Yahoo!ニュース

プロ生活8年目、ワールドカップ予選に向かう日本代表守護神

林壮一ノンフィクションライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 シント=トロイデンVVでの2年目のシーズンを終えたシュミット・ダニエルは、ベルギーから日本に戻り、家族と共に束の間の休日を過ごした。

 「日本人は几帳面ですから、コロナ対策をベルギーよりもきちんとやっていると感じますね。ベルギーは社会がストップしているどころか、規制が緩和されて来ています。感染者が増えていないこともあるのでしょうが」

 シント=トロイデンVVは、18チーム中15位でシーズンを終えた。右足裏の筋膜炎や腓骨の疲労骨折の治療に思いのほか時間が掛かったシュミットは開幕から9試合を欠場し、10節から33節までピッチに立った。

写真:REX/アフロ

 「開幕後、チームがかなり厳しい状況までいって、自分が試合に絡むようになってから徐々に順位を上げていきました。シーズン終了時には降格圏から抜け出せたので、最低限の仕事はできたんじゃないかなと思っています。

でも、全く満足していません。自分のミスで負けた試合もあったし、もっとチームを上位に押し上げられるようなチャンスもあったので、来季に向けた課題も見えました。反省しているのは、カウンター時のチームとしての対応ですね。リスクマネジメントを徹底すれば、無駄な失点が減り、もっと上の順位に行けると思います」

 ハイボールの対応には及第点を付けられるという自負を覚えながら、メンタルの重要性も感じたシーズンであった。

写真:REX/アフロ

 「重圧の中で、どれだけ落ち着いてプレーできるかということが、大事です。緊迫した降格争いだったので、試合前や前日はかなりピリピリと張り詰めた感じになって、家族に迷惑を掛けたところがあります。試合になるとそれほど緊張しないのですが……。自分が所属しているチームだし、応援してくれているサポーターの為にも、絶対に2部に落としてはいけないと思っていました。チャンピオンズリーグなどの大舞台から見れば、ベルギー1部の降格争いなんて、何でもないレベルだと思うんですが。

僕はヨーロッパの4大リーグでプレーしたいという目標がありますから、そういった場所を目指すのに、こんなにハラハラしていていいのか? という感覚がありました。それもキャリアなのかもしれませんね。ベテランの方がリラックスしている感があります。自分も年齢的にはそうなって来ていますが、経験値的にまだまだ若いということを思い知らされました」

写真:REX/アフロ

 3月25日の韓国と、30日のモンゴルとの代表戦はコロナ禍でベルギーを離れられず、日本に向かえなかった。

「韓国の状態が悪かったように見えましたが、逆に日本が圧倒しての3-0でもありますね。攻撃陣の活躍があった中で、守備もしっかりと失点ゼロに抑え素晴らしい仕事をしたんじゃないかと思います。モンゴル戦もそうですね。ワールドカップ予選ですから、得失点差を広げて勝つのは非常に大事なことです。また14-0と、攻撃も攻め疲れをしているくらいだったのに、緩めることなく最後まで攻め続けたのは、良かったんじゃないかなと。

 ただ、本来なら自分が出ていたチャンスもあったのに……という悔しさがありました。自分がいない代表戦を見る悔しさは大きかったです」

写真:松尾/アフロスポーツ

 代表の活動は6月3日のキリンチャレンジカップ、7日のワールドカップ2次予選、タジキスタン戦を控える。

「その前に代表合宿もあるでしょう。コンディションを上げ、選ばれるつもりで準備しています。5月16~17日くらいからは、個人トレーナーとボールを使ったトレーニングを始めるつもりです。

写真:西村尚己/アフロスポーツ

 5月1日、午前10時27分、宮城県はマグニチュード6.8の地震に見舞われた。3月20日にもマグニチュード6.9が起きていた。これは2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の余震とも言われる。

 

 「2度と起こってほしくないのですが、このところ頻発しているイメージがありますね……。震災で傷付いた方々にどうしたら明るいニュースを届けられるか? と考えるのですが、結局僕に出来るのはサッカーしかありません。起こってしまったことは変えられないし、今後起こるであろうことを未然に防ぐことも出来ないので、難しいですね。

 自分が活躍すれば、そういうニュースが届くと思うし、まずは自分がサッカーで結果を出すことが大事です。それで喜んでもらえれば、嬉しいですね」

写真:REX/アフロ

 東北地方太平洋沖地震から10年強が過ぎた。宮城県出身であるシュミットも、2011年の3月11日を鮮明に記憶している。

 「中央大学の1年目の終わりで、新チームを作っている時期でした。名古屋に遠征中だったんです。地震発生時は練習試合中で、照明塔がグラグラと揺れていたのを覚えています。試合後、トレーナーに被災地の映像をスマホで見せられて愕然としました。幸い、僕の家族は無事でしたが、被害の大きさには言葉を失いましたね……」

 練習試合の相手も、スコアも記憶から飛んでいる。家族の安否は確認できたが、直後に電力が停止し、連絡が取れなくなった。

 「あの日から10年以上が経過したんですね。まだまだ『復興』という言葉を使えない方々もいらっしゃいます。同郷の人間として、今自分のいる世界で活躍することが、僕に出来る全てです」

 

 シュミットは、プロ生活8年目のスタートを切った。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事