日本バスケットボール界から消えない暴力指導
本コーナーで私は、日本バスケットボール界のレベルの低さを再三指摘して来た。
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20201128-00200007/
NBAの素晴らしさを感じている者なら、日本で行われているプロリーグを見る気にはとてもならない。バスケットボールという競技が本来持っている筈の芸術性が、まるで伝わって来ないからだ。
それでも、運動会で我が子を見詰める親や、同じ地域に住む高校球児に声援を送るような図式が成立している。技術的に劣り、見応えのないリーグであっても、個人的な嗜好の範疇なので、ここまでは許せる。
しかし、指導者にまるで向かない輩が監督の座に就き、生活できてしまうという現実には違和感しか覚えない。
バスケットボールの本場、アメリカ合衆国において暴力を用いた指導が発覚した場合、そのコーチは職を奪われ、永久追放となる。スポーツ関係者の各々が常識を弁えているので、基本的にそうした問題が発生することも稀だ。
2021年4月上旬、暴力行為が露見した愛媛オレンジバイキングスの庄司和広ヘッドコーチに、Bリーグは「3カ月間の公式試合に関わる職務全部の停止」という処分を下した。また、オレンジバイキングスは庄司に対し「3カ月の間、月額報酬を30パーセントカットする」ペナルティを科した。
つまり、3カ月が経過したら、この暴力監督は再び日本のバスケットボール界で飯が食えることを意味している。
「甘い」と感じた私は、愛媛オレンジバイキングスのGMだった開大輔氏に、以下の質問状を送った。4月9日のことだ。
●被害者が警察に届け出なかったとはいえ、これは犯罪行為です。このような人間をなぜプロチームのヘッドコーチに据えたのか、その経緯をご教示ください。
●庄司ヘッドコーチは「反省し、厳粛に受け止めたい」と話しているそうですが、NBAにおいてこの類の暴行が認められた場合、監督は事実上、永久追放となります。減給処分では甘すぎると感じますが、御チームの見解をお聞かせください。
●NBAと比べ、人としての姿も技量も育成も、見るに堪えないレベルでの展開をなさっていますが、このような事件でさらに御チームの質が問われたように感じます。「バスケットボールを通じて、愛媛に関わる人々に夢・希望・感動を提供する」という言葉は、単なる謳い文句であって、偽りだったのでしょうか? 真意をお聞かせください。
すると、開氏より「本件処分についてはご指摘の点を含め、様々なご意見・ご質問を頂戴しているところです。当社としては、現在、第三者を入れた調査の準備を進めておりますので、当該調整結果が出た時点で、改めて対応をさせて頂ければと思います。何卒ご理解の程、よろしくお願い致します」なる回答が届いた。
しかし、1カ月が経過しても調査の進展状況報告がなされないので、5月11日に再度、上記の質問と共に、追加の質問を送った。
●「第三者を入れた調査」というのは、単なる言い訳に過ぎず、御チームは実際に問題解決に動いていないように見受けられます。問題が表沙汰になってから、あまりにも対応が遅いのは、本気で取り組んでいないからでしょうか? お宅様の真意をお聞かせ下さい。
すると開氏は今回も「第三者を入れた調査を進めております。調査の結果を踏まえた再発防止策の提言を、当社ホームページ等で公表させて頂く予定としておりますので、そちらをご覧頂ければと思います」という、おざなりな回答しかしなかった。
そこで私は、いつまで経ってもなくならない日本バスケットボール界の暴力指導について、法のエキスパートにコメントを求めた。加藤博太郎弁護士の言葉を紹介したい。
「バスケットボールの暴力指導というと、桜宮高校の学生が自殺に追い込まれた事件が思い出されます。あの件は、監督による犯罪行為として立件されましたし、遺族が市を相手に損害賠償も請求し、判決で支払いを命じられました。暴力で選手を指導する時代は、とうの昔に終わっている筈です。
それなのにまだ、暴力指導が続いている。しかもプロの世界で起きているとは、耳を疑います。こういった指導者を、まだ現場に立たせようということなら、チームとしての資質を問われますね。第三者を入れるとか入れないといった論議ではなく、暴力があったか無かったかが重要です。ヘッドコーチが暴力を振るったのであれば、紛れもない犯罪ですから、指導者から降りてもらうのは当然です。第三者に委ねるという回答には、のらりくらりと時間稼ぎをしている様子が見てとれます。第三者委員会を立てることの意味も、分かりませんね。
私自身、部活動において10代の若者が顧問から暴力を受けたという相談を、よく受けます。暴力で支配するというのは、あってはならない犯罪ですよ」
愛媛オレンジバイキングスは加藤弁護士の言葉を聞いても、何も感じないだろうか。
NBAの会場では毎試合、大型スクリーンで、殿堂入りしたかつてのスター選手、ビル・ブラッドリー(引退後、民主党から出馬し上院議員となった)やグラント・ヒルが他者を敬う気持ちの大切さを唱える。リスペクトがあるからこそ、NBAが発展して来たことを伝えている。
このところアメリカ社会で深刻な問題となっているアジア系に対する暴行や差別についても、ポートランド・トレイルブレイザーズのエース、デイミアン・リラードが警鐘を鳴らす。現地時間5月27日に行われたPlayOff第3戦、ブレイザーズvs.デンバー・ナゲッツ戦の会場には、リラードの言葉に賛同したのか「STOP ASIAN Hate」と書かれた長袖Tシャツを着たファンの姿があった。
日本のバスケットボール界全体が、世界のトップリーグから学習し、真剣に「暴力追放キャンペーン」を行うべきではないか。繰り返すが「暴力は犯罪」なのだ。