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祝「NBA選手、渡辺雄太がラプターズと本契約」父、英幸氏の言葉

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ご存知のように、渡辺雄太がトロント・ラプターズと本契約を結んだ。

 ラプターズが現地時間4月20日の午前11時45分をスタート時間としたZoom会見は、大幅に遅れてスタートした。

 いつものことながら、渡辺は英語での質問にも、日本語での質問にも、ひとつひとつ丁寧に答える。そのプロフェッショナリズムと人柄は、誰からも愛される。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 父の英幸氏は息子の姿勢について、次のように話す。

 「私は常々、メディアの方々に対しては、時間のある時は必ずきちんと応対してほしいと思っています。私自身、営業なので、人様に会って話して、ナンボの世界です。けんもほろろに断られる時もありますが、きちんと対応して頂くと、それだけで嬉しくなります。メディアの方も、時間をかけて準備されてるのに、それを疲れてるからとか、負けて気分が乗らないからと言って、いい加減な対応だけは絶対にしてほしくないです」

 4月20日のZoom会見で最も印象的だったのは「母は感極まって泣いていましたが、『まだまだこれからだよ』と伝えたんです。先の保証など、何もありませんから」という言葉であった。

 かつてのリバウンド・キング、デニス・ロドマンは「NBA選手はバスケットボールと出会っていなかったら、死んでいたか、刑務所に入っていたような男が多い。俺もそうさ」と語ったが、渡辺に関してそれは当て嵌まらない。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 さて、渡辺雄太を支え続ける両親は、今回の本契約をどのように感じているのか? 父、英幸氏に心境を訊ねてみた。

ーーー今、父親としてどんな心境ですか?

  素直に嬉しいです。8年前、英語力ゼロの痩せっぽちの日本の少年が、世界一のバスケ大国に何の保証もないまま単身渡米し、僕らの想像を遥かに超える幾多の苦難を乗り越えて辿り着きました。立派だと思います。と同時に、まだまだ厳しい戦いが続きますし、ちょっとでも油断しようものなら、世界中の猛者たちから直ぐに足元を掬われて奈落の底に落ちてしまうという状況に変わりはありません。今まで以上の努力を重ねて、更に上を目指して頑張ってほしいです。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ーーー英幸さんは、今年の1月中旬に「彼の今後のNBA人生はこの先の数試合の出来に掛かっていると言っても決して過言ではない」と仰っていましたが、あれからここまで、どのように雄太選手が変わって来たと感じていらっしゃいますか? NBA選手としての成長を感じた具体的なプレーはありますか?

 1月中旬から下旬にかけて、かなり良いアピールが出来ていた時もありましたが、ワシントン・ウィザーズ戦の直前の足首の捻挫により休業を余儀なくされ、その後復帰してもあまり出番がありませんでした。4月に吹っ切れたように猛アピールできましたね。

 その要因は、本人から聞いたわけではないのですが、試合に出ようが出まいが、準備だけは怠らないという姿勢が終始一貫変わらなかったからではないかと思います。そこで、主力の怪我や休養が相次ぎ、雄太に出番が回ってきたときに応えられたということでしょうか? また、コーチやチームメイトから、「練習であんなに入るのだから、もっとシュートを打っていけ!」と言う言葉があったかもしれません。そこで何かが吹っ切れたのでしょうね。

 具体的にこれまでと違う点は、とにかくフィニッシュまでいけてる点でしょうか。これまではスリーに固着したため、通常の2点シュートの確率が極端に悪かったのですが、速攻でユーロステップで得点したりするようになりました。また、ダンクの回数が4月に入って極端に増えたのも、これまでと大きく違う点ですね。それだけ自分で決めてやると言う強い意志が表れ出しました。だからドライブすると敵が寄ってくるので、アシストも効果的に出来るようになってきたと思います。元々パスは好きだし、上手かったものですから。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ーーー今後の雄太選手の課題を父親としての目線で教えて頂けますか?

 フィジカルの強化はこれから先もずっと雄太の課題だと思っています。細くても相手のコンタクトに耐えられる強さが必要ですね。

 プレーに関しては、まずはしつこいディフェンスからボールを奪い、一気に走るというスタイルをこのままずっと続けてほしいです。オフェンスでは、セルフィシュなプレーは彼には似合いませんが、とにかく空いたら打つという事がマストだと思います。また時には1対1で自ら仕掛けて、決め切るというプレーもこの先は必要になってくるでしょう。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ーーー雄太選手は、決してここで満足してはいないと発言しました。敢えて父として掛ける言葉があるとしたら何になりますか?

 特にかける言葉は見付かりません。油断や慢心は彼にはないと思いますし。敢えて言うなら、小さい頃からの目標は達成したのだから、次は複数年契約を目標にしてくれと言うことと、フリースロー成功率90%を達成してくれと言うことですかね。雄太のように身体能力で劣る選手にとっては、唯一邪魔されないフリースローを必ず決める事は必須だとずっと言ってきましたから。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ーーー現在、ラプターズは東地区11位ですが、英幸さんは現状をどうご覧になっていらっしゃいますか?

 主力がなかなか揃って出てこないのは、ドラフトピックの上位を狙っての事かと思う時もありますが、昨日の試合では主力が揃ってブルックリン・ネッツに勝ちましたよね。コーチは負けても仕方ないくらいの気持ちで若手を出したら10デイズ契約の選手や雄太が意外に(笑)活躍してくれて3連勝し、欲が出てきたかもしれません。

 主力の怪我のおかげで、セカンドユニットが成長し、戦える集団になってきたと思います。この先、スターターと控えがうまく噛み合っていけば、プレーオフの進出も普通にあると思っていますし、プレーオフでも波乱を起こすことが出来るのではないでしょうか。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 世界の最高峰に挑み続ける渡辺雄太。4月は14日のサンアントニオ・スパーズ戦で20分、16日のオーランド・マジック戦で27分、18日のオクラホマシティ・サンダー戦で29分のプレー時間を得、3試合連続の勝利で2桁得点を挙げた。

 本契約を勝ち得てから最初の試合となった21日のブルックリン・ネッツ戦でも14分コートに立ち、5点をマークした。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ドナルド・トランプ前大統領が新型コロナウィルスを「中国ウイルス」と表現したことが発端となり、今日、アメリカ社会では黄色人種への暴行事件が相次ぐ。バスケットボール界でも、元NBAのスターが下部組織であるGリーグでいわれなき差別を受けている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210302-00224856/

 そんななかで、松山英樹のマスターズVに続く、渡辺の本契約は、アジア系市民にも勇気を与える。

 常に上を見て、走り続けてほしい。ラプターズの背番号18から、目が離せない。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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