マイケル・ジョーダンのドキュメンタリー「Last Dance」から生じた波紋

バスケットボール史上、まず名前が挙がるのはMJだ(写真:ロイター/アフロ)

 日本時間の4月20日よりNetflixにて配信されている「マイケル・ジョーダン: ラストダンス」。スタートから4週間でアメリカを除く世界2380万世帯が視聴し、日本でもNetflixランキングでトップ10入りした。

撮影:著者
撮影:著者

 私も楽しませてもらったが、元NBA選手からは不満の声が上がっている。シカゴ・ブルズが一度目の3連覇を成し遂げた際のメンバーであるホーレス・グラントは「嘘ばかりだ」と嘆く。NBA選手として14季プレーし、2008年にボストン・セルティックスの一員としてチャンピオンとなったケンドリック・パーキンスは、数日前ESPNに出演して次のように語った。 

 「ジョーダンはスーパーヒーロ―、その他の選手は悪役みたいな描き方だね。ジョーダンは他の選手のイメージを悪くしたよ。スコット・バレルが夜な夜なクラブで遊んでいたとか、ホーレス・グラントが、当時のブルズはジョーダンを除いた多くの選手がドラッグを使用していたと言ったとか、スコッティ・ピッペンが我儘だとか。スコッティは本当に素晴らしい人なのに」

 

 ジョーダン、そしてブルズの全盛期を現場で取材していたジャッキー・マクマレンは言う。

 「これを見たブルズのチームメイトたちは、『おお、俺たちの話だ』と感じたり、『事実じゃないけれど、最も説得力のある男ーージョーダンの人生を描いた作品だから…上手く編集してあるな』と思ったりしているでしょう。各々に"真実"がある。我々が5人の選手から20年前の出来事を思い起こしてもらったら、5つの違ったストーリーがあるものですよ」

 長くジョーダンを見続けた米バスケ関係者によれば、ジョーダンはジャンケンに負けるのも許せない性格だそうだ。彼は「友人には絶対になれないタイプです。でも、その闘争心がジョーダンをあそこまでの選手にしたんですよ」と話す。

写真: Netflixオリジナルシリーズ「マイケル・ジョーダン: ラストダンス」
写真: Netflixオリジナルシリーズ「マイケル・ジョーダン: ラストダンス」

 ジョーダンはピッペンを我儘だと評した。言われた方は面白い筈がない。それを目にした周囲の人間も穏やかではない。ピッペンのファンのなかには「こんな発言をしたジョーダンは許せない!」と主張する者もいるだろう。それでもジョーダンは、自身の足跡がドキュメンタリーとなることに喜びを感じ、制作者も達成感を覚えている。ビジネス面を考慮すれば、視聴者が多ければ多いほど成功となる。

 物書きの世界も「良い作品が売れるんじゃない。売れたものが良いのだ」と常々言われる。「Last Dance」の制作者たちは、ジョーダンをスーパーヒーローとする演出こそが最善の道だと信じたのだ。その判断を是とするか非とするかは、視聴者ひとりひとりが独自の答えを出せばいい。

 ここ数年、手掛けられてないが、私は一つの題材を長く追い掛け、作品化することが好きである。「Last Dance」はジョーダンに関する山のような試合映像が残っていた為、元選手や監督をインタビューする時間だけで番組となった。が、ドキュメンタリーやノンフィクションを一から築き上げるとなれば、10年などあっと言う間だ。その間、食い扶持の確保が深刻な問題となる為、いくら志があっても続けられないのが現実だ。

 それでも、今回の波紋を目に、「Last Dance」で脇役となったピッペンやホーレス・グラント、あるいはデニス・ロドマン等のドキュメンタリーが生まれたら、と私は感じる。