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日本公開まで1カ月。『ロッキー』シリーズの続編『クリード 炎の宿敵』

林壮一ノンフィクションライター
夫を捨てた猛女役を演じた現在のブリジット・ニールセン。迫力満点だ。(写真:Shutterstock/アフロ)
Photo: C 2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC
Photo: C 2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC

 来年1月11日に日本公開となる『クリード 炎の宿敵』(原題『CREED II』)。

 ロッキー・バルボアの最大のライバルだったアポロ・クリード。その息子を主人公とした第2作である。『ロッキーIV』でアポロの命を奪ったイワン・ドラゴが息子をファイターに育て上げ、クリード・ジュニアと対戦させるという内容だ。

 『ロッキー』シリーズ6話と『クリード』の2話、計8作のなかで、最も収益をあげているのは1985年に制作された『ロッキーIV』である。米国内における売り上げが1億2千700万ドル強。日本を含む海外も合わせた総売り上げは3億40万ドル。因みに2位は『ロッキーIII』で、米国内で産んだ利益が1億2千500万ドル強、海外を含む収入が2億7千万ドル。

 ビジネス的にトップ作品となった『ロッキーIV』が生まれた時代のアメリカ合衆国は、ソビエト連邦を「悪の帝国」と呼んだロナルド・レーガンが大統領の椅子に座っていた。社会情勢を読み、国民感情を刺激した点が成功に繋がったと言える。

 さて、1985年の作品でロッキーに敗れたドラゴは、どんな人生を歩んでいたのかーー。それが、今回のメインテーマだ。

「すべてを失った。祖国も、尊敬も、そして妻も」

「俺は負けた」

 という台詞が、胸に突き刺さる。

 私はアメリカで、こうした言葉を実在の元世界チャンピオンから何度も聞かされた。スクリーンを見詰めながら、幾人もの元ファイターの姿が蘇った。

 

 それでもドラゴは、息子の幸せを祈るパパだ。本作は、ボクサーの儚さが上手く描かれている。

 シルベスタ・スタローンは、1975年3月24日に催されたモハメド・アリvs.チャック・ウェプナー戦をハリウッドの劇場で目にし、ウェプナーの闘魂に酔いしれる。劇場を出た後72時間を費やし、ウェプナーをモデルとした脚本を書いた。そして翌年、映画界に一石を投じるのだ。

 無論、賛否両論あるが、ロッキーは誕生以来、多くのボクサーたちから愛されている。今回の『クリード 炎の宿敵』にも、ロイ・ジョーンズ・ジュニア、アンドレ・ウォードといった元世界王者が出演している。

 42年という歳月で、独身だったロッキーは、孫を持つお爺ちゃんとなった。私たち視聴者も、同じように年を取った。

 今回のロッキー・バルボアに、あなたは何を見るか? 青春と呼べた季節か、子育てに悩む今日の己か、あるいは可愛い孫との関係か-----。

 試写会で私の左隣に座っていた女性は、残り15分くらいから、何度も涙を拭っていた。長く続くだけのことはある、重みのある作品だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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