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New York Timesが報じた「韓国サッカー界のスターが投げ掛けたSTOP! 差別チャント」

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 2000年に京都パープルサンガの一員としてプロデビューし、PSVアイントホーフェン、マンチェスター・ユナイテッド、クイーンズ・パーク・レンジャーズで活躍したパク・チソン(朴智星)。

 韓国サッカー史にその名を轟かせる彼が、2005年から2012年まで在籍していたマンチェスター・ユナイテッドで、差別的チャントを受けていたことを明かした。『ニューヨークタイムズ』がこれを、10月4日のWEB版で報じた。

 「韓国人に対するステレオタイプな偏見が混じった内容だった。非常に不快だった」とパクは語る。

写真:ロイター/アフロ

 問題の歌詞は、「コリアンは犬を食べる」というものだ。ご承知のように。チャントとは言わばファンが贔屓の選手を応援するためにある。パクは当時、自分を傷付けることを意図したものではないと理解しながらも、「犬を食べる」部分については「止めてもらえないか?」と訊ねたという。

写真:なかしまだいすけ/アフロ

 今シーズンのプレミアリーグで、同胞であるファン・ヒチャン(黄喜燦)がウルヴァーハンプトン・ワンダラーズのユニフォームを纏って初となるゲームで、同じような歌詞を耳にしたパクは、自分の現役時代と何ら変わらない状況に黙っていられなくなった。

英国のピッチに立つファン・ヒチャン
英国のピッチに立つファン・ヒチャン写真:ロイター/アフロ

 パクは言う。

 「今回は、より大きな声をあげるべきだと思う。ファンが選手を非難する気持ちが無くて歌っているのだとしても、韓国人は差別だと感じざるを得ない。ファンがあの歌詞を止める判断をするには、どうすべきかを自分も学ばねば」

 『ニューヨークタイムズ』は、2020年9月にニールセン社が行った調査で「今日、84パーセントのコリアンは犬を食さない」というデータも記事内で使用した。

写真:ロイター/アフロ

 パク・チソンは韓国A代表100キャップを誇る。それでいながら、母国のプロリーグでのキャリアはゼロだ。

 常に"外国人"として、異国の地で己を認めさせ、尚且つ存在を輝かせてきた鋼のメンタルを持つ。日本、オランダ、イングランドと各国で闘い抜いたパク・チソンは、サッカー選手としてのみならず、国際人としての懐も深い。日本語も英語も堪能であり、通訳無しでメディアの質問に応じている。

 だからこそ、彼の言葉は重いのだ。

写真:Action Images/アフロ

 昨シーズン、NBAの世界でもアジア系のジェレミー・リンに対する差別が話題となった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210302-00224856

 日本人のなかには、「日本人とコリアンは違う」「ジャパニーズとタイワニーズは立場が異なる」と感じる方も多いであろう。が、欧米では「アジア人」として一緒くたにされることも少なくない。対岸の火事ではないのだ。

 引退から7年強。40歳となったパク・チソンの発言は、流石は世界最高峰の舞台で揉まれてきた男と、唸らされるものだ。多くの人の胸に響くことを願う。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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