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八村塁にプロの厳しさを教えたトレイルブレイザーズ

林壮一ノンフィクションライター
八村をブロックするホワイトサイド(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 試合後の八村塁のコメントである。

 「連戦ということで疲れも見えて来て、前半は動けていなかったことが自分たちも分かりました。僕らも出来ることはやったんですけど、相手も強いチームでしたので。戦い切ったという感じはありますけど。

 カーメロ・アンソニーhttps://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200303-00165236/は、僕が最初に好きになった選手で、憧れとしてずっと見て来たので、そういう選手と戦えて今日は良かったです。彼からは、オフェンスの力強さや、自分がどういう選手なのかを分かっているところなどを学べたかなと思いますhttps://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200102-00157393/

 6日間で4試合というスケジュールはきつかったんですが、僕らとしても勝たなきゃいけない試合もあったのに、負けてしまった。これからのホームでの落としてはいけない3試合を勝ちたいなと思います」

撮影:著者
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 現地時間3月4日、八村の所属するワシントン・ウィザーズは104-125でポートランド・トレイルブレイザーズに敗れた。日本期待の八村はスターティングのパワーフォワードとして登場。28分31秒プレーし、11得点、4アシスト、4リバウンド、1スティールという数字に終わった。

撮影:著者
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 この日、トレイルブレイザーズは大黒柱であるデイミアン・リラードが復帰した。トレイルブレイザーズから唯一オールスターゲームに選出されたリラードだが、直前に鼠径部を痛め、2月12日以降は治療とリハビリの日々だった。彼がホームアリーナでプレーするのは2月9日以来のことであり、大歓声で迎えられた。

 戦列を離れるまで、トレイルブレイザーズの1試合における最多得点記録者は、こなしたゲームの71%強、最多アシストは89%が、リラードであった。また、この背番号0は、今季9戦目のブルックリン・ネッツ戦で60得点、1月20日のゴールデンステイト・ウォーリアーズ戦で61得点を挙げ、スターの貫録をまざまざと見せつけた。

 彼がフリースローを打つ折には、モダ・センター全体から「M!V!P!」「M!V!P!!」なる大合唱が送られるまでになっていた。

撮影:著者
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 そのリラードが先発したトレイルブレイザーズは、リズム良くポイントを重ねていく。Tipoff4分17秒以降、試合終了までリードされることはなかった。

 八村は立ち上がり2分40秒に放ったレイアップをトレイルブレイザーズのセンター、ハッサン・ホワイトサイドにブロックされ、リラードのステップに翻弄され、カーメロ・アンソニーに激しく体をぶつけられと、NBAトップ選手との差を味わわされた。

 それでも、一流選手のプレーを肌で味わうことが、今の八村には血となり肉となる。彼がウィザーズの一員となったことは幸運だと感じさせるゲームだった。無論、実力でスターティングの座を勝ち取った訳だが、トレイルブレイザーズのルーキーたちと八村に実力差は無いと言っていい。八村は、試合に出場させながら育てるチームに入団したのだ。

撮影:著者
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 NBA同期入団でトレイルブレイザーズのスモールフォワード、ナシアー・リトルのこの日の出場時間は、3分21秒。4Qの終わりに投入されたリトルは、自身の存在価値を見せ付けるかのように力強い両ハンドのダンクを放った。が、この日の得点は4、リバウンドは1。

「いいダンクだったでしょ? 出場時間は短いけれど、コツコツ積み重ねていくしかない。いつでもコートに入れるように準備している」

 試合後の控室で、リトルは相好を崩したhttps://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200305-00165314/

 「発展途上の新人だからさ。八村だってそうだと思うよ。今日は11得点し、我がチームの主力に抑え込まれるシーンが何度もあるなかでファイトしていたよね。カーメロみたいな将来殿堂入り確実な選手の底力を味わっただろうな。

 ただね、戦うからこそ、色んなものが身に付いていくんだ。八村は今の若手の中で、先頭を走っている選手の一人だよ。まだまだ俺たちは学ぶことばかり。NBA選手としての自分を築き上げている段階だ。経験と時間が必要なんだ」

撮影:著者
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 同じくポートランドのルーキーで、パワーフォワードのウェンエン・ガブリエルがプレーした時間は2分50秒。1つターンオーバーを記録しただけに終わったhttps://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200214-00162141/

 「今日の僕はプレーしたって言えるのかな(笑)。もっと出たかった…」

 ガブリエルは悔しさを滲ませた。

 「八村、一年目だというのに素晴らしいよね。今日はウチのベテラン選手たちの怖さも学んだでしょう。我々にとってはいい勝ち方だった。プレーしなければ、得られるものも少ないからね…。僕ももっともっと出場できるように努力し続けるだけだよ」

 それぞれの立場で己の闘いをするNBA選手たち。純和式に表現すれば、彼らは世界一のバスケットリーグで「精進」している。自らの目指すゴールに向かって真っすぐに進む姿が、清々しい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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