本来なら、彼の名は今年のNBAドラフトでコールされる筈であった。

 2001年9月6日生まれのケンタッキー大、テレンス・クラーク。高校時代に頭角を表した彼は、マクドナルド・オールアメリカンに選出され、全米で五指に入るシューティングガードとして、UCLA、デューク大、メンフィス大、ケンタッキー大、テキサス工科大、ボストン・カレッジ等にスカウトされる。争奪戦を制したのが、ケンタッキー大であった。

 即戦力として期待されながら、故障の影響もありケンタッキー大での公式戦出場は僅か8。それでも潜在能力を買われ、1シーズンを終えた今季、NBA入りする予定であった。2メートル1センチ、88キログラムの細身ながら、しなやかで跳躍力のあるプレーは関係者の注目を集めた。

 しかし4月22日、ロスアンジェルスで交通事故に遭い、19歳の若さで永眠。家族も周囲の人々も、その儚さを嘆いた。

NBAコミッショナーのアダム・シルバーに促され、壇上に上がるテレンス・クラークの遺族
NBAコミッショナーのアダム・シルバーに促され、壇上に上がるテレンス・クラークの遺族写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 現地時間7月29日に行われた今季のドラフトの席上で、NBAコミッショナーのアダム・シルバーはテレンス・クラークの名を呼び、生前の映像を流して遺族を壇上に上げた。

 「本当なら今夜、テレンスはドラフトされていました。が、悲劇に見舞われ、世を去ってしまった。彼は19歳でした。途方もない才能に恵まれていました。彼の存在と努力を称え、この場で名前を呼ばないわけにはいきません」

 シルバーがそのような意味の言葉を述べると、ドラフト会場であったニューヨーク、ブルックリンのバークレイズ・センターから「テレンス!」「テレンス!」「テレンス!」とチャントが起こった。また、場内にいた全ての人がスタンディングオベーションで、遺族を見守った。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 世界最高峰の妙技を見せ続けるトップリーグであると同時に、NBAは人間へのリスペクトも忘れない。だからこそ、バスケットボールファンの心を惹きつけて止まないのだ。

 19歳で夭逝した若者への敬意を示したシーンこそが、2021ドラフトのハイライトであった。その様に私は、NBAの底力を感じた。そして、今、改めてテレンス・クラークの冥福を祈りたい。