Yahoo!ニュース

2014年W杯でブラジルが優勝できない理由

林壮一ノンフィクションライター
6度目の優勝を目指す開催国ブラジルだが、隣国のライバルは穴があるという

「ベスト4までは行くでしょう。素晴らしい攻撃力ですから。でも…」

セルヒオ・エスクデロは優勝候補筆頭に挙げられるブラジルについて、話し始めた。

ROKU FCを指導中のアルゼンチン人コーチ、セルヒオ・エスクデロ
ROKU FCを指導中のアルゼンチン人コーチ、セルヒオ・エスクデロ

「ブラジルのサッカーというのは、とにかく攻撃重視です。けれど、攻撃を意識し過ぎていると言っていい。サイドバッグのマルセロ、ダニー・アルベス、あるいはアドリアーノは、いつオーバーラップするかを考え、タイミングを狙ってピッチに立っていますよね。がんがん、上がるでしょう。成功する時はいいけれど、ボールを奪われたら非常に危険ですよ。

対戦相手としては、サイドバックが上がって空いたスペースを突くことが鍵となるでしょう。残るセンターバックが対応し切れない」

そしてと、一呼吸置いた後、エスクデロは続けた。

「センターバックのダビド・ルイスですが、崩しやすいように思えます。確かにヘディングは強いけれど、スピードがない。足が遅いんですね」

プレミアリーグのチェルシー、またブラジル代表の主軸として活躍中のダビド・ルイスは、現在、世界でもトップレベルのセンターバックと見受けられるが、エスクデロ曰く、「過去のブラジル代表CBより劣る」。

「もちろん、ヨーロッパで活躍している一流選手ですから、素晴らしいものはある。でも、ワールドカップで勝ち上がるチームのCBとしては物足りない。スピードがないから、カバーリングに難が見られます。アルゼンチンの攻撃陣なら、あっさり抜き去ると思いますよ」

188センチの長身、長髪をなびかせていつも献身的な働きをするダビド・ルイスは私の好きな選手でもあるが、アルゼンチンでの評価は高くないようだ。

「今回、ブラジルは開催国です。たたでさえメディアは辛口なのに、ホームとなれば内容も問われる。たとえ4-0で勝利しても、いいサッカーをしなければいけない。ミスを叩くのがブラジルのジャーナリズムです。となると、どうしたって、彼らは攻撃のことをさらに考え、守りが手薄になる筈です。

正直、あのレベルで、弱い点っていうのは見つけるのが難しい。でもワールドカップという戦争の場では、ほんのちょっと、数センチの差が命取りになるんですよ。元々、守備のことをあまり考える国民じゃないですが、今回は特にGKとCBがウィークポイントになるように映ります」

エスクデロの実兄、ピチ・エスクデロは1979年のワールドユース東京大会でマラドーナとともに世界王者となっている。その息子であるダミアン・エスクデロは、現在ブラジルでプレーしている。グレミオ、アトレチコ・ミネイロ、ビクトリアと渡り歩き、今シーズンは3季目を迎える。ダミアンの試合ぶりやチームの戦術からも「攻撃ばかりで守備が薄くなっていること」を実感するそうだ。

「今のブラジルなら、アルゼンチンは絶対に勝てますよ。我々のFW陣は、ブラジルのDFを崩せますね。兄、甥っ子ともいつもそんな風に話しています」

エスクデロはそう言って、少年のように微笑んだ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事