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WBAライト級チャンプ以上の存在感を放った挑戦者

林壮一ノンフィクションライター
(C)Esther Lin / SHOWTIME

 1万5850人の観客で埋まり、満員に膨れ上がったステイプルズ・センターで、3階級を制し、5つの世界タイトルを獲得中のジャーボンテイ・デービスがWBAライト級タイトルを防衛した。

 116-112、115-113、115-113と3-0の判定勝ちだった。

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 会場となったステイプルズ・センターは、NBA、ロスアンジェルス・レイカーズ、及びロスアンジェルス・クリッパーズのホームアリーナである。デービスは、レイカースのユニフォームと同じカラーのトランクスを誂え、数々の名プレーでファンを沸かせた元レイカースのスーパースター、故コービー・ブライアントの背番号である8と24を縫い付けてリングに上がった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200127-00160543

 2020年1月26日にヘリコプター事故で夭逝したコービーへの敬意を表していたのだ。

写真:ロイター/アフロ

 客席に座った往年の名バスケットプレーヤー、マジック・ジョンソン、ケニー・スミス、ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、そして現役であるドワイト・ハワード、カワイ・レナードらは、WBA王者のトランクスを目にして微笑んでいた。

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 しかし、この日のデービスにいつもの爆発的な攻撃力はなかった。身長で4センチ、リーチで11センチのアドバンテージをまるで生かせない。

 むしろ、デービスの得意とする顎への左アッパーを何度もグローブでキャッチしながら前に出て、乱打戦に持ち込もうとする挑戦者の動きが光った。

 「これが僕のスタイル。闘犬はアタックを繰り返すのみ。試合開始から終了まで、我々は同じリズムで戦いました。5ラウンドあたりで、デービスは左拳を痛めているように感じました」

 試合後、挑戦者はそう振り返ったが、ラウンドが進むごとに場内のファンは、被弾しながらも常に獲物を追い続けるイサック・クルスに胸を焦がした。

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 「こんな背の低い選手との対戦は初めてだった。的となる頭も低い。6ラウンドに自分の拳がクルスの頭を直撃して負傷してしまった。とはいえ、背が高いとか低いには関係なく、クルスは本物の勇者だ。彼は強かった。勝てなかったにしても、新たなスターが今夜誕生したことは間違いないよ。拳のケガで自分のボクシングが出来なかった…」

 自身の戦績を26戦全勝24KOとした27歳のチャンピオンは、素直に苦戦を認めた。

(C)Esther Lin / SHOWTIME
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 全てを出し切ったクルスを支持する人が多い。試合直後から「クルスは勝利を盗まれた!!」「勝者はイサック・クルスだ!」と主張する声が聞こえてくる。

 22勝(15KO)2敗1分けとなった23歳のメキシコ人挑戦者も、自身の勝利を確信していたであろう。

 クルスは語った。

 「Vivaメヒコ。僕は何も言わない。今日の試合で勝ったのが誰であるかは、目にしたファン全員が分かっているから」

 判定を巡って論争が湧き起こっていることからも、リマッチとなるのではないか。勝者よりも、敗者クルスが己の存在感を示したファイトであった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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