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NBAオールスターの陰で日本の若手が「世界レベル」を体験

林壮一ノンフィクションライター
憧れのNBA選手、渡辺雄太と3名の精鋭 写真:NBA Entertainment

 先週末、ノースカロライナ州シャーロットで開催されたNBAオールスターの期間中、世界31か国から男女63名の高校生、および同世代のトップ選手がバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・グローバルキャンプに参加した。クイーンズ大学シャーロット校のレバイン・センター・フォー・ウェルネス&レクリエーションで、世界レベルのトレーニングを受けたのだ。

 日本人男子選手は田中力と富永啓生が、女子は林未紗が同キャンプに選出された。このコーチには、 ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)とニコラ・ブーチェビッチ(オーランド・マジック)、ディアンドレ・エイトン(フェニックス・サンズ)ボグダン・ボグダノビッチ(サクラメント・キングス)と、アメリカ国籍ではない選手たちが抜擢された。

 バスケットボールを普及させるために、国境を越えて次世代を育てるーー。しかも、NBAオールスターという祝典の際に行うというのは、実に心憎い演出だ。

 何度でも書くが、日本のバスケットボール界は組織も競技レベルも、本場・アメリカ合衆国に30年遅れていると言われる。それは、昨年メディアを賑わした様々な醜聞からもお分かりであろう。日本にはプロリーグが存在するが、NBA選手と比較すれば、技術も人格もまだまだ赤子以下なのだ。

 今回選ばれた3名が、同世代の世界トップ選手と共にボールを追った経験は何物にも代え難い財産となった筈だ。

田中力と渡辺雄太 写真:NBA Entertainment
田中力と渡辺雄太 写真:NBA Entertainment

 特に期待できるのが田中力である。彼は中学を卒業後、錦織圭が研鑽を積むフロリダ州ブラデントンのIMGアカデミーに飛び込み、腕を磨いている。テニス、バスケ、アメフト、サッカー等、若い才能を徹底的に伸ばす場所だ。若い頃から本場でトレーニングを重ねれば、それだけ成長の幅が増す。渡辺雄太や八村塁よりも早い時期にアメリカに渡った田中の未来に期待したい。

 日本の少年少女は”ミニバス”という世界でバスケットボールを始めるが、これは日本にしか無い特殊なルールだ。ゾーンディフェンス禁止、3Pライン無しなど、ミニバスルールは、子供たちを小さく小さくまとめるようにしか作られていない。アメリカの小学生が行っているバスケットボールとはまるで異質のものである。日本の指導者たちは海外に目を向けようとする者がほとんどいないため、その視野の狭さで満足してしまっている。こうした悲劇が今後も続いていくのであろう。

 そして、桜ノ宮高校の体罰事件のように、自身の指導に酔いしれ、選手を自殺に追い込むような輩も消えないように思う。今尚、あの監督を「いい指導者だ」と力説する関係者がいることに驚く。

林未紗と渡辺雄太 写真:NBA Entertainment
林未紗と渡辺雄太 写真:NBA Entertainment

 今回、バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・グローバルキャンプに参加した3名の未来が輝かしいものとなることを願ってやまない。本気でバスケットボールが好きな若者は、日本を離れ、本物のバスケに触れるべきだ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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