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アルゼンチン人コーチが語る「オーストラリアに勝って良かった! でも……」

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 実兄のピチは、あのディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は、チェンマイ・ユナイテッド(タイ1部リーグ)所属のエスクデロ競飛王。

 自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。

 2019年末から、川越市のフットサル場で自らスクールを始め、今日、埼玉県のジュニアユース、トリコロールFCのコーチとして指揮を執る彼が、オーストラリアに2-1で勝利したサムライブルーについて語った。

撮影:著者
撮影:著者

 「日本代表、勝って良かったですね。サムライブルーは何としても勝ち点3を奪いたかったので、気合が入っていました。伊東純也、守田英正、遠藤航と良く走って頑張っていました。長友佑都のオーバーラップも良かったです。

 川崎フロンターレで同じユニフォームを着ていた、守田と田中碧の連係が印象に残りました。彼らは初スタメンの役割をきちんと果たしましたね。守田はFKを与えてしまいましたが、戦う姿勢を表していて評価できますよ。

写真:ロイター/アフロ

 オーストラリアは初めから引き分け狙いでしたね。引いてばかりで、あまり攻撃しなかった。セットプレーしか怖くないチームですから、それほどの強豪ではないです。とはいえ、今日の勝利で安心してはいけません。

 勝ったこと自体は非常に喜ばしいのですが、内容はけっして素晴らしいわけではなかった。ワールドカップでベスト16の壁を破りたいなら、ホームでもアウェイでも、自分のサッカーをやらなければ。相手が攻めてきても、守り続けていても、常に同じサッカーを貫く必要があります。

 今日の長友は何度かオーバーラップしましたが、アウェイでも続けなければ、相手にとって怖い選手にはなりません。現代のサッカーにおいて、両サイドバックは、やっぱり攻撃力も見せないと。

写真:ロイター/アフロ

 ある程度はボールを繋いでいましたが、日本のやりたいサッカーがやっぱり僕には見えないですね…。

 ドリブルできる人、細かいパスを繋げる人、3人目の動きを効果的にする人が見当たりません。だから、今後のアジア最終予選は更に苦しくなるんじゃないかと思います。

写真:ロイター/アフロ

 僕は今、南米予選も食い入るように見ているので、どうしても比較してしまいます。日本のサッカーはこういうものだ、というのをもっともっと見せてほしいです。

 何故、今、日本のサッカーが足踏み状態になってしまったか? といえば、育成年代の指導者もレフェリーもボランティアばかりだから、と僕は感じます。審判ライセンスを持っているとはいえ、小学生やジュニアユースの大会で笛を吹くのはボランティアの年配者ばかりです。コーチたちには若い人も多いですが、やはりボランティアや趣味でやっている。指導者ライセンスを得ていても、ボランティアはボランティアです。つまり、結果を出さなくてもクビにならないんですね。

 高校の監督たちも、だいたいが教師ですから、負けていたって仕事がある。それでは本当の競争にはならないですよね。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 アルゼンチンやブラジル、ウルグアイ、コロンビアでは、幼少期のリーグから、レフェリーもコーチも仕事としてやっています。ダメだったら、周囲から徹底的に叩かれるし、職を失うんですね。そういう厳しさの中で生き残りをかけている。だから必死で勉強します。

 選手への対応、接し方も学習したうえで、その場その場で判断するんです。日本に足りないのは、仕事としての厳しさですよ。

 今日、サムライブルーは苦しみながら勝利しました。ファンは喜ぶべきです。でも、南米との差を痛感せずにはいられなかったのも事実です。もっともっと、世界の強豪国から学んでほしいですね」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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