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「200年に1度のボクサー」が語った内山高志の敗北

林壮一ノンフィクションライター
PfPでメイウェザー以上とも称されるプライアーと、その彼に挑んだ亀田昭雄

WBAジュニアウエルター級1位。日本同級チャンピオン、日本ウエルター級チャンピオンだった亀田昭雄。練習嫌いで有名だったが、日本王座はまったく危なげなく8度の防衛を重ね、具志堅用高以上の天才と謳われた。

2Rと短い攻防に終わった内山vsジェスレル・コラレス(パナマ)戦を再度振り返ってもらった。

「ゴングが鳴ってから、内山は相手を見過ぎというか、ゆとりを持ち過ぎていました。何度も防衛しているから『こいつなら勝てる』という思いがあったのでしょう。そういう心の隙があった。反面、コラレスはペース配分を考えずに、最終ラウンドみたいな感じで出た。内山は前半を凌ぐっていう作戦を立てていた。そんな時にクリーンヒットされた内山は、頭がボーッとなったでしょうね。本当に一瞬の隙なんですよ」

いつもは冷静な内山が、劣勢に立たされた際、前に出たのは何故だったのか? 

「コラレスは、あのペースでは後半までもたない、と分かったうえで敢えて短期決戦を選択していた。内山は中盤勝負の選手。とはいえ、ボクサーは効いちゃった時、『うわ、どうしよう』と焦りが出てしまうんですね。抱き着くか、逃げ切るかすればよかったんだけど、中途半端に打ち合うことをやってしまった。一番やってはいけないことだった。

内山は王者になって11回も防衛して、風格があったでしょう。クリンチできない、逃げることができないっていうのは、王者のプライドじゃないかな…抱き着いて時間稼ぎするべきだったんです。ファーストラウンドに不用意にパンチをもらうってのは、モチベーションの欠如だったんじゃないかな」

亀田昭雄は7戦全勝オールKOで日本タイトルを獲得。次の試合で東洋、そしてさらに次戦で世界タイトルに挑みたかった。しかし、ジムが組んだのは、日本タイトルの防衛戦。これでモチベーションを著しく下げてしまう。

「日本タイトル? 歩いて、走れて、普通に三半規管が働けば俺が負けることはない。なぜ、上を目指させてくれないんだ!」

と言いながら、遊び呆けていた。

「世界チャンピオンになると、ボクサーは一回り強くなるんです。気持ちが備わって来ますから。自信を持って相手を迎え撃てるようになる。内山も、これまではそうだったでしょう。でも、それに慣れてしまうと隙も生まれる。気持ちを持ち続けるのが、また難しい。内山が海外での防衛戦や統一戦を望んでいたのなら、実現させてやらないと。ボクサーがモチベーションを保つのは、本当に厳しいことなんですよ」

ワタナベジム、渡辺均会長と内山は、今後についてまだ話し合いを持っていない。間もなく、一度目の会話がもたれるそうだ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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