙戦であった。結果を見れば、新党改革全体の約58万票のうち半分を山田氏ひとりで稼いだことになる。

 それにしても、山田太郎氏はなぜこれほどの人気だったのか?

“オタク族議員”!?

 山田氏のこの得票の背景には、オタク層の強い支持があったと考えられる。

 2012年のみんなの党での繰り上げ当選以降、山田氏はマンガ・アニメ・ゲームに関する活動を続けてきた。具体的には、児童ポルノ法改正に対する反対を訴えて、成果も挙げてきた。超党派で構成されるマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟でも、事務局長代行を務めている。今回は、おおさか維新の会から立候補が内定していたものの、比例区じゃないことを理由に離党し(除名され)、新党改革からの出馬となった。

山田太郎氏の実績(「山田太郎ホームページ」より)
山田太郎氏の実績(「山田太郎ホームページ」より)

 その政策で一貫しているのは、表現規制に強く反対する姿勢である。ホームページでも、「表現の自由」を3つの公約のトップに持ってきている。具体的には、以下のような実績が並んでいる。

・児童ポルノ禁止法でマンガ・アニメ規制を阻止

・実在の児童を守るために児童の養護に奔走

・国連からのマンガ・アニメ・ゲーム規制勧告をはねのけた

・軽減税率を理由にした有害図書指定を不可能に

・TPP非親告罪化からコミケ、二次創作、同人誌を守る

・通信の秘密をインターネットは基本的人権と訴える

・皆さんとのネットを駆使した双方向の意見交換

出典:参議院議員 山田太郎 公式webサイト

 本人も赤い蝶ネクタイをしてオタク的なアピールをするなど、まさに“オタク族議員”という印象だ。今回は、選挙事務所も秋葉原に置くほどの熱の入れようだった。実際、そのアピールはかなりの支持を得たと言える。

サブカルチャーと政治の関係

 オタクと政治──それは歴史的にも決して切り離すことができない関係だ。

 そもそも、1975年にスタートしたコミックマーケット(通称・コミケ)は、従来の閉鎖的な同人誌即売会との対立で生まれた。現在では3日間で55万人ほどを動員する日本最大級のイベントとなったコミケは、当初からあらゆる表現を受け入れる理念を明示している。具体的には、以下のような文言が提示されている。

コミックマーケットは、法令と最低限の運営ルールに違反しない限り、一人でも多くの表現者を受け入れることを目標とする

出典:「コミケットマニュアル」(2013年/PDF)

 時代的にもコミケは学生運動の流れを引くものだが、表現の自由をその根幹としてここまで発展・拡大した文化である。つまり、それは極めて政治的な草の根イベントだとも換言することが可能だろう。

 最近は「サブカルチャーに政治を持ち込むな」という若者の意見が散見されることもあるが、サブカルチャーは常に政治と密接な関係を持ってきた(もちろん、非政治的な言説はそもそも存在しないという前提もあるが)。オタク文化は、それをわかりやすく例証するイベントだ。

今回の山田太郎氏の得票は、このオタク文化に親しんでいる層が十分な厚みを持った勢力であることを裏付ける現象だと言えるだろう。そこから導き出されることはつまり、「日本オタク党」の可能性だ。山田氏は、一時期「表現の自由を守る党」を立ち上げていたが、憲法第21条を掲げたこの党是は、将来的にも十分な可能性を持っていると考えられる。

海外を眺めても、その可能性は十分に考えられるだろう。エコロジーから出発した「緑の党」は、ヨーロッパを中心に世界各国で十分な存在感を示しているからだ。ドイツでは長らく連立政権を担っていたほどだ。ひとつの理念から出発して勢力を拡大する党派は、世界的にはそれほど珍しいものではないのだ。

 日本では、3月の高市早苗総務相による「停波」発言など、表現の自由をめぐる問題は今後も十分起こりうると考えられる。「日本オタク党」という党名や山田太郎氏が中心になるかはさておき、表現の自由において明確な態度を打ち出す政党や政治家が求められているのかもしれない。

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