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ここだけの話、今年カープは優勝する

松谷創一郎ジャーナリスト

新人4選手が開幕一軍

ここだけの話、今年カープは優勝する

カープファンではない方々は、「こいつはなにを言ってるのだ?」と思われるかもしれない。もちろん、私だってそんなことはわかっている。現在の12球団のなかでもっとも優勝から遠ざかっているのが、カープである。

しかし、優勝してしまうのである。その強さは、昨年のシーズンである程度証明された。9月以降、急激にパワーアップしたカープは、16年ぶりにAクラスとなり、クライマックスシリーズ(CS)に進出。甲子園で阪神タイガースに見事に連勝し、日本シリーズの切符をかけて読売ジャイアンツとの対決に望んだ。

惜しくも巨人には敗れたが、正直それは仕方ないと思っていたひとも多かったはずだ。巨人が強いのはもちろんのこと、若い選手の多いカープが16年ぶりのAクラスでいきなり日本シリーズにまで行けるなんて、そんな甘い話はない。十分な結果である、と。

そんなCS直後、ドラフト会議が行われた。周知のとおり、カープは抽選で大学生ナンバーワン投手・大瀬良大地を引き当てた! 正直、この瞬間はこれだけで十分だった。クジを引いた田村スカウト(元捕手)、よくやったと。

しかし、昨年のドラフト会議はすごかった。ドラフト2位で九里亜蓮(投手)、3位で田中広輔(内野手)、4位で西原圭大(投手)を指名。オープン戦が始まると、この4選手が見事に実力を発揮したのである。

結果、大瀬良九里は、篠田や今井を押しのけいきなりローテーション入り。ただ、ここまでは予想できたことでもある。すごかったのは田中だ。オープン戦で打率.333、長打率.666と大活躍し、開幕スタメンの可能性も高いほど。まさかのドラ3新人王候補である。

そして大瀬良や九里に注目が集まりファンもさほど気をとられてなかった4位の西原も、中継ぎで7試合に登板して防御率2.45。ベテランの横山の押しのけて開幕一軍の座を掴んだ。

オープン戦を終わってみれば、なんと新人5人中4人が開幕一軍の座を掴んだのである!(※1) これは驚異的な成果だと言える。というか、順調すぎて怖い。

さらに、新人ではないが強力な選手も加入した。FAで巨人に移籍した大竹の補償選手として獲得した、一岡竜司(投手)である。年齢は23歳。学年では今村や大瀬良、久里のひとつ上、新人選手並みの若さだ。そして、この一岡もオープン戦で好投し、見事に一軍入りをした。ドライチレベルの選手をFA補償で獲れたのである! カープファン、ヨダレだらだら。

充実した若手とバックアップのベテラン

こうした新加入選手以外でも、カープの主力には実力のある若い選手が揃っている。

投手陣では、球界のエースである前田健太(88年生まれ)をはじめ、投手では一昨年の新人王・野村祐輔(89年生まれ)、WBC日本代表にも選ばれた今村猛(91年生まれ)、昨シーズン後半とオープン戦で好投し、はじめて開幕一軍を手にした中田廉(90年生まれ)、デビュー年には8勝したハンカチ世代・福井優也(88年早生まれ)などが揃っている。

野手陣では、昨年は盗塁王を獲得するなど順調に成長している外野手の丸佳浩(89年生まれ)、異様に広い守備範囲と快速の足で“破天荒”そのものの菊池涼介(90年生まれ)、さらに一昨年は入団3年目にもかかわらず低反発球のなかで14本のホームランを打った堂林翔太(91年生まれ)がいる。なお、大卒入団で今年29歳だが、めきめきと成長し首位打者候補なのは、中距離ヒッターの松山竜平だ。

このように、23~26歳くらいの選手がカープの主力を占めている。こんななかで聞こえてくるのは、その若さゆえの不安視である。たとえば「日刊スポーツ」の番記者は、「若さだけで1年を乗りきれるのだろうか」などと評している(3月27日付け)。

たしかに、そう書いてしまう気持ちはわからなくもない。しかし、よく見ればベテラン選手も十分に揃っているのである。投手ではバリントン永川河内久本。野手では石原木村昇吾広瀬。二軍には、横山、不調の元4番・栗原天谷、怪我の東出が待機している。

昨今の巨人を見ればわかるように、シーズンを通して強いチームは選手層が厚い。一年のなかで、全選手が万全の状態にあることなどない。必ず怪我人は出るし、スランプに陥る選手も現れる。このとき、バックアップの厚みがチーム状況を左右する。過去、シーズン前半に絶好調のチームが、途中で急激な失速をすることはよく見られた。たいていそういうチームは、選手層が薄かった。

