Yahoo!ニュース

元WBA/IBF/WBO統一ヘビー級王者の再起戦

林壮一ノンフィクションライター
C)Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 両ファイターが動く度に、互いの腹の贅肉がタプタプと揺れる。ハンドスピードに自信があると語っていた元統一ヘビー級王者のアンディ・ルイス・ジュニアだが、特徴は活かせず、2ラウンドにはクリス・アリオラの右の打ち下ろしを浴びてダウン。翌3ラウンドにもカウンターの左フックを喰らって、グラついた。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 ヘビー級メキシカン対決として注目を集めた5月1日の一戦は、9歳下のルイスが圧勝するだろうという声が圧倒的だった。

 しかし、序盤は40歳のベテランが意地を見せる。第3ラウンドのチャンスの後、ラッシュをかければ試合を終わらすことが出来たかもしれない。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 とはいえ、不惑のファイターにそんな馬力や瞬発力、スタミナは無かった。4回以降は、腰の入らないパンチを繰り出すだけで、元統一ヘビー級王者に手数で上回られてしまう。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 ルイスも統一王座から転落した2019年12月7日の試合より12.7kg、体を絞ったが、タイトルを獲得した時のようなアグレッシブさは失っていた。

 コロナ禍ながら、この日の会場には3940名が駆け付けた。また、49.95ドル払ってPPVを購入したファンも少なくなかった筈だ。が、メキシコ人トップヘビーと呼ばれる両者の戦いに溜飲を下げた人は、ほとんどいなかったであろう。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 結局、118-109、118-109、117-110の3-0でルイスが勝者となったが、今日のヘビー級のレベルの低さだけを伝える内容であった。

 今回のPPV放送は、元統一ヘビー級チャンピオンのレノックス・ルイスが解説を務めていたが、彼やマイク・タイソン、イベンダー・ホリフィールドの時代を取材していた人間にしてみれば、目を覆いたくなるファイトだった。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 試合後、勝者、ルイスは言った。

 「クリスはベテランであり、ハードパンチャーだ。いい選手だよ。2ラウンドにもらった右は素晴らしかったね。自分に慢心があり、ガードを下げたところを狙われた。流石はクリスだ。ただ、ダウンしても起き上がって勝利に向かうことが肝心なんだ。

 個人的には、もっと色々やれたように思うんだけど、的確な自分の距離が掴めなかった。それで彼のジャブを食ってしまった。もっとガードを上げる必要があったね。その点は反省してジムに戻り、また練習だな。

 互いにプレッシャーを掛け合った試合だ。当初、カウンターを打とうとしたんだが、ボディーに的を絞る作戦に変えた。

 我々は今夜、勝利に向かってやるべきことをやった。俺はどん底まで落ちたが、再び梯子を登らねばならない。トレーニング過程で、今までと違ったコンビネーションを覚えたし、次に向かうよ」

 ルイスは「このくらいの体重を保ち、全てをよりシャープにしたい」とも語ったが、まだまだ"太っちょ"であることに変わりはない。彼は次戦の相手として、42歳のキューバ人ファイター、ルイス・オルティスの名を挙げた。

 オルティスもまた、贅肉が目立つ193センチの長身サウスポーだ。コミカルなファイターの潰し合いとしては面白いかもしれないが、ボクシングの醍醐味を伝えるファイトにはならないだろう。

Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 2003年のデビュー以来、7敗目を喫したアリオラも話した。

 「ジャッジを尊敬しているが、俺が2~3ラウンドしか取れなかったっていうのは納得がいかない。アンディが優勢だったのは、良くて7ラウンドってところだろう。常識外の勝利だな。

 肩でパンチを受けるのは防御の一種だ。だからダメージは無いんだよ。アンディの放ったパンチの多くは、俺のグローブを叩いただけだ。危ないシーンなんか無かったよ」

カリフォルニア州アスレティックコミッションから配布されたオフィシャルスコアカード
カリフォルニア州アスレティックコミッションから配布されたオフィシャルスコアカード

 「トレーナーであるジョー・グーセンと、この試合に向けて必死で練習した。ジムですべきメニューを全部こなしたよ。俺は明確にアンディを痛めつけた。ヤツは危険なファイターだから、アンソニー・ジョシュアの二の舞とならぬようコンディションを作った。アンディが予想していた俺より、ずっと強かったと思うぜ」

 確かにレノックス・ルイスもオンエア中に「接戦だよ」という言葉を残しはしたが……悲しいほどの凡戦となってしまった。

 3月13日に急死した伝説の統一ミドル級チャンピオン、"マーベラス"・マービン・ハグラーは「ボクシングはアートだ」という言葉を残したが、芸術には程遠いファイトであった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事