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射殺された3階級制覇の元世界チャンプ

林壮一ノンフィクションライター
享年50。早過ぎる死であった。(写真:ロイター/アフロ)

 7/6、9/20と、このコーナーでシュガー・レイ・レナードとオスカー・デラホーヤの再録をUPした。記事を読み返しながら、2人の共通の対戦相手であったヘクター・”マッチョ”・カマチョの姿が蘇った…。

 2012年11月24日に50歳で他界したカマチョ。抜群のスピードとトリッキーな動きで、スーパーフェザー、ライト、スーパーライトと3階級を制した。

  

 1962年5月24日、プエルトリコ、バヤモン生まれ。カマチョが3歳の時に両親が離婚。母親に引き取られ、プエルトリコからニューヨークのヒスパニックハーレムに移り住む。ストリートファイターとして鳴らした彼が本格的にボクシングを始めたのは、11歳の頃であった。ニューヨーク州のゴールデングローブ大会で3度優勝し、プロに転向した。

 連戦連勝を続けながらも、Machoは、コカイン使用や押し込み強盗、窃盗などで何度も警察沙汰になった。

 息を引き取る4日前、カマチョは故郷のパーキングに停めていた黒いムスタングの車内で、左顔面を撃ち抜かれた状態で発見された。車の隣に座っていた友人は絶命しており、車内からはコカインが見付かった。

 カマチョは、即、救命病棟に運ばれ、治療が施されたが、2日後に脳死。そして事件から4日後に還らぬ人となった。彼の死後、逮捕者は出ていないそうだ。

 一時代を築いた名チャンプであったが、犯罪者である己を変えることはできなかった。

 レナード戦、デラホーヤ戦でトレーナーたちに「What Time is it?」と叫ばせ、「Macho TIME!」と応じながらリングに登場したシーンが忘れられない。アーロン・プライアーの真似だが、カマチョスタイルもファンのハートを掴んだ。

 また、晩年のトーマス・ハーンズの前座を務めた折には、計量時に長めのTシャツだけを身に纏ってやって来た。わざとしゃがみ込んでは自分の性器を周囲に見せ、笑い転げていた姿を思い出す。

 心は少年のままだったのか。だからこそ、ギャングとの抗争で命を落としたのか。

 それにしても50歳とは、早過ぎる死だ。

 

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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