しかし、今年のカープは決してそんなことはない。もしキラエルドレッドが不調になっても、スラッガーとして岩本や栗原を試すことができる。先発陣が欠けても、今井や福井、篠田中村恭平戸田武内中崎などが、虎視眈々とその座を狙っている。いざとなれば、昨年のCS進出の影の立役者でもある久本に先発してもらってもいい。若手の厚みが増すことで、見事なバックアップ体制が構築されたのである。

ここまでポジティヴなことを述べれば、必ずツッコミを入れるひとも出てくるだろう。たとえば、「大竹寛がFAで巨人に行っただろ」と。なるほど、もっとものように聞こえるツッコミである。たしかに大竹は10勝してローテーションを守る投手である。

しかし、大瀬良と九里が十分にその穴は埋める。大竹のFA補償で来た一岡も、その年齡を考えればかなり将来に期待できる逸材だ。不安を払拭するどころか、ヨダレだらだらなのである。

フェアなドラフトが導くカープの優勝

最後にちょっと真面目に書いておこう(※2)。

ここまでカープが強くなり、結果としてその存在がセ・リーグを盛り上げている理由を記しておこう。それは2007年のドラフト(2008年入団選手)から希望入団制度(逆指名制度、自由獲得枠制度)が廃止されたからである。希望入団制度では、契約金の最高標準額が決められていた。しかし実のところ、裏では額面以上の契約金が支払われていたことが発覚して、この制度は廃止されたのだった。

しかし、93年から06年までの13年間続いたこの制度は、12球団で唯一親会社を持たない独立採算のカープにとっては、甚大な被害を与えた。多額の契約金を準備できないカープには、なかなか逸材が来なくなったのだ。これが低迷のもっとも大きな要因である(もうひとつの大きな要因はFAだが、これについては割愛する)。

昨年パ・リーグでは、創設9年目の楽天イーグルスが初優勝した。ご存知のように、当初イーグルスはとても弱かった。1年目など、38勝97敗1分、勝率は.281である。オリックスが近鉄の主力選手をごっそり吸収したからである(あのとき近鉄から楽天に経営権を移譲させなかったのは、いまだに不可解だが)。

そこからイーグルスはゆっくりとだが成長していった。岩隈の楽天移籍や田中将大の獲得、山崎武司の復活など、さまざまな要因はあったが、なにはともあれフェアな制度下で野村克也監督がチームの将来像を見据え、堅実に新人獲得をしていった。その結果が、昨シーズンの優勝に結びついたのである。

次は、カープの番である。ここまで見てきたように、若手の野村や大瀬良、九里、福井などは、旧ドラフト制度ではカープには入団してくれなかったような選手かもしれない。以前なら二岡智宏(巨人、日本ハム)のように、広島出身でも入団してくれなかった。それが、いまはちゃんと入団してくれる。

そもそも1975年にカープが初優勝したのも、1965年からスタートしたドラフト制度の恩恵があったからこそだ。三村敏之、山本浩二、水沼四郎、佐伯和司、池谷公二郎、木下富雄など、カープの黄金時代を支えたのはこのドラフト制度開始以降に入団した選手である。巨人のV9が1973年に終わったのも、ドラフト制度の影響が出るのに8年かかったからだ。

野球のメインコンテンツは試合である。戦力の均衡を目的とするドラフトは、この試合というコンテンツを豊かにするために導入された制度だ。しかし、1993年から同時に始まった希望入団制度とFA制度は、この試合というコンテンツを台無しにし続けた。FA制がいまだに存続していることは補償制度がある以上は許容されるが(※3)、ドラフトは致命的なダメージを野球界に与えてしまった。2007年の制度改革から7年、やっと成果が出始めたのである。

不公平な希望入団制度が存置されていたのは、1993~2006年までの13年間である。この暗黒期の悪影響からやっとカープは解放されようとしているのである。ヨダレだらだらだ(なので、ベイスターズとスワローズももっと頑張れ)。

最後にもう一度書いておこう。

今年、カープは優勝する

※1:厳密に言えば、大瀬良は第2節での先発が予定されているため、開幕戦の段階では一軍登録されていない。

※2:前段までは、正直かなり盛った。

※3:補償制度は、FAした選手の替わりに補償選手(または金銭)を選ぶという、独特なものになっている。FA選手が精神的に負い目を感じるので、選手会を中心として批判されている。その替わりに、完全ウェーバー制でのドラフト指名順を譲渡するという案もある。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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