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200年に一人の天才ボクサーが語る「田口良一は再戦すれば勝てる!」

林壮一ノンフィクションライター
20の試合でWBA/IBFタイトルを失った田口良一だが… 撮影:山口裕朗

 現役時代、所属していた協栄ジム会長の金平正紀に「具志堅用高を超える逸材。200年に1人の天才」と絶賛された元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級王者の亀田昭雄。

 本シリーズでお馴染みの彼が、5月20日の田口良一vs.ヘッキー・ブドラー戦について語った。

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 ヘッキー・ブドラーの手数は凄かったですね。パンチを出しながら前進を続けてリズムに乗っていきました。逆に田口は相手にペースを握られてしまいましたね。そこが勿体なかったです。4ラウンドに右、左と喰らったボディブローも効いてしまったし…。ブドラーはミニマム級のIBO王座を9度、WBA王座を5度防衛しただけあって、試合巧者でした。

 ブドラーって、具志堅用高さんと2回戦った、パナマのハイメ・リオスに似ていました。リオスは、先日まで田口が保持していたWBAライトフライ級のベルトを巻いた男です。横に横に相手から逃げるんですよ。頭を左右に振ったり、打ち終わった瞬間にサイドステップしたりと、身体の置き方が抜群に上手かった。ブドラーもそうです。

 田口は今回、受けのボクシングになった感があります。もっと腰を落として、ジャブでブドラーを止めれば良かった。そういう戦い方をすれば、きっとリターンマッチで勝てますよ。重心を下げることをテーマに、再起してほしいです。

レフェリーは最終ラウンドのダウンを、当初「スリップ」と判断した 撮影:山口裕朗
レフェリーは最終ラウンドのダウンを、当初「スリップ」と判断した 撮影:山口裕朗

 田口は最終ラウンドにダウンを奪いましたよね。なのに、レフェリーが「スリップ」判断した。「何故だ!」と冷静でいられなかった部分はあるでしょう。あの時点でのブドラーは、逃げ回っているだけでしたよね。2分以上残っていたし、冷静な田口なら、仕留めていたかもしれません。

 逃げている相手には、敢えて手を休めて"誘う"んです。それで打ち合いに持っていけば、KOが生まれた可能性もある。田口には、そういう駆け引きがほしかったですね。

「再戦では田口のアッパーが鍵になる」と亀田は言う 撮影:山口裕朗
「再戦では田口のアッパーが鍵になる」と亀田は言う 撮影:山口裕朗

 ブドラーの攻撃の際には、一度バックステップして距離を置き、相手を見定めたうえでステップインすることが大事でしょう。更には、顎へのアッパーが有効的です。力を入れなくていいから、相手の動きを止めるようにコツコツとアッパーを当てれば、流れを掴めますよ。

 再戦するのであれば、ブドラーに対して先にパンチを当てるスタイルで挑まねばなりません。ジャブの時、もう一歩踏み込んでほしいですね。足が出れば、もっとパンチに腰が入りますから。

 

 田口とブドラーには8センチ近い身長差があります。これだけ自分より背の低い選手と戦う時は、潜らせないようにすることが課題になるのですが、難しかったですね。僕もアーロン・プライアー(WBAジュニアウエルター級王者)に挑戦した時、そうでした。分かってはいるんですが、潜られてしまう…。

 潜らせないようにするにはジャブなんです。田口は打ち合いが好きな選手ですが、フットワークとジャブで捌いてほしかった。ずっとブドラーの距離になってしまっていましたね。気持ちの面でも、相手の方が田口を上回っていたように見えました。ブドラーは第1ラウンドから出て来ました。「タイトルを獲ってやる!」という信念を感じました。

 とはいえ、田口は仕切り直せば勝てると思いますよ。先手を取るボクシングをやってほしいです。また、自分のペースで試合を展開すること。重心を落としたジャブ。それらがキーですね。

 是非、再戦して王座に返り咲いてほしい。田口なら出来ますよ。

 

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